7-4 アンゲル エレノア クー フランシス
アンゲルは、会場の隅で、高名な心理学者が、一人でワインを飲んでいるのを見つけた。
声をかけようか……でも、俺ってただの学生だしな……。
アンゲルが声をかけようかどうしようか迷っていると、クーが現れて、アンゲルを学者のところへ引っぱって行き、
「私の友達ですの」
と紹介してくれた。アンゲルは喜んだが、クーは去り際に、
「借りはきっちり返してもらうわよ」
と言い残して去って行った。
そのころ、ようやく『フランシスの元ルームメイトたち』から解放されたエレノアが、会場をうろうろしていると、学者とうれしそうにしゃべっているアンゲルを見つけた。
アンゲルにとっては、パーティーも勉強する所なのかしら……。
「誰かを探してるの?」
エレノアがふり返ると、そこには、イシュハ・ヴァイオレッドのスーツを着た男性が立っていた。上品な顔立ちで、エレノアの好みにはわりと近い。
「友達よ」エレノアが、にっこりと笑いながらアンゲルの方を指さした「取り込み中みたいだから、いいの」
「シグノーの友達なんだって?」
「どうして知ってるの?」
「うわさになってるよ。君みたいな綺麗な人が、あんなヒステリーと友達なんて信じられないってね」
エレノアの顔から笑顔が消えた。
「悪いけど、失礼するわ」
エレノアはその場を去ろうとしたのだが、
「待って」
腕をつかまれた。
そこへクーが、にやにやしながら近づいて来た。
「あら、私のエレノアに何をしているの?」
男性が『ノレーシュの姫君』に驚いて、引き下がった。
クーは、まだ学者としゃべっているアンゲルを、白けた目で見やった。
「残念ね。お目当ての男性が取り込み中で」
「そういう言い方やめてよ」
「ちょっと来て」
エレノアはクーに引っぱられて、会場の外に出た。
そこにはクーの、黒塗りの高級車が停まっていた。
「二人で脱走しましょう。おもしろくもないでしょ?」
「でも……」
「エブニーザも来てないし」
「来てないの?」
「早朝に起きて脱走よ。指導したのは私だもの」
「えっ」
エレノアが露骨に嫌な顔をした。
「そんな顔しないでよ。早く乗って、ほら」
エレノアが車に乗ろうとした時、突然フランシスが飛び込んできて、
「早く出して!!」
とヒステリックに怒鳴った。
車は走り出した。
エレノアが後ろを振り返ると、ヘイゼルらしき赤い服の男の姿が見えた。
「何があったの?」
と聞くと、フランシスは訳を話さず、いつものようにすさまじい勢いでヘイゼルの悪口を言い始めた。
「冗談じゃないわよ!品性のかけらもないわね!礼儀ってものを知らないのよ!」
「いつものことじゃないの……パーティの恒例行事よね、あんたたちのケンカって」
クーは楽しそうに軽口でからかっていたが、エレノアは、ヘイゼルが可哀相だなあと思った。そして、フランシスにしようと思っていた『どうしてあんな人たちと付き合うの?』という質問を忘れてしまった。




