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喪女が異世界移転したらイケメン勇者にモンスターと勘違いされました

作者: 花園茉莉

 

 トラックが目の前まで迫ってくる。

あ……これは助からない。私は目を閉じた。

21歳か短い人生だったな。お父さん、お母さんも先立つ不孝をお許しください」

大会で優勝したかったな、日本代表に選ばれたかったな。

そして何より……一度でもいいから好きな人と両思いになりたかったな。






真っ暗な世界から瞳を開くと一面に木々が生い茂っていた。

起き上がりあたりを見回してみても、視界に入るのは大きな木ばかりで人の気配が全くない。

えっと、私、トラックに()かれそうになった女の子を助けようとして、轢かれた……よね?

ここはどこだろう、死後の世界かな。

家族や友達、柔道部のみんなともう会えないのは辛いよ。


思えば食べるのが大好きで肥満体型になって小学校時代いじめにあって、中学に入るときなぜか、痩せるという選択肢ではなくこの体型で有利なことをしようと考えて柔道部に入ったんだっけ。


そんな理由で始めた柔道だったけど、いつしか毎日の食事と同じぐらい楽しくなっていった。

高校3年生のときに高校選手権で優勝。現在は大学の女子柔道部主将。

現在と言っても死んじゃったわけだけど……初めての国際大会が2週間後だったのに。

厳しい指導や辛い練習もたくさんあったが中高大、すべて素晴らしい仲間に恵まれて幸せだった。

だがしかし!! 柔道に熱中しすぎたのと、171cm/79kgという体型もあって恋愛にはからっきし縁がない。


一度だけ本当に好きになった高校の同級生だった菅井(すがい)くんとは違う大学に入っても2人会うほど仲がよかった。このままもっと距離を縮めていきたいと思った矢先に菅井くんが好きなのは、私の友達で小さくてかわいくて優しい子だった。


というか、恋愛以前に、周りからは全く女の子扱いされてない。

ちなみに、ニックネームは伊藤兄貴。

女の子見てくれているのは、お父さんとおじいちゃんくらい、パリピな弟からはゴリラと呼ばれている。


――感傷に浸っていてもしょうがない。

独りぼっちも嫌なのであてもないが歩き出すことにした。


しかし、歩けども、歩けども、鬱蒼(うっそう)とした森が続き限りで先が見えない。

疲れるし、のども乾く。死んでいるはずなのに。

しだいに眩しいぐらいに照らしていた太陽が見えなくなり、空が茜色にそまり始めた。



だが、柔道部で鍛えた持ち前の体力とガッツで歩く、歩く。

だんだん夕焼け空が暗くなり始めるるが、風と私が歩く音しか聞こえない。

このまま夜になってしまったら……。

こころの中が不安にあふれそうになった。



ぐる~ぐ


……どんなに状況でもお腹はすく。これは自然の摂理だ!

と無理くり自分を納得させる。

一度、空腹を自覚してしまうとご飯が食べたくて仕方ない。


「お腹が空いて力が出ない」


ついに、歩く気力がなくなり、大きな木にもたれかかる。


「私はこんなところで2度目の死を迎えてしまうのか……餓死だなんて。この世は残酷だ」

絶望しうつむいていた。


「大丈夫か?」


鈴が鳴るような凛とした声が聞こえる。

ランプを持った青年が立っていた。

その姿はランプの明かりだけでもわかるほど端正な顔立ち。

私は思わず見とれてしまう。


「何だ?」


「いやっ、何でもないです。あの、ここはどこですか」


こくびを傾げ聞く姿にどきまぎして目を逸らす。


「ここは虚無の森。この森はどの種族も歴戦の猛者しか入れないはずだが…… 君も魔教皇(まこうきょう)を倒しに修業しに来たのか?」


どの種族も?? 歴戦の猛者? まきょうこう??

