1. 享子の悩み
格好よすぎて、困ってます。の続きになります。
困ってますシリーズの享子の恋のお話しです。
「う~ん…」
お昼休みに入った社内のデスクで、橋田享子は頭を抱えていた。
「橋田、昼飯行かないのか?」
「う~ん…え?」
声をかけられて驚いた享子が振り返ると、同じ課の男性社員が側に立っていた。
「あ、はい…」
言われて同期で友人の渋沢由子が待ってる事を思い出し、社食へ行くため財布をバッグから取り出す。
「早く由子のとこ行かなきゃ…」
「あ…橋田」
呟きが聞こえてしまったのか、その言葉に反応した男性社員は、途端真剣な面持ちになった。
(わ、やな予感…)
その少し照れたような表情で、享子は相手の言いたい事がわかってしまった。
しかし、相手は先輩社員なので逃げることは出来ない。
「橋田は渋沢さんと仲良かったよな?」
(ほら、きたぁー)
「はい、そうですけど…」
予想通りの言葉に、享子は内心げんなりしつつも正直に答えた。
「俺、渋沢さんとずっと話してみたいと思ってたんだよ。橋田、飲みとかセッティングできたりしない?」
「すみません。あの子お酒嫌いですし、人見知りするので、ちょっと…」
相手のお決まりな言葉に嫌気が差しながらも、ここ最近で何回目かになるセリフを享子は言った。
「そうか…」
先輩社員は残念そうに呟いた。
「すみません…。では、お昼行ってきます」
相手が言い淀むを見て、享子は素早く会釈するとそそくさとその場を離れた。
通路に出ると、相手がしつこくなかったことにホッと息をつく。
(誰があんたなんかに由子を紹介するもんですかっ!)
享子は社食に向かってカツカツ歩きながら心の中で毒づく。
(でもさすがにこれはちょっとマズイわよね…)
すぐに現状を再確認できたことで、先程よりも余計に頭を抱えてしまう享子だった。
季節は秋に入り肌寒くなってきたこの頃、享子は困っていた。
最近、会社の男共が危険なくらいに大事な親友を狙っているのだ。
本人は鈍すぎて危機感が全くなく、享子は気の抜けない日々を送っていた。
可愛い由子は前から男性社員に人気だったが、現在ほどではなかった。それがなぜこうなったかというと、夏の終わりぐらいから由子の雰囲気が急に変わりだしたからだ。
以前は今時珍しく純粋でおっとりした雰囲気だった由子が、ときたま急に女らしい色気を感じさせるようになったのだ。
悔しいことに由子は胸も結構あるし、スタイルがとってもよかったりする。ちなみに体型維持とかを全く気にしていないあたりも妬ましい。
そんな由子が色気をふりまいたら、大変な事になると享子は前々から心配していた。
だから雰囲気が変わりはじめた頃、その訳を話してもらおうと何回か由子に聞いてみたのだが、毎回何もないと言われてしまっていた。
その為、何か話しにくい理由があるのだと思い、享子はしばらく様子を見ることにしていた。
親友を信じているから、幸せそうならそれでいいと。
でも、もし由子が苦しむ様子があれば全力で相談にのると心に決めて。
それに、自分にはきっとすぐに話してくれると思い、享子はずっと待っていた。
しかし、待っても話してくれる素振りは全く無く、そうこうしている間に由子の変化に周りの男共が反応しはじめてしまったのだった。




