私が○○を嫌いな理由(作:長谷川)
※ホラー注意。
さて、初めましての方もそうでない方もこんにちは。ELEMENT2015年春号より本企画に参加させていただいている長谷川と申します。
今年もいよいよ夏がやってきましたね。皆さん、熱中症対策は万全ですか? 冷房病には気をつけていますか?
日本の暑い夏を元気で乗り切るには、やっぱり涼しくなるようなイベントが必要ですよね。
さあ、そんなわけで、寝苦しい夏の夜にちょっとした怖い話なんていかがでしょう?
実は私は幼い頃から俗に言う「霊感」なるものがありまして、人ならざるものを意図せずして目撃してしまうという体験をしばしばしております。
一番最初に幽霊?を見たのは、確かまだ幼稚園に通っていた頃。当時私はかの宮崎駿監督が手がけたジブリ映画が大大大好きで(いや今も大好きですが)、その日は特別に夜更かしする許可をもらい、金曜ロードショーで放映されていた『天空の城ラピュタ』を観るのに熱中しておりました。
いいですよね、ラピュタ。あの心踊る世界観に息をつかせぬストーリー、魅力あるキャラクターたち。
その日も私は完全にラピュタの物語にのめり込んでおりまして、気分はもうパズーでした。私もドーラ一家に混じってフラップターを操りゴリアテに特攻したい!ムスカ大佐に「目が!目がァァァ!」って言わせたい!と幼心にとても興奮していたのを覚えています。
しかしそんなラピュタの物語もいよいよ中盤へ差し掛かった頃。たぶん私が竜の巣へ挑むパズーとシータにキャーキャー言ってたためでしょう、あるときCMに入ると家事をしていた母が「弟がちゃんと寝ついたか見てきてちょうだい」と言ってきました。
私には3歳下の弟が1人いるんですが、これが今でこそツンツンしているものの当時は泣き虫で怖がりのどうしようもない寂しがり屋だったんですね。それで、いつもは母と姉と3人で寝ている部屋で先に1人で寝るのは嫌だ暗いの怖いとごねていたんですが、ちょうどラピュタが始まる頃に母が無理矢理寝かしつけ、それから1時間ほどが経っていました。
ラピュタの世界から急に現実へ引き戻された私は「まったくしょうがないなぁ」とぶつくさ言いつつも、逆らったら母が怖いのでそそくさと寝室へ。
そこは畳敷きの8畳ほどの部屋で、一番手前に私の布団が、真ん中に母の布団が、更にその向こうに弟の布団が敷かれていました。
時刻は既に22時を回った頃。部屋にはオレンジ色の豆電球が1つだけ。
当時、部屋を真っ暗にすると弟が怖がって寝つかなかったので、我が家では必ず豆電球をつけて寝るようにしていたんですね。
その明かりのおかげで、一番奥の布団ですやすや寝ている弟の姿はすぐに確認できました。
でも。
……あれ、なんかおかしいな? うちって4人家族のはずだよな?
父、母、私、弟。
で、母は今台所で家事をしてるし、父は茶の間でビールを飲みながら私と一緒にラピュタを見てる。そしていちいち物語の内容に無粋なツッコミを入れては幼稚園児の娘に「うるさい! だまってて!」と叱られている。
なら、あそこにいるのは誰だろう?
弟の隣――いつもは母が使っている布団で、誰か寝ている。
しかも、一番遠くにいる弟の姿は豆電球の明かりでちゃんと見えるのに、隣で寝ているその人は顔もよく分からない。髪も生えているように見えないし、何て言うか全体的に……黒い。
私は分からないことだらけで、とにかく入り口からじーっと目を凝らしました。
そして気づいたのです。
ああ、そうか、この人――
真っ黒に焦げて死んでる。
それを確かめた私は無言で部屋を出、すぐに台所で翌日の朝食の準備をしていた母のもとへ行きました。
「どうだった? 弟、ちゃんと寝てた?」
「うん、ねてた。でも、ママのふとんでもだれかねてる」
「え?」
「まっくろにこげたひと、ねてる」
それを聞いた母は血相を変え、半狂乱で寝室へ。しかしそうして再び部屋を覗くと、そこからあの焼死体は消えていました。
思えばあのとき、いつも必要以上に厳しかった母がデタラメを言った私を叱らなかったのは、薄々勘づいていたのかもしれません。
「この子は何かおかしい」と。
と言うのも母の母、つまり私の祖母もとても霊感の強い人で、よく人ならざる者を見たり怪奇現象に遭ったりしていたのです。あげくの果てには枕元に自分の生き霊が立ったと言うのだからすさまじい猛者です。
そんな私も小学生に上がり、地元の小学校――ここでは仮にF小学校としましょう――へ通うことになりました。
実を言うと、当時私の父は小学校の教員をしておりまして、私が入学するまではそのF小で教鞭を執っておりました。
だけど、自分の娘が勤め先に入学してくることを喜ばなかった父は自ら校長に掛け合って、地元の山の上にあるF小の分校へ転属することに。
その分校、現在は少子高齢化に伴い廃校となってしまいましたが、当時はまだ全校生徒十数名という小さな小さな学校として機能していて、父はそこで教員として働くことになりました。