目が覚めたらこの森の中にいました。としか言いようがない。

どうしよう、適当に話を合わせるか、信じてもらえないかも知れないけど正直に話すか……


「昨日まではまったく違う場所にいていろいろあって。実は目が覚めたらここにいました。ここがどこですか」


正直に言ってみた。

青年は考えこむ素振りを見せた。


「……虚無の森でだれとも会ってないといったな、もしかすると導師に化かされたのかもしれないな」


……信じてもらえてない。まぁ当たり前だよね。

導師って何?? わからないことだらけだよ。

これからどうしていけばいいんだろう。



ぐる~


またしても、シリアスな雰囲気をぶち壊すお腹の音。

前は一人だったからいいけど、今回は異性の前だからこれは恥ずかしい。


「いや、あの、これは……!!」


「腹が減っているのか」


「はい……」


へこみながら力なく答える。


「個々の森を第四の方向にでると俺が滞在している宿場町がある。一緒に来るか」


「はい! 行きます」


正直に申し上げますと、この展開を望んでおりました。

この森からも出られるし、待望のごはんにもありつけるのだ!!

お金は持ってないけど、ごはんのためなら皿洗いや重労働だってどんとこい!!!


「あ、そうだ。お名前なんていうんですか? 私は伊藤桃花(いとうももか)です」


「イトウモモカ? 変わった名だがいい名前だな。俺はシャロン」


私の方を向いてふっと微笑む。その姿に思わず目を逸らしてしまう。


私たちは暗い森を歩いて行った。


「あの……シャロンさん」


「すまないが、“さん”とは何だ」


この世界? では敬称は使わないのかな。

大体は言語は伝わるのに、第四の方角といい、微妙にわからなかったり伝わらなかったりする言語あるみたいだ。

本当に導師に化かされて21年間の生涯が幻とさえ思えてくるよ。

いやいや、そんなはずはない!! 食べ物と柔道に生きた人生は決して幻なんかであるもんか!!


「どうした。自問自答しているようだが」


「だ、大丈夫です。さんというのは名前の人物に敬意を表した言葉です」


慌てて“さん”の意味を伝える。


「それは嬉しいな、ありがとう。イトウモモカ」


「えっと、イトウモモカって言いづらくないですか。イトウかモモカでいいですよ」


「イトウとモモカどちらの方がいいのだ」


「そうですね~。 イトウは大半の人がこう呼びます。モモカは家族や友人など親しい人が呼ぶ名前ですかね」


「そうか、ではイトウと呼ばせてもらおう」


「はい、よろしくお願いします」


話しているうちに真っ暗な森から突然、市街になった。


「わっ、なんだこれ? さっきまで森だったのにいきなり街に!?」


「虚無の森は導師が作り上げた異次元空間だ。正しい道順と強い心があれば抜けられる」


「そうなんですか」


訳もわからぬうちに市街に到着した。灯篭とガス灯が優しく照らしている。

建物は木造建築物で平屋が多い。物語に出てくような街並みだ。


見たことのない風景に目をキョロキョロさせていると


「着いたぞ。ここが食事を提供してくる処だ」


そこは何の変哲もない平屋だった。看板もなく、普通の家と変わらない。

シャロンさんがドア開ける。


「あら、いらっしゃい。勇者シャロン」


ゆ、勇者!? シャロンさんは勇者なの?


