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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第三章 少年期 ディムール・エノレコート戦争編
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第66話 浸る傲慢

※今回はキアラ視点です。





 ――私は、何を勘違いしていたのだろう。




 驚愕の表情を張り付けたままのラルくんの頭が、くるくると回りながら空中を舞う。

 そして、嫌な音を立てて広場の地面に叩きつけられた。


 頭蓋が砕け、その中身と共に赤黒い液体がぶち撒けられ、地面を汚す。

 エーデルワイスがそれを見て、これ以上ないほど満足そうな顔で頷いていた。


 私はそれを、ただ指をくわえて見ていることしかできなかった。




 なにも、できなかった。




「うっ……うううううぁああああああああああッ!!!」




 叫ぶことで楽になれるのなら、もうとっくに楽になっている。

 叫んでいるのは、ただ目の前にある現実を直視できないから。


「あら、どうしたのアリス。気が触れてしまったのかしら」


 エーデルワイスが、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

 吐き気を催すその姿に嫌悪感を覚える余裕すら、今の私にはなかった。


 勘違いだった。ただの思い上がりだった。

 異世界に転生して、圧倒的な才能とこの世界の全てを奪えるほどの力を手に入れて、自分なら何でもできると思っていた。


 何が『大罪』の『傲慢』だ。

 何が『終焉の魔女』だ。


 本当の私は、たった一人だけの愛する人すら幸せにすることができない、どうしようもない女じゃないか。


「あぁ……いやぁぁぁぁあぁああああっ!!!」


 目をつぶり、頭を振りながら否定の言葉を口にする。

 今の私にできるのは、狂ったように叫び続けることだけだ。


 ……だから、気付かなかった。

 自分の身体がいつの間にか、赤い棺の前まで引き寄せられていることに。


「――――ッ!?」


 棺の隙間から伸びる闇精霊でできた触手が、私を拘束している十字架ごと私をここに引っ張ってきたのだと、遅れて理解した。

 あまりにも濃密すぎる闇精霊の気配に、私ですら寒気を感じる。


 だが、その中に懐かしいものを感じるのもまた事実だ。

 それはおそらく、私の肉体があの棺の中に入っているからなのだろう。


「私が、欲しいの……?」


 闇が鳴動めいどうする。

 それは、私の言葉を肯定しているように思えた。


「……そっか」


 ラルくんさえいれば、ほかに何もいらなかった。

 心の底からそう思っていた。


 だから、私が出した結論も、これ以外には考えられなかった。





 

 ――ラルくんを取り戻す。

 たとえどれだけの犠牲を払ってでも、世界からあなたを取り戻してみせる。




「そのためにはまず、身体を取り戻して『憤怒』を奪わなきゃ」


 『憤怒』は、人間の魂をつかさどる。

 あの悪辣な魔術師――カミーユなら、間違いなく彼の魂を縛り付けているはずだ。


 ……それならまだ、可能性はある。

 ラルくんを取り戻せる可能性が。


 そして、そのあとは――、


「やっぱり私、嫌な子だ……」


 また、私は罪を重ねる。

 きっと彼は許してくれないだろう。

 でも、それでもやらなければならない。






 はじめから、すべてをやり直すために。






 私は自分の意思で闇に触れた。

 その途端、私の意識は急速に沈んでいく。


「――――」


 二度と、戻って来られないかもしれない。

 そんなことをぼんやり考えながら、私は心地よい闇に身を委ねる。




 そして私は、意識を手放した。


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