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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第三章 少年期 ディムール・エノレコート戦争編
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第45話 カタリナとの結婚式


「――新郎、ラルフは、その生涯を通して、新婦、カタリナを愛することを誓いますか?」


「誓います」


「新婦、カタリナは、その生涯を通して、新郎、ラルフを愛することを誓いますか?」


「誓いますっ!」


「では、誓いのキスを」


 立会人である村長の言葉を受けて、オレはカタリナを抱き寄せる。


「あっ……」


 言葉はいらない。

 オレとカタリナの唇が、ひとつに重なり合った。




 カタリナとの結婚式は、オレの領地であるダーマントル領の屋敷で行われた。

 王都にある教会でやってもよかったのだが、オレとカタリナの希望もあり、ここでやることになったのだ。


 ここ数年で仲良くなった村長や村人たち、それにその子供たちも、オレたちの結婚を祝福してくれた。

 まあ、中には徴兵が行われることに対して、オレたちにあまりよくない感情を抱いている者もいるようだが……こればかりはどうしようもない。


「ラルさまー。どうですか?」


「うん。とてもよく似合ってるよ」


「えへへへへ」


 その場でくるくると回りながら、カタリナは自分のドレス姿をオレに見せつけてくる。

 純白の花嫁衣装に身を包んだカタリナは、とても綺麗だ。


「いや、それにしても、まさかラルフ様とカタリナが結婚することになるとは……。世の中、何が起こるかわからないものですね」


「まあたしかに、ガベルブックの人間が奴隷と結婚するなんて異例ですからね。カタリナとは、十二歳になったら奴隷契約を破棄するつもりでしたが、その意味もなくなりました」


 ミーシャさんの言葉に、オレは同意した。

 結局、カタリナを独り立ちさせるという当初の目的は達成されそうにないが、しばらくは戦争のせいでオレも傍にいられないので、その間に自立する能力を身につけてもらおうと思う。