私と同じくらいの年齢のとても可愛らしい女性が私たちを出迎えた。


「あら、その方は?」


「迷い人だ。歩き疲れて空腹らしい。食事を出してくれ」


「ええ、少し待ってて」


女性が奥に向かう。古びたテーブルとイスに私たちは座った。


「あの。さっき勇者って言ってましたけど……」


「ああ。魔教皇を倒すために選ばれた者のこと勇者と呼ぶらしい」


本当にファンタジー物語の世界だな。イケメン勇者だなんて。


「はい、持ってきましたよ。どうぞ」


女性が大きな器を持ってきた。


「さあ、来たぞ。たくさん食べていい」


「ありがとうございます。って、え?」


出されたのは大量の果物のような、木の実のような、よくわからない丸い物体。

これがこの世界の常食なのか。だが、出されたものは美味しくいただく。

それが私のポリシー。


「いただきまーす」


バクっと口にふくむ。広がるのは果物の甘い果汁ではなく。こってりジューシーな肉汁だった。


「美味しい! ハンバーグみたい」


「ハンバーグとはなんだ」


バクバクと頬張る私にシャロンさんが聞いてきた。


「ハンバーグというのはお肉をミンチにして固めて焼く料理です! 大好きなんです」


ハンバーグの美味しさが伝わるように、若干テンション高めに話す。

だが私とは裏腹に二人の顔がこわばっていく。


「ど、どうしたんですか? なにかお気に障るようこと言いましたか、ね?」


すると女性がいきなり持っていたお盆を私に投げてきた。

とっさに避けることには成功したが突然のことで頭の中はプチパニック状態だ。


「肉を食べるなんて。悪鬼!! 魔教皇の手下ね!! 私たちも食べるつもりでしょ」


大声で叫んで錯乱する姿に私はただ呆然としていた。

混沌とした状況の中シャロンさんが


「イトウの種族は肉を食べるのか?」

とシャロンさんが問いかける。


「はい。食べます」


「リーファ、少し落ちつけ。俺の話を聞いて欲しい」


シャロンさんが女性、リーファさんの肩を抱いて落ち着かせる。数十秒ほどの沈黙の後、少し落ち着いたようでイスに落ちるようにすわった。


「イトウ、君と初めて会ったとき、“違う場所にいて目が覚めたらたらここにいた”と言っていたな。俺は導師に化かされたと思っていたが、もしかすると導師が異世界から招いたのかもしれない。書物で読んだことがある、世界が終末の危機に瀕したとき異世界から救世主が現れた。と」


世界の終末? 異世界からの救世主??

本当に返すも返すも言うがわらない。感情が、理解がついていかない。


「突然のことだ、無理はないだろう」


シャロンさんが私をなだめるように言う。

こころのなかの言葉が声に出てしまったようだ。


「無常山にしるされた碑には、かつてこの世界は一度終末をむかえ、文明は滅びかけた、いろんな種族同士がお互いの肉を食い争い、荒らしすえにだ。

だが完全なる無にあることはなかった。なぜなら救世主が現れたからだ。救世主は二度と争いが起きぬよう無常山の木々にいろんな味の実をならせた。無常の実以外の生物を傷つけぬように。と記されてある」


シャロンさんは続けて


「だが、ここ数十年で無常山の木々たちが徐々に枯れはじめてきている。いろんな手を尽くしたが未だに解決方法は見つかっていない。そんなときにある種族の長だった魔教皇が肉を食い争うべきだと主張するようになった。種族の肉を食らうようになった。俺は魔教皇を倒す任務に選ばれた一人だ。」


そして


「イトウ、君はこの世界の救世主だと俺は思う」


と締めくくった。


「救世主ですか? 私が?!」


「ああ。おそらく」


「ちょっと、待ってよ。救世主が現れたってことは終末にかって。ほとんどの生物が死に絶えるでしょ。嫌よ。そんなの!!」


リーファさんがまた錯乱し最後は気絶してしまった。


「大丈夫ですか」


私がリーファさんに駆けよろうとした。そのとき。


木の板が割れるような、けたたましい音が室内に響き渡る


「え、何?」


ドアを蹴破り現れたのは耳のとがった長髪の美形の男。

その後ろに人型の豚と人型の鳥のような者がいた。


「やっと会えたな。勇者シャロン。魔教皇様の命で征伐する」


「者ども、やってしまえ」


そう言い残すと、長髪の男は消え、豚型と鳥型が一斉にシャロンさんに襲いかかる。


私はいきなりの出来事でなかった。柔道部なのに。

しかし、突然の襲撃にもかかわらずシャロンさんは二人がかりも全く苦にせず華麗にいなしていく。


すごい、間合いの取り方、流れるような身のさばき、どれをとっても一級品だ。

と柔道家目線で見てしまう。


そしてあっという間に二人を倒した。


「ちょっと待ってくれ。命だけは助けてくれ」


豚型が命乞いをする。


「俺たち魔教皇に脅されてやっただけなんだ。勘弁してくれよ」


鳥型が情に訴える。


「それはできない。俺にはこの世を守る使命がある」


脇差を持ちながらシャロンさんが言う。


「殺生を行うのならお前も魔教皇と同じじゃねぇか」


口をそろえて言う。


「っ……!!」


シャロンさんが一瞬動揺したすきに豚型は気絶しているリーファさんを捕らえ、頸動脈

「動くな! 動くとこの女の命はねぇぜ」

 

ゲスな笑い声が響き渡る。


「女を助けてほしくば、大人しく縛られろ」


鳥型の命令にシャロンさんは大人しく従い、体を縛られそうななる。

このままじゃ、シャロンさんが、助けなきゃ!!


