2-2 エレノア 試験会場
すごい人数ね!
エレノアは、目の前に並んでいる席の多さに驚いた。試験は大ホールで行われるのだが、彼女が試験を受ける席は会場のほとんど最後列だった。はるか向こうに演台のようなものと、スクリーンが見える。まるで大きなコンサートホールのようだ。
こんなところで授業をされても、聞き取りにくそうね……。
「エレノア!」
後ろから大声がした。振り返ると、列車で一緒だった男(たしか、アンゲル、そうだ、天使がどうとか言ってたっけ)が、半ば小躍りして手を振りながら近づいてきた。
しかし、エレノアの視線は彼ではなく、その隣の少年に釘付けになった。
なんて美しい子なの!
肌が雪のように白く、顔立ちが整っているのにどこか、目のあたりに普通の人間ではないような揺らぎが見える。顔を伏せているのでよく見えないが、目の色が無色に近いくらい薄いことがエレノアにもわかった。瞳孔の黒い点がはっきりと見える。
この子の方が天使みたい……。
「君も試験を受けるんだね」
アンゲルがにこやかにそう言った。
「そうよ」エレノアは、半分夢を見ているような顔でアンゲルに答えた「そちらは?」
「あ、えーと、こいつは、エブニーザ。同じ部屋なんだ」
アンゲルがエブニーザを見たが、エブニーザは真っ青な顔で下を向いている。
「おい、あいさつくらいしろよ!」
「いいのよ別に!試験前だから緊張してるんでしょ?」
エレノアは妙に優しい声でエブニーザにそう言ったが、全く反応がない。
「違うんだ。人前に出るのが怖いって、部屋から出てこなかったんだよ。だから俺とヘイゼルで無理矢理……」
「ヘイゼル?」エレノアが怪訝な顔をした「ヘイゼル・シュッティファント?」
「そうそう、あの悪名高きシュッティファントだよ。まあ、俺は昨日初めて知ったんだけどさ、名前とあの性格を」
「知り合いなの?」
「残念ながら、俺とエブニーザは奴と同室だ」
「ええっ?」
エレノアが驚いていると、後ろから年配の女性が二人近づいてきた。二人とも、イシュハ・ヴァイオレッドのスーツを着ている。
「そろそろ席に着きなさい。試験が始まるから」
女性がにこやかにそう言いながら、エブニーザを前方の席に押して行った。エブニーザは不安そうに、たまにアンゲルの方を振り返りながら、最前列に近い席まで歩かされていた。
「あの人たち、何?」
エレノアは歩いていく三人を見ながら、あの子と話したかったのになあと残念に思った。
「カウンセラーさ」アンゲルが疲れた顔をした「ちょっと事情のある奴で、精神不安定なんだ。だからカウンセリングに通ってる」
「そう……」
どんな事情があるんだろう?エレノアは気になった。ああ、試験前なのに!
「俺もそろそろ行くよ」
アンゲルは満面の笑みを浮かべると、前の席へ歩いて言った。
あの二人がヘイゼル・シュッティファントと同室……。
ああ、どうしよう、フランシスは関わるなって言ってたのに。
でも、気になるわ。どうしてあんな綺麗な子がこんなところにいるんだろう……?特殊な事情って何だろう……?どうしてあんなに目が真っ白なんだろう?もしかして、盲目?でもふつうに歩いていたし、試験だって……。
エレノアは、試験と全く関係ないことで悩み始めた。




