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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第二章 少年期 ディムール王立魔法学院編
42/96

第42話 クルト・ディムール

今回はだいたいクルト視点です。


「――いかがなさいましたか、クルト様?」


「はっ」


 周りを見回すと、多くの者が怪訝そうな表情を浮かべていた。

 どうやら、会議中に居眠りをしてしまっていたようだ。