「私を忘れては困ります。お相手いたします」


私は鳥型に向かって啖呵をきる。


「貴様一人で何ができる、肥溜めの醜女が!!」


……


「はい? 今なんて言いました?」


「あ、なに言ってるか聞こ……え!?」



思いのほかきれいな一本背負いが決まった。

人に言っていいことと悪いことがある。

柔道部主将なめるなよ。ざまあみろ。

鳥型は目を向いて気絶している。死んではないと思う。多分。

おどろおどろしい見た目のわりに案外弱いのか。


「なんだと!?」


豚型が驚いている隙にシャロンさんがリーファさんを取り戻す。


「さあ、どうする」


シャロンさんがドスの利いた声で豚型に問いかける。


「お、覚えてろー!!」


豚型は勢いよく走って逃げていった。


「良かった。助かった」


張りつめていた緊張がとけて私はその場にへたり込んだ。


「大丈夫か」


シャロンさんがしゃがみ込み私に目線を合わせ、肩を持った。


「イトウがいなかったら、危なかった」


先ほどの表情とはまるで違う、やわらかい笑顔を向ける。

至近距離で見つめ合うだけでもドキドキなのに、こんな笑顔反則だ。

多分、顔真っ赤だろう。ブサイクな顔がさらにブサイクに……

というか、シャロンさん、私より確実に小顔だ。


ドキドキやら自分のブサイクさに悶絶してうつむき、声を出せないると


「どうした。どこか痛いのか」


シャロンさんがのぞき込む。


「大丈夫です! 元気モリモリです」

とまたも訳のわからないことを言ってしまった。



「さて、イトウはリーファを寝室に運んでくれ」


シャロンさん言葉に倒れているリーファさんと鳥型のことを思い出す。

すっかり頭から抜け落ちていた。


「はい、わかりました。あの、どうするんですか」


リーファさんを抱きかかえながら、目を向いている鳥型を見る。


「これを装着する」


シャロンさんはそう言うと、手錠のようなリングを鳥型の両手に装着した。


「これは、装着した者の命を聞かないと痛みが走る。神具(しんぐ)縛痛輪(ばくつうりん)


「神具? 縛痛輪?」


「救世主がこの世を救うさいに使用したとされる千八十の道具だ。」


「殺生は絶対にしない。さっきこいつらに言ったのはあくまで脅しだ」

とシャロンさんは続けた。


リーファさんを寝室に運び。私たちもここで夜を明かした。


「朝だぞ、イトウ」


「ん。あ、シャロンさん? おはようございます」


夢ではなかったか。やっぱり。


「イトウ、お願いがある」


シャロンさんが矢継ぎ早に言う。


「な、なんでしょう」


脊髄反射でこたえる。


「俺と旅をともにしてくれないか」


「え!?」


シャロンさんが私に頭を深々と下げる。


「顔を上げてください。わかりました。私はシャロンさんに助けられました。だからこんどはシャロンさんの力になりたいです」


「礼を言う」


シャロンさんはそう言って静かに抱きついた。


え!? え!?

昨日今日で何回目かの大混乱におちいった。


「また顔が朱いぞ、具合でも悪いかの」


「違います。急にその、抱きしめられたから……驚きました」


「すまない、驚かせてしまって。俺の故郷では最大限の感謝の返礼なんだ。 では、今からこの街を出て都に向かう」


少しばかりの仕度をして長屋から出る。


昨夜、破られた扉は不自然ではあるが完全にふさがれていた。


「イトウ。勇者から聞きました。私を命がけで助けてくれたって。ごめんなさい。昨夜はひどいことを言ってしまって」


「いえいえ」

「お詫びのしるしにどうぞ」


大きめのふろしきを渡される。中には大量の無常の実が入っていた。


「ありがとうございます。おいしくいただきます」


わーい。こんなにたくさん嬉しいな。食べものは世界を救う。


「準備はいいか」


「あ、はい」


シャロンさんも長屋から出てきた。鳥型も一緒に。


「都までこいつを連行する」


「けっ、ぜってぇいつか食らってやる」


不貞腐れた表情をして、小声でつぶやいた。


「なにか言ったか」


「いえ、なにも言ってません。だから止めてください」


シャロンさんの言葉に一転して弱気な声になった。

なにか相当恐ろしいことでもあったのだろう。


「イトウ。俺は救世主であると確信している。碑には救世主はこの世の種族とも違う丸みをおびた顔つきをしていた。という。君のようにな」


え……


それって


私、救世主という名のモンスターと思われてるよ!!


軽く絶望していると。


「では、行こうか“モモカ”」


「あ……はい!!」




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