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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第三章 少年期 ディムール・エノレコート戦争編
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第76話 旅立ち


 王都での戦いから、一週間が過ぎた。




 一週間経って、ようやく今回の戦争の被害がわかってきた、と言ったところだ。

 王都での犠牲者の数は決して少なくなく、家を失った者も多い。

 カミーユが討たれたとはいえ、その代償は大きかった。


 エーデルワイスが姿を消してから、エノレコート側から何か言ってくる気配はない。

 それに、ディムール側は先の戦いで既に戦意を喪失している。

 『大罪』の魔術師を相手にするのがどれだけ無謀なことなのか、ヴァルター陛下をはじめとした国のトップの連中は嫌というほど理解したようだった。

 エーデルワイスが再び現れでもしない限り、これ以上戦いが起きることもなさそうだ。


 ロードの行方もわからないままだ。

 エーデルワイス側についたのであれば、近い将来、再び対峙する日が来るだろうが……。


 一番気がかりなキアラの行方も、依然としてわからない。

 あれだけ強大な力を振り撒いているのなら目立ちそうなものだが、今のところなんの情報も入ってこない。


 『終焉の魔女』アリスが復活したという知らせは、ロミードにも届いているはずだ。

 前世でいう非常事態宣言のような、何らかの措置が取られる可能性は高い。




 そして、オレはというと――、




「ラルさまー。準備できましたよー」


「おう。おつかれさま」


 荷造りを終えたらしいカタリナに、いたわりの言葉をかける。

 頭を撫でてやると、幸せそうな顔でされるがままになっていた。


 長距離の移動に必要な馬車や荷車は、既に運んでもらっている。

 あとは、オレたちが向かうだけだ。


「……いままで、お世話になりました」


 玄関先に出たオレは、家に向かって深く頭を下げた。

 隣で、同じようにカタリナも頭を下げる。


 この家は引き払うことにした。

 カタリナが、ロードが来た時のことを思い出して怖がるからだ。


 亡くなった人たちの供養はオレがした。

 また、遺骨はガベルブック領のほうにある家で預かってもらうことになった。

 心苦しくはあるが、オレが彼女たちにできるのはこれが精一杯だ。


「じゃあ、行くか」


「はい」


 長年お世話になった家に背を向けて、オレたちは歩き出した。







「――ラル!」


 王城の前。

 そこに、頭に深くフードを被ったクレアがいた。

 すぐそばには、オレのほうへと頭を下げるダリアさんと、心なしか寂しそうな表情のアミラ様の姿もある。


 近くには、今回の旅の足となる馬と馬車も用意されていた。

 オレたちのために、ヘレナとフレイズが用意してくれたものだ。


「それじゃあ、母様、父様。行ってきます」


「……ラル」


 ヘレナが、悲しみを押し殺したような顔でオレのことを抱きしめる。


「必ず、無事に帰ってくるのよ……」


「――はい。必ず」


「ラル。私から言うことはヘレナに言われ尽くしてしまったが……生きて、また会おう」


「――はい!」


 オレの返事を聞いたフレイズも堪え切れなくなった様子で、オレのことを抱きしめた。


「……ラルフよ。そなたであれば、アリスだけでなく、ロードも救ってやれるやもしれぬ。ワシとしても不甲斐ないが、任せたぞ……」


「……はい。任せてください」


 アミラ様は少し迷ってから、正面からオレのことを抱きしめた。

 いつの間にか、身体もだいぶオレのほうが大きくなっている。

 なんとも言えない気持ちになりながらも、オレもアミラ様を抱き返した。


 名残惜しい気持ちを残しつつ、オレたちは馬車に乗り込む。

 そして、馬車はゆっくりと動き出した。




 これからオレは、ロミードへと向かう。

 『終焉の魔女』アリス――キアラの過去を知るために。




 キアラ。本名アリス・シェフィールド。

 アリスはシェフィールド皇国を滅ぼす直前まで、ロミードに留学という形を取っていたらしい。


 おそらく、そこで何かがあったのだ。

 キアラが『傲慢』の大罪に覚醒してしまうほどの何かが。

 それを知ることができれば、キアラを闇の中から救い出すことができる気がするのだ。


 クレアの身の危険も考えて、クレアをロミードへと逃がすということで話は落ち着いている。

 オレはそれに護衛として同行させてもらい、裏ではアリスのことについてあらゆる手段を使って調べるつもりだ。

 ヴァルター陛下からも「クレアのことを頼む」と直々に言われているので、問題ないだろう。


 ――『傲慢』の魔術師、アリス。

 彼女は、前世であれば、死刑にすることすら罰としては物足りないレベルの極悪人と言っても過言ではないだろう。




 だから、オレはキアラにその罪を一生をかけて償わせるつもりだ。

 死んで詫びて終わりなど、オレが許さない。




 オレたちを乗せた馬車が、傷ついた王都の街並みを横切っていく。

 多くの人たちとすれ違いながら、ひたすらに走り続ける。


「……待ってろよ、キアラ」


 そのつぶやきは、隣で手綱を持っているダリア以外に聞こえることはなく。




 こうして、ラルフ達の長い旅が始まったのだった。




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