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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第三章 少年期 ディムール・エノレコート戦争編
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第69話 割り当て



「それで、これからどうするかですけど……」


 オレは全員の顔を見回しながら、言葉を紡ぐ。


「とにかく、父様と陛下とダリアさんは助けなきゃいけない。ここまではいいですよね?」


 全員が頷いたのを確認してから、本題に入ることにした。


「まず、ヴァルター陛下ですが――」


「お父様のことは、私に任せて。ラル」


 オレの言葉を遮るように、クレアの声が部屋に響いた。


「お父様は、必ず私が正気に戻してみせるわ。だから私を信じて、ラル」


 その瞳には、たしかに強い意志が見て取れた。

 

「わかった。クレアを信じる」


 だから、オレの返答もこれ以外にはあり得ない。

 オレが信じるクレアなら、必ずヴァルター陛下を正気に戻してくれるはずだからだ。


「でも、ヴァルター陛下は多分まだ広場にいる。だから、『吸収ドレイン』に気をつけて、アミラ様と一緒に行ってくれ」


「うん、わかった。……ありがとう、ラル」


「ワシの方からも特に異存はない。ワシらに任せておけ」


 アミラ様が小さい胸を張るのを見て、少し頬が緩んでしまった。

 そんなオレの顔を見たアミラ様が一瞬ジト目でこちらを見た気がしたが、まさか気のせいだろう。


「それで次は父様ですが……父様はヴァルター陛下と比べたら、まだ自分の意思が残っているはずです。なので、一番父様のことを知っている母様たちは父様のことをお願いします。それとカタリナも、そっちについて行ってほしい」


「わかったわ」


「わかりました! カタリナ、がんばります!」


 完全にスイッチが入ってしまっていたヴァルター陛下と違って、フレイズのほうはまだ冷静な判断力が多少は残っているはずだ。

 さすがに、自分の妻であるヘレナを攻撃したりすることはないと信じたい。


「そして、最後にダリアさん。ここはオレだけで行く」


「……理由を聞いても?」


 ヘレナの質問に、オレは「もちろん」と答え、


「ダリアさんはエーデルワイスの分身、と言っても過言じゃないくらいの洗脳を受けていました。その力も未知数ですし、多少その能力に耐性があるオレが行くのが適任でしょう……それに、なんとなく、相手の魔術の正体にも思い当たるものがあるので」


「……光の腕輪か」


 アミラ様の言葉に、オレは頷く。


「ええ。オレもエーデルワイスから軽めの精神攻めを受けたので、もしかしたらって可能性ですけど……光の輪を触媒として強力な洗脳魔術を使っていたんじゃないかって、そう思うんですよ」


「ふむ。可能性はあるな」


 オレで言うなら、『テレパス』に使用している精霊結晶がこれに当たる。

 用途に応じて魔力を込めることで、同じ性質の結晶石を持つ人間とテレパスで繋がることができる優れものだが、エーデルワイスほどの魔術的知識があれば、全く別の性質を持つ触媒として光の腕輪を使用している可能性はある。


「幸いにも、エーデルワイスとカミーユはキアラが押さえてくれています。本人がどういうつもりでやっているのかはわかりませんが、それが効いているうちに三人を助けないと、同じことの繰り返しになる可能性もあります。時間との勝負ですね」


 今のところ全員無事でいるものの、今の状態のキアラは何をするかわからない。

 それに可能性は低いと思うが、キアラがエーデルワイスとカミーユに敗北する可能性もなくはない。

 とにかく三人を早く救出して、オレがキアラを助けなければ。


「ラル。ロードはどうするの? もし、ヘレナさんと一緒にいるカタリナちゃんのほうとロードが鉢合わせしたら……」


「ロードについては心配いらない。ダリアさんを助けている最中か助けた後かはわからないけど……必ず、オレの前に現れる。今のところ、オレにやられっぱなしだからね」


 クレアの心配そうな言葉に、オレは言葉を返した。

 ロードはプライドが高い。

 カタリナのことを好いているとはいえ、オレにやられっぱなしのままカタリナに手を出すはずがない。


 ロードも、オレが近くにいる以上は必ずオレの前に現れる。

 そういう確信があった。


「もし危ない場面になったら全力で逃げてください。本来なら『テレパス』が使えるはずだったんですけど、オレの分の精霊結晶もエーデルワイスに砕かれたみたいで見当たりません……。合図として、空に火球を打ち上げてもらえればその場所に急いで向かいます」


 『テレパス』が使えれば楽だったのだが、囚われていた間にエーデルワイスに砕かれてしまったようで見当たらない。

 敵に妨害されて肝心な時に使えないのは、緊急連絡手段としてあまりにお粗末すぎる。

 この戦いが無事に終わったら改良したほうがよさそうだ。


「……無事に終わったら、ディムール領で落ち合いましょう。最悪の場合、ロミードへ亡命することも考えないといけないと思いますし」


 王都がこの有様では、ディムールがこの先やっていけるかどうかすら怪しい。

 亡命は視野に入れておくべき選択肢の一つだった。


「それじゃあ、行きましょう。皆で、大切な人たちを取り戻す戦いに」


 オレは固い決意をたたえた目で、皆を見た。

 皆も、オレのことを見ている。


 カタリナが、全幅の信頼を持ってオレのことを見ている。

 クレアが、その碧眼に静かな激情を宿してオレのことを見ている。

 アミラ様が、燃えるような炎を灯してオレのことを見ている。

 ヘレナが、慈しむような目でオレのことを見ている。

 ミーシャが、我が子の成長を喜ぶような目でオレのことを見ている。


 それぞれが、そんな目でオレのことを見てくれていることが、何より誇らしかった。




 こうして、オレたちは三組に分かれて行動することにした。




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