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13.享子の告白

「コーヒーも用意したし、一応部屋の片付けもしたのに…」

享子は壁の時計を見つめながら呟いた。

次の休日、享子は家で隆頼が来るのを緊張しつつ待っていた。

初めてキスをされた日、享子は隆頼に抱かれた。夜になってベッドで目を覚ませば、既に隆頼はいなかった。

そして今日、いつもお昼過ぎに来る隆頼は、もう3時になろうとしているのに来ていなかった。

休日前に享子が、会社で隆頼を見かけた時は普通に元気そうにしていた。なにか用事があったとかならいいが、病気とか事故にあっていないだろうかと享子は心配になっていた。

(そういえば、ヨリさんの携帯を知らない…)

今日はじめて、隆頼の携帯を知らない事に享子は気がつく。

結局、その日隆頼は来なかった。



そして、その日から隆頼は休日享子の家に来なくなった。

隆頼は自分のことをもう嫌いになってしまったのだろうか、あの日に何かで幻滅されてしまったのだろうか…、と考えると享子は胸がひどく痛んだ。

享子は隆頼に抱かれてやっと、彼を好きになっていたのだと気づいたのだ。

だが、会社で私的な話しは仕事の邪魔になってしまうかもと、享子は隆頼に声をかけられないでいた。

それに色々とはじめての事で、どんな顔して会いに行けばいいか享子はわからなかった。

平日会社で、元気そうな隆頼の姿を見ることができれば享子はそれで良かった。



だが、何週間か経ち隆頼が来ない日が続いても、享子は休日には家にいるようにして、隆頼が来るのを待ち続けていた。

享子の性格から考えると、驚くほど消極的な行動だが本人は気づいていなかった。

(やっぱり今日も来ないのかな…)

この日の休日も享子は隆頼を待っていた。

ピンポン

享子が呟いたあと、インターホンが鳴った。

「ハイ!」

急いでドアを開けると、ずっと待っていた隆頼が立っていた。

「あ!…これたんだ、こんにちは」

享子は隆頼に会えて嬉しさが込み上げたが、恥ずかしくて咄嗟に隠してしまい、普通の挨拶になってしまった。

「…こんにちは」

隆頼はというと、挨拶も元気がなく、いつもの暢気な笑みも消えていた。

「…ヨリさんどうしたの?とりあえず、あがって」

「うん…お邪魔します…」

隆頼は享子と目を合わせず、玄関へ入った。

「コーヒーでいいかな」

享子は部屋の中へ戻りながら聞いた。

「キョーコちゃん、今日はすぐに帰るから」

「え…?」

享子が振り返ると、隆頼は玄関に立ったままで靴も脱いでいなかった。

「キョーコちゃんに、ちゃんと言わないといけない事があったんですけど、携帯も知らないのに気づいて、今日は来ました」

「私に言うこと…?」

「この間は無理矢理に…、ごめんなさい!だから…もうここには来ません。話しかけたりも…しません」

隆頼は頭を下げた後、苦しそうに言った。

「なんで?」

享子は隆頼に近づき、うつむく顔を覗き込んだ。

隆頼は享子に気づくと、サッと顔をそらした。

「どうして?…私、別に怒ったりなんてしてないわよ?」

「だって、キョーコちゃん…会社で僕を避けてました」

「……!」

享子は心当たりがあった。

初めてをした相手だから、どうしても恥ずかしくて、会社では隆頼を遠くから見る事はできても、近づいたり目を合わせる事が享子はできなかったのだ。

「やっぱり、嫌、だったんですよね。僕の事怖くなっちゃいましたよね?」

「……」

隆頼は苦しそうに聞いてくる。

(違う、違う…!でも、私の行動でこんなにヨリさんを傷つけてたなんて…)

享子はもう気持ちをハッキリ伝えようと口を開いた。

「ごめんなさい!あの、会社でヨリさん避けちゃったのは恥ずかしくて…」

「……っ!」

隆頼は思ってもいなかった言葉に驚き、顔を上げると顔も耳も真っ赤にした享子がもじもじと話し出す。

「…私、ヨリさんとしたの…嫌じゃなかったの」

「…え?」

享子はさらに真っ赤になって俯いて話す。

「キスも嬉しかったし。嬉しいと思ったからヨリさんとしたんだ…。あの日、起きたらヨリさんいなかったから言えなかったんだけど…。私、ヨリさんのこと好きみたい」

「キョーコちゃん…!」

隆頼はその言葉を聞けただけで、嬉しさで舞い上がりそうだった。

「今日も朝から、ヨリさんのこと考えながらずっと待ってた。来てくれて嬉しい…。だから、もう来ないなんて言わないで…」

「キョーコちゃん。もう来ないって言ったのは、我慢ができないからなんですよ」

隆頼は俯いて言った。

「え?」

「この間…しちゃってから、キョーコちゃん見ると好きすぎて興奮して、理性が保てなくなるんです。またキョーコちゃんに迷惑をかけてしまうと思って…」

享子はガラにもなく嬉しさで涙が零れそうなる。

「いいよ…。ヨリさんにされて嫌なことなんてない…」

隆頼は嬉しすぎて享子を抱きしめた。

「キョーコちゃん、ありがとう好きになってくれて」

「うんん、私こそ…。それと、ヨリさんにはいつも笑っててほしいから…我慢しなくていいのよ?」

「キョーコちゃん、言いましたね。あとで文句言わないでくださいね!」

嬉しそうに言う隆頼には、いつもの笑顔が戻っていた。


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