5-27 エレノア フランシス 白ひげ
フランシスはヘイゼルの別荘を、自分の家のように堂々と使っていた。使用人たちも慣れたように、フランシスを主人として扱っていた。
エレノアは、そんなフランシスと使用人たちに驚きながらも、館内が急にがらんと広く感じられ、寂しくなってしまった。
エブニーザ、どうしてあんなに私を嫌ってるんだろう?
それにアンゲルも、急に帰るなんてどういうこと?
フランシスはワイン貯蔵庫を勝手に開け、高そうなものを選んで勝手に飲み始めた。
エレノアは驚いて、
「勝手に飲んじゃだめよ!」
と叫んでワインをフランシスから奪い取ったが、ノノカやワインの管理人(そんなものまでいるとは!とエレノアは驚いた)は、
「フランシス様には好きなだけ飲ませろとヘイゼル様が」
と言うので、呆れてしまった。
「つきまとわれたくないって言ってたじゃないの!どうしてこんな甘えるようなことをするのよ?」
「甘える?冗談じゃないわ。気持ち悪いこと言わないで頂戴。お互いに利用し合っているだけ」
フランシスがあっというまに3本もワインを開けたので、エレノアは、
もしかしてアルコール中毒なんじゃ……。
と不安になり、飲むのをやめるよう言ったのだが、当然フランシスは言うことを聞かない。
フランシスが酔いつぶれて眠った頃、なんと、あの白ひげがふたたび戻ってきた。
エレノアが、
「私は飲むなって言ったんですよ!」
とあわてて弁解すると、白ひげは無表情でこう言った。
「わかっております。本当に困ったお方だ。よくお嬢様と同じ部屋に住めますね。その忍耐力に敬意を称しますよ」
それはとても嫌味な声だった。
「この方は生まれつき精神を病んでいましてね、みな手を焼いているのです。何かあったらここにご連絡を」
白ひげは、名刺(ゴノ・フレウルと書いてある)をエレノアに渡し、使用人に『ワインを隠せ』と命じて去っていった。
エレノアは、名刺を服の中に隠した。使う日が来ないことを祈りながら。
「フランシス!起きて!もう寮に帰りましょう!」
フランシスをゆすって起こそうとしたが、深く眠りこんでいるのか、起きなかった。
使用人がやってきて、フランシスを担ぎあげた。
運ばれていくフランシスを見ながら、エレノアは悲しげな眼で考えた。
もしかしたら、フランシスも、エブニーザと同じで、目覚めないほうが幸せなのかもしれない、と。