余談ですが、私の父は野生児です。自然をこよなく愛し、暇さえあればスキーだキャンプだハイキングだと山へ繰り出し、籔から飛び出してきた蛇を見つけては大喜びでそれを追いかけ、ビビった蛇に反撃を喰らって噛みつかれたけどよく見たらその蛇はマムシだった! でも間一髪、マムシの牙は目の粗いジャージの繊維に引っ掛かって皮膚には届かなかったぜイエーイ☆と言いながらそのマムシを右手にぶら下げて小学生の娘のところへ全力で走ってくるようななんかちょっとアレな人です。
そんなアレな人ですので、山深い分校での勤務はむしろ性に合っていたのでしょう。父はその分校での生活をいたく気に入り、夏休みのある日、その素晴らしい勤め先を見せてやると言って嫌がる私を拉致し、車に乗せて分校までブーンと出発しました。
まあ、もちろんただのドキドキ☆オヤジだらけの分校見学ツアー☆ではなくて、父にも学校でやることがあったのでしょう。山の中腹にある廃校寸前の小学校まで連行された私は、そのまま「ハイ」とそこで下ろされ、「じゃ、あとは学校の中好きに見てていいから」といきなりハイレベルな放置プレイを受けることになりました。
じゃあ何で連れてきたんだよ!! と幼心に全力でツッコミつつ、仕方がないので学校の周りをブラブラ、ブラブラ。
まあ、何とも古い学校です。私が当時通っていたF小もなかなかのボロ学校でしたが、分校は更にボロい。山中にあるので校庭は小さく、遊具もなく、当然ながら夏休みなので児童の姿もなくガランとしている。
これじゃあ父が戻ってくるまで一緒に遊んでくれる人もいません。
かと言っていつまでも校舎の外をブラブラしていたところで暑いし蚊に刺されるし。
そこで小さな校舎の周りをぐるりと1周し終えた私は、父に「早く帰りたい」と文句を言うために職員室を目指すことにしました。
……あれ? でも待って。
職員室ってどこ?
……。
………。
…………。
迷子だ!!!!!
私はさっき父のあとを追いかけていかなかったことを激しく後悔しました。いくら全校生徒の数が20人を超えたことのない学校とは言え、当時小学生だった私にはそれなりに大きな校舎です。
私はまるで人気のない校舎の中を、父がいるであろう職員室を探してさまよい歩きました。
あのアホ親父……見つけたらマジでマムシのエサにしてやろうか……
そんなことを考えながら、誰もいない廊下を歩いていたときのことです。
パタパタパタ……
「……ん?」
そのとき私は、自分の背後から足音が聞こえたような気がして振り向きました。
でも、誰もいない。
何だ気のせいか、と思い、再び職員室を探す旅へ。
パタパタパタ……
「……」
バッと再び背後を振り返る私。
しかし、誰もいない。
また歩き出す。
パタパタパタ……
ついてくる。
子供の足音。
試しに走り出してみる。
ついてくる。
追ってくる。
しかも足音以外にもなんか聞こえる。
笑ってる。
誰か笑ってる。
笑いながらこっちに来るようおああああああああああ!!!
と、そこから先はもう必死です。その頃には私も自分が人には見えないものを見る子供だという自覚がありましたので(現にF小でも階段で「うわっ、手が落ちてる!!」とか1人で騒いでて友人にドン引かれました)、これはアカンやつ!!アカンやつ!!と無我夢中でアホ親父を探しました。
見えない敵に追われる恐怖……まるでホラーゲームです。がむしゃらに走り、意味もなく廊下を蛇行し、教室を出たり入ったりしてカバディを仕掛け、もう自分が何から逃げているのか分からなくなった頃――見えた。
『職員室』という名の光。
「――お父さん!! この学校なんかいる!!」
ようやく見つけた職員室の扉を叩き開けるなり、必死の形相で私は叫びました。
するとそこには、扇風機に吹かれながらデスクで1人ガリ○リ君を食べている父の姿が。
「おう、そりゃいるよ。俺とお前が」
そうじゃねえええええええ!!!!!
……などという体験があり、私は今も○リガリ君が嫌いです。
あのアイスを見ると思い出すんですよ……
あの夏の日、誰もいないはずの分校で感じた恐怖……
ではなく、幽霊に追われる娘をほったらかして1人くつろいでいたアレな父親の姿を……。
そんなわけで、今回のFREEは「長谷川がガリガ○君を嫌いな理由」でした。
お粗末様でした!
Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)
……学校のお話は、ほら、長谷川さんの絶妙なツッコミでなんとか乗り切れます。なんかもう、ドラマ並みですよね!
しかし、もし自分の布団にそんなもんがいたら、私取りあえずその布団捨てます。布団に罪はなくても捨てますっ! 弟さんに助けられた話といい、よくぞ生き延びていらっしゃいますね。神様仏様ありがとう………(>_<)