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8. 隆頼の告白

チュンチュン…

「うーん…頭痛い」

見慣れた部屋のベッドで、朝日の眩しさと頭痛で享子は目覚めた。

「なんで…あ昨日飲んだんだっけ?今日は…土曜か、よかったぁ」

壁の時計を見ると既にお昼に近い時間だった。

(私、家にどうやって帰ってきたんだろう…)

享子は、昨日店から独り暮らしのアパートへどうやって帰ってきたか全く記憶がなかった。

(服も昨日のままだし、これはメイクもそのままかぁ…)

それを思うと寝ている訳にもいかず、享子は頭を抱えながら起き上がり、ベッドから足を下ろした。

ムギュ…

「うわ!何?!」

享子は何か柔らかいような、大きなものを踏んだ。

「うー…痛い。あ、キョーコちゃん、おはようございます」

ベッドの側の床には隆頼がうつ伏せになって横たわっていた。

隆頼は視線だけ上げると暢気に挨拶してきた。

どうやら踏んだのは隆頼の背中みたいだ。彼も昨日の格好のままだった。

「あれ…僕気絶してそのままここで寝てしまったんですね。すみません…あはは。うっ、起き上がれるかな…」

笑いながらも、彼はちょっと顔をしかめてゆっくりと起き上がった。

「…気絶?」

「あ、やっぱり覚えてないですか?お店でキョーコちゃん酔っぱらって、怒りだしてしまって…。それを止めたら、店じゃなけりゃいいのかって、ここまで僕のネクタイ引っ張って連れてきたんですよ」

隆頼は微笑みながらも、少々遠い目をした。

「まさか…」

「家に着いた途端、サンドバック状態でしたよ僕…。あはは」

隆頼の話を聞きながら、享子は青ざめた。

よく見ると、部屋の中がぐちゃぐちゃだった。

「うそぉ…もうホントにごめんなさいっ!ああ…やっちゃったぁ…ここ数年封印してきたのに!」

享子は頭をかかえた。

「…ハッ!やっぱり昨日付け爪を忘れたのがいけなかったのよ!」

「ツメ?」

隆頼は自分のすぐ側の床に転がった付け爪を拾った。

「あぁこれ?でもこれ何か関係あるんですか?」

「…うるさい」

「キョーコちゃん、スグに手足が出るクセ、治ってなかったんですね…ふふっ」

「笑うなんて、何よ!関係あんのよ!邪魔くさい長い爪付けて、拳握れなくしたり、足痛いし歩きにくい高いヒール履いて、踏ん張りにくくしたりして、無駄な好きでもない格好して強制しないと、今でも悪いクセが出ちゃうの!」

「やっぱりそうだったんですか。今のキョーコちゃんの格好、らしくないなって思ってたんです。笑っちゃったのは、キョーコちゃんが変わってなくて、嬉しかったからですよ」

「うるさい…、コッチは真剣に困ってるっていうのに」

「よかった…本当は変わらないキョーコちゃんにずっと会いたかったんです」

「…は?」

「僕、中学のとき剣道やめたんですけど、ホントはずっと続けていくつもりだったんですよ?だけど…引越してから勝てなくなって…」

「え?あんなに強かったのに?なんで!?」

「防御や避ける事が出来なくなったんです」

「え…?」

「実力は変わらなかったみたいですけど、どうしても体が自然に攻撃を受けちゃうんです。それじゃ絶対勝てないですよね?」

享子は信じられないという表情をしながらも頷いた。

「何度も直そうって思ったけれど、ダメでした。だからやめました」

「どうして…原因は?」

「そんなの最初からわかってます。引越す直前にキョーコちゃんに勝負をしてほしいって頼まれて、試合しましたよね?」

「あ、うん」

「…あの一発だけ受けたキョーコちゃんの攻撃。あんなのが来るとは思っていなくて…あれは痺れるほど強烈な攻撃でした。忘れられないです」

「…?結局私負けたけど?しかも、当事のヨリさんは最強だったし。一発だけでもキメてやる!って必死だっただけで」

「え?あはは、そうだったんだ。でも、その試合以来、あの感覚を求めて攻撃を体が自然と受けるようになったんですよ」

「…私のせいだってこと?」

「はい、キョーコちゃんがいけないんです」

「えぇ?そんな…」

隆頼は少し真剣な面持ちになった。

「ね、昔に言ってた僕の好きな女の子のタイプ、覚えてますか?」

「えーと…。僕より強い子が好きってやつ?当時女の子にモテ過ぎてたから、それを遠ざけるために言ってるのかと思ってた。本気だったの?」

「まぁ50%くらいね。僕より強い女の子、いないだろうって思ってたし、いてほしいとも思ってました。…でも、キョーコちゃんに一発キメられて、スゴい負けた!って思ったんです。完璧想定外の技だったから」

「……」

「だから、ずっとキョーコちゃんの事忘れられなかった。もう10年以上経っているし、いい加減忘れようって何度も思いました。けどやっぱりキョーコちゃんにまた会いたくて…。でも、もし会えてもキョーコちゃんが変わってたら、諦められるかもって思ってたんです」

「だから、声をかけなかったんだ。見た目が結構変わってたから…」

隆頼は小さく頷いた。

「だけど、キョーコちゃんが変わってなかったのを僕は知っちゃっいました。だから僕は諦められなくなりました。…キョーコちゃんが好きなんです」

「え…」

急な告白に享子はそれ以上言葉が出なかった。

「急に言われてもびっくりしますよね?久しぶりに会ったばかりですし…」

「……」

享子は突然の告白に何も考えられなかった。

「嬉し過ぎて暴走しちゃいました…あはは。…キョーコちゃんが困るなら、さっきのは忘れてください」

「え…?」

「せめて友人にさせてください。ずるいとは思いますが、どうしてもキョーコちゃんとまた仲良くしたいんです。僕の前ではキョーコちゃんの悪いクセ、我慢しなくて平気です。ため込むのはよくないから…。でもキョーコちゃんが僕の顔も見たくないなら…、もう…」

「……」

(なんでいきなりそうなるのよ…もうわけわからない…)

何もしゃべれないでいる享子に、隆頼は困った顔をすると、ゆっくり立ち上がった。

「…っ!」

享子は焦った。まだ何も自分の中で答えは出てない。隆頼に何も返事をできていない。

でも、ハッキリしているのは隆頼を嫌いじゃないという気持ちだけだった。

気づけば、隆頼は享子に背を向けて部屋の中を歩き出していた。

もう次の瞬間、享子は隆頼の背中の服を掴んでいた。

「…どうしました?」

「っ……」

享子は無意識の行動だったため、何がしたかったのかわからない。でも、隆頼が帰ってしまうと頭の片隅で思ったのは確かだった。

「あの、洗面所借りてもいいですか?顔を洗いたくて」

振り向いた隆頼はいつもの調子で暢気に笑っていた。

我にかえった享子は自分らしくない行動をしてしまった事に気づき、急に恥ずかしくなった。

隆頼から手を離すと側の引き出しからタオルを引っ張り出し、隆頼の顔へ投げつけた。


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