「おめでとー!」


「ありがとう、エリシア」


 その頭を優しく撫でると、我が妹――エリシアの嬉しそうな声が耳に届いた。


 エリシアの成長も順調だ。

 あっという間に二足歩行もできるようになり、けっこうしっかりと喋るようになっている。

 赤ちゃんの成長というものは目覚ましいな。


「ラル、おめでとう」


「父様……」


 八歳の誕生日の時は怒り狂っていたフレイズも、今は穏やかな表情を浮かべている。

 オレたちの関係を認めてくれている証拠だ。


「二人の結婚を、私は心から祝福するよ。末永くお幸せにな」


「あ、ありがとうございますっ!」


 カタリナも、フレイズの口から漏れたその言葉をゆっくりと噛み締めている。

 その顔は喜びの色に染まっていた。


「ただし、ラル」


「ん? なんですか父様」


 フレイズはオレの耳元で口を開く。


「お前、まだカタリナには手出すなよ?」


「わっ、わわわかってますよもちろん」


 思いっきりどもってしまった。

 これでは、何か後ろめたいことがあるみたいではないか。


 いや、でも本当にまだ手を出すつもりはない。

 そういうのは、オレやフレイズがしっかりと戦争を終わらせてからにすると決めている。

 フレイズは変な笑みを浮かべていたが、やがてため息をつくと、自分の席へと戻っていった。


 次にこちらにやってきたのはヘレナだ。

 ヘレナは穏やかな笑みを浮かべて、


「ラル、カタリナちゃん、おめでとう。わたしもすごく嬉しいわ」


「ありがとうございます、お義母様!」


 そう言ってカタリナを抱きしめるヘレナ。

 そうか、そういえばヘレナは、カタリナにとっての義母になるんだよな。

 そう考えると、何か嬉しい。


「それにしても、ロード君やクレア様は来れなかったのね」


「ええ。残念ですけど」


 ロードとクレア、それにアミラ様はこの結婚式に来ていない。

 アミラ様は王都の最高戦力としてその場を離れるわけにはいかなかったようで、済まなさそうな顔をしながらも結婚式への出席を辞退した。


 ヘレナ達には言っていないが、ロードとクレアは、結婚式への参加を辞退した。

 二人とも、オレやカタリナに思うところでもあるのだろうか。

 ……あるのだろうな。


 二人とも、オレがカタリナと結婚することを告げると、複雑そうな表情を浮かべていた。

 何か耐えがたいことを堪えるような、そんな表情を。


 もしかしたら、ロードはカタリナのことが、クレアはオレのことが好きだったのかもしれない。

 今となっては、もうどうしようもないことではあるが。


 この国では一夫多妻制が認められているものの、オレはクレアに対して恋愛感情を持っていない。

 仮にクレアがオレのことを想ってくれていたとしても、その想いには応えられないだろう。


「……私とも、いつか結婚式をしてほしいなー」


「わ、わかったよ」


 ただし、目の前でぷっくりと頬を膨らませているこの幽霊だけは別だ。

 キアラのことは好きだし、肉体さえ取り戻してくれればすぐにでも結婚していいと思っているのだが、本人にまだその気はないらしい。

 とりあえずは、オレとカタリナの結婚を祝福してくれているだけでもありがたいものだ。


 こうして、オレとカタリナの結婚式は終わった。






 そして、いよいよこの日がやってきた。


「ラルさま……」


「大丈夫。絶対に無事に戻ってくるから」


 不安そうな表情を浮かべたカタリナを抱きしめる。

 いい匂いと、女の子特有の柔らかな感触が伝わってきた。

 それを思う存分堪能しながら、オレはカタリナの頭を撫でる。


「それじゃあカタリナ。行ってくるよ」


「……はい! 留守のあいだは任せてください! 行ってらっしゃいませ!」


 カタリナは泣かなかった。

 その頼もしい姿に彼女の成長を実感しながら、オレは玄関を出る。


 この家には、もう当分のあいだ帰ってこられないだろう。

 これからオレは、陸軍第六兵団の兵団長としてフレイズの元で戦うことになる。

 オレは初めて、自分の意思で人間を殺す。




 ――本当に、これが正しいのだろうか。

 ふと、そんなことを思った。


 たしかに、エーデルワイスの蛮行を許容することはできない。

 でも、エーデルワイスを討つことと家族の安全どちらが大事なのかと問われれば、後者であることは間違いない。


 今のオレは、それを同時にやってのけようとしている。

 キアラに家族の保護を頼み、オレはエーデルワイスを討つべく、こうして行動に出ているのだ。


 だが、オレが戦場に行かなければ、フレイズは一人だ。

 もしフレイズが死にそうになっていても、何の手助けもすることができない。

 それを考えると、やはりオレの行動は間違っていないと思う。


「……戦争、か」


 この王都の風景を見ることも、もう当分ないのだろう。

 その光景をしっかりと目に焼き付けてから、オレは王城へと続く道を歩き始めた。






「来たか、ラル」


 フレイズは既に王城の駐屯所にいた。

 瞳を閉じ、ただ静かに椅子に座るその姿からは、強者の貫禄が感じられる。


「申し訳ありません父様、待たせてしまって……」


「構わんよ。いつもならもう少し遅い時間だが、今日はお前に色々と説明することがあるから早めに来ているだけだからな」


 フレイズはそう言うが、その言葉に甘えてばかりもいられない。

 オレも相当に早く来ているはずだが、フレイズを待たせる結果になってしまった。

 気を付けなければ。


「ところで父様、陸軍の第六兵団というのは、元々存在しなかった部隊なんですよね?」


「厳密に言えば、非常時にのみ組織される部隊だな。だから私がこの日のために集めておいた」


 何でも、第六兵団は少し特殊な部隊だそうで、その役割は専ら『遊撃』だそうだ。

 つまり、極端な言い方をすれば、戦場においては必ずしもフレイズの命令を守る必要もないし、オレの命令に従う必要もない。

 司令官としての役割が希薄なのは、オレにとってはありがたかった。


 しかし、集まってくるのは大人の男ばかりだろう。

 「こんな子供に従ってられるか!」とか言われないか心配だ。

 というか人間的に協調性のない奴が多そうで怖い。


 ちなみに、今日が第六兵団の団員たちとの初顔合わせである。

 こちらの世界には、事前に入念な打ち合わせなどをするという文化はないらしい。


「お、来たか」


 しばらくすると、フレイズの言葉通り、数人の男たちがこちらまでやってきた。

 

「お早い到着ですね、フレイズさん」


 その中のリーダー各と思しき男が、フレイズに話しかけた。

 いかにも傭兵上がりといった風貌のその男は、その隣に立っているオレのことを視認すると、眉をひそめる。


「えらく若いな。名前は?」


「初めまして。ラルフ・ガベルブックと申します。これからよろしくお願いします」


「おお、あんたが噂の第六兵団の兵団長殿か。お噂はかねがね。俺のことはジャンとでも呼んでください」


 フレイズはオレのことを事前に話していたらしく、オレの存在はえらくあっさりと受け入れられた。


「ところで兵団長殿。折り入ってお願いがあるのですが」


「ん? 何ですか?」


 と思ったら、早々にこれだ。

 ジャンの言いたいことは、ある程度予想がつく。


「一度、俺と手合わせしてもらえませんかね?」


 ほら、やっぱりだ。

 まあ断る理由もない。


「ええ。構いませんよ」


「ありがとうございます。今からでも大丈夫ですかね?」


「いいですよ」


 ちょうどいい。

 こいつらがどの程度のレベルなのか確かめておくためにも、必要なことだ。


「……言っておくが、ラルは私より強いぞ」


「ほう、それは楽しみですね」


 フレイズのそんな言葉を聞いても、ジャンは戦意をたぎらせていた。

 バトルジャンキーなのだろうか。


「そんなに戦いが好きなのか? ジャン」


「戦いが好きなのは否定しませんが……今回は単純に兵団長殿の実力が見たいだけですよ。なにせ、俺らの命を預ける相手になるんですからね」


 たしかに、自分の命を預ける人間の実力を確かめておきたいと思うのは自然なことだろう。


「それじゃあ、もう少し広いところに行きましょうか」


「ああ。よろしく頼む、兵団長殿」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ジャンさん」


 オレも最近はあまり身体を動かしていなかったからな。

 ジャンで慣らさせておくことにしよう。


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