淫乱処女惑星~肉色の重力波~
岩と砂と申し訳程度のサボテンしか無い荒野の真っ只中、俺は宇宙服のヘルメットを脱ぎ、死ぬ時に吸おうと思い隠し持っていたマルボロの先端に火を付けた。本来隣りにいるはずの相棒のキースは衝突のショックで死んでいた。その辺のサボテンが彼の体を貫いているのだから、多分このサボテンはサボテンによく似た何かなんだろう、などとタバコを吸いながら考える。
キースは馬鹿なやつだったと、目を閉じて思い出に浸ってみる。「いいかコージ、俺達のミッションは暗黒銀河帝国軍のアジトに爆弾を届ける事だが、それはあくまで仮の仕事だ。本当はどこかにあるという淫乱処女惑星……そこで子供を増やす種馬なんだよ、俺達は。肉色の重力波に惹かれた日には、朝から晩まで淫乱処女と淫乱三昧……だから食料を山ほど積んで、こうして当てのない宇宙の旅に勤しんでいるってわけさ」
ちなみに俺達はピザ屋である。「どんな惑星でも15時間でお届け! 西海岸の味を夏の大三角形へ」がキャッチフレーズのピザ・ユニバースのロゴマークが、もたれ掛かっている宇宙船の破片にしっかりと書いてある。まず西海岸ってどこだという長年の疑問は、とうとう叶えられる事はない。宇宙船は大破して、通信機能は使えない。急にハンドルが取られたなどという免許取り立てのガキでも言わないような言い訳が、こうして俺を最後のタバコにありつかせたというわけだ。
「……ねぇ、おじさん一人なの?」
不意に、朗らかな少女の、いや幼女の声が聞けこえた。振り返るより先に俺がしたことと言えば、目を閉じてタバコを強く吸い込むことだけだった。口の中に広がる苦味が、俺がまだ正気だと言うことを証明してくれるような気がしたからだ。
「さっきまで二人だったんだがな」
言葉を発せられたのは、どうせこんな荒野に誰も居なくても独り言で済む話だったからだ。振り返って、その顔を見るよりも早く。
俺は抱きつかれていた。
「じゃあ、わたしと一緒だね!」
俺の宇宙服を強く握りしめていたのは、鈍色の髪の毛をした小さな女の子だった。荒野には似つかわしくない黒いワンピースに、肩までかからないくらいのショートヘアー。顔を上げれば満面の笑みを浮かべる、小さな女の子がいた。
「一緒なのは良いんだが、ここはどこだ?」
「淫乱処女惑星だよ」
「……マジか」
あったのか、淫乱処女惑星。喜べキース、お前の夢は今叶った。暗黒銀河帝国軍はこの宇宙ひっくり返しても見つからなさそうだが、もっと無さそうな淫乱処女惑星はここにあったぞ。
「そしてわたしが最後の生き残り。他の皆は暗黒銀河帝国軍との戦争で殺されて……」
そっちもあったのか。ピザの配達圏内にそんな阿呆みたいな名前をした軍隊があるなんて大発見だ。だいたい戦争ってのは自分のことを正義だと思い込むものだから、わざわざ暗黒なんて名乗るような輩がいるとはとてもとても。
「おじさん、きいてるわたしのはなし?」
「いや、聞いていなかった」
「そう、じゃあもう一回言うね」
彼女は俺から少し離れて。やっぱり笑顔を浮かべながら、深々と俺にお辞儀をする。
「おねがいします、いっしょに赤ちゃん作って下さい!」
――流石淫乱処女惑星。思わず俺はタバコを落としてしまう。こう淫乱ってのはとにかく肌を露出させておっぱいでビンタしケツでチェスを刺すような連中だと思っていたが、こうやって正々堂々と子作りの提案をされるのも中々に淫靡であった。
だが、その願いは敵わない。理由はたった一つだけだ。神は連れて行く男を間違えたのだ。死ぬべきは俺、生き残るべきはキース。配達中のサイドメニューのポテトをくすねようとシートベルトを外したばっかりに、無様にもサボテンが突き刺さっている男こそが、この星の救世主だったのだ。
「すまん、俺はホモだ……ちんちんがついている相手じゃないと欲情しない。すまない……」
幼女の動きが止まった。すまない淫乱処女惑星の最後の一人よ、ここに不時着した男の家のパソコンのDドライブには女装なんとかとか男の娘なんとかとかぼくのなんとかとかそういうのしか無いのだ。本当にすまない、生き残るべきはキースだったのに。
「ちんちんって……これのこと?」
――神は、間違えてなどいなかった。真っ黒いワンピースをたくし上げられた先にあるのはちんちん。ω。あと∪。ω+∪=おじさんの∪が∩になる。
「……アナル処女最高!」
こうして暗黒銀河帝国軍をクソまずいピザで壊滅させた、人類最後の英雄コージ・ロズベックの伝説が幕を開けたのであった。あと膜も開けた。
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