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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第三章 少年期 ディムール・エノレコート戦争編
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第65話 二度目の歪曲


「しっかし、きみも無茶するよね。こんな短期間で二回も死ぬなんて」


 声が聞こえる。

 どこか懐かしく、オレの魂を震わせる声が。


 微妙に開いた目が光を受けて、眼前に広がる景色を映し出すために活動を始める。


 最初に映ったのは、手を伸ばせば掴めるのではないかと錯覚するほどの、満天の夜空だ。

 横に目を向けて、その次に目に入ったのは、青い星。

 それを認識してやっと、自分がどこにいるのかを理解する。


「ここは……星の砂丘、か」


 なんとなく自分の中でそう呼んでいた景色が、いま目の前に広がっている。

 それを踏まえて、自分がどうなったのか思い出した。


「星の砂丘。うん、いいネーミングだね。この景色を端的に表してると思うよ」


 そう言って微笑むのは、ついこの前もこの場所で出会った、黒髪の少女だ。

 彼女に聞きたいことは多いが、今はそんな悠長なことをしている時間が惜しい。


「オレは、『運命歪曲』をちゃんと使えたのか?」


「安心して。その賭けには見事勝利したから。きみは再び、死ぬか死なないか選ぶことができるよ」


 彼女のその言葉に、オレは心の底から安堵した。


「……正直、賭けだった。『運命歪曲』がうまく発動してくれるとも限らなかったからな」


 命懸けのギャンブル。

 それに、オレは勝利したというわけだ。


「でも、君がどれだけ足掻こうが、『終焉の魔女』は再覚醒する。それはこの世界が下した、覆せない決定だからね。まあ、そのあとこの世界がどうなるかは、まだ未確定の未来だけど」


 少女はそう言って肩をすくめる。


「……一応あんたにも聞くけど、『終焉の魔女』ってのはキアラのことなんだよな?」


「そうだね。アリス・シェフィールドと、今代の『大罪』の『傲慢』、それに『終焉の魔女』と、きみにキアラと名乗っている少女はすべて同一人物だよ」


「そうか」


 目の前の少女の発言をどれだけ信用すればいいのかは微妙だが、エーデルワイスの言っていることと矛盾はしていない。

 まあ、キアラの過去のことについては、彼女と腰を落ち着けて話せる状態になってから解決していけばいい。


「そういえばだけど、現実世界に戻るなら早く行ったほうがいい」


 虚空を見つめ、少女が突然そんなことを言い出した。

 その視線の先には何もないが、彼女には何かが見えているのだろうか。


「……一応聞くが、なんでだ?」


「ここで長く話せば話すほど、現実でも時間が過ぎてしまうという単純な話だよ」


「そういうことは早めに言ってくれよ!」


「そういうことについて聞かれてなかったからね」


 オレのそんな指摘に対しても、少女はどこ吹く風だ。

 脱力するオレに向かって、少女は微笑みかける。


「今ここに、運命は歪曲した。さあ、行っておいで。ラルくん」


「ああ、行ってくる。……あ、そうだ。あんたに一つだけ伝えないといけないことがあったんだった」


「ん? どうしたの?」


 これ以上用事があるのが予想外だったようで、オレに不思議そうな顔を向けてくる少女。

 そんな少女に対して、オレは一つの言葉を口にする。




「ありがとう。オレに、大切な人たちを救うための力をくれて、ありがとう」




 オレがそう言うと、少女は目を丸くした。

 そして、少しだけ表情を崩して、


「別に感謝されることでもないんだけどね。……代償は、しっかりいただいているわけだし」


「ん? なにか言ったか?」


 最後のほうの言葉が聞き取れなかったので聞き返したが、少女は「なんでもない」と笑う。

 まあ、なんでもないなら、なんでもないでいいか。


「それじゃ、今度こそ行ってくる」


 あの少女を――キアラを、救わなければならない。

 それが、ラルフ・ガベルブック――オレが、この世界に転生してきた意味なのだ。


「うん。いい顔だ。――いってらっしゃい」


 彼女のその言葉を最後に、オレの意識は不明瞭なものになっていく。

 底のない闇の中を、どこまでも落ちていく感覚。


 そして、意識が再び途絶えた。

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