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9. 享子の変化

「キョーちゃん。最近ツメやってないよね?」

「…そうね。なんか面倒でね」

享子はまたいつものように由子と会社の食堂で昼食をとっていた。

「そうだ、靴もなんか違うような…」

「あ…そ、それはイメチェンよ!」

「え?そうなの?」

「うん…」

由子に言われて、享子ははじめて自分の異変に気づいた。

(そういえば、私どうしたんだろう…。なんで爪とか靴やめて大丈夫でいられるの…?)

気づけば、確かに最近付け爪をやめていて、ヒールの高い靴も履かないでいる。

なぜ急に自分が変化したのか、享子はわからず首をかしげた。




「こんにちは、お邪魔します」

「……」

次の休日。隆頼は暢気ににこにこと、いつもと同じお昼過ぎに享子のアパートへやって来た。

享子は毎度変わらずムスッと何も言わず、一応隆頼を部屋へ招き入れる。

あの再会した日から、毎週休日になると隆頼が享子の部屋に押しかけてくるようになっていた。

ただ隆頼は部屋に来ても、告白の返事を急かすわけでも、迫るわけでもない。何をするでもなく、自宅のようにのんびり過ごして、夕飯を食べて帰るだけだった。

「…はい、コーヒー」

享子は部屋のテーブルにカップを置いた。

外はもうすっかり冬を思わせる寒さになった。だから、享子は熱めのコーヒーを用意するようにしていた。

隆頼は上着を脱ぎながら、いつものようにテーブルの前に座る。

「ありがとうございます。…最近思ってたんですけど、用意早いですね?」

「…っ!」

バシッ

「うっ…」

享子はカッとなり、隆頼の身体をを殴った。

事前にコーヒーの準備をしているのを感づかれ、まるで歓迎しているみたいだと気付いて、享子はおもわず手が出てしまう。

「うるさい!…ヨリさんそれ飲んだら、もう帰ってよね!」

「でもまだ来たばっかりですよ?」

「だいたいなんで休日は毎回ウチに来るのよ!」

「やっと聞いてくれましたね。キョーコちゃんと一緒にいたいからですよ。それに部屋に上がるの駄目とは言わないし、遠慮する仲でもないからいいのかなって」

隆頼はまた暢気ににっこり笑った。

「うっ…。もう好きにすれば!」

隆頼と会うたび、ちゃんと告白の答えを出してハッキリさせなければいけないと気持ちは焦るが、考えても自分がどうしたいか享子はわからないでいた。

(いや、その前に私はなんで律儀に毎回休日家にいるのよ!出掛けちゃえばいいのにっ…。でも、ヨリさんといるのはラクだから、嫌ではないのよね…)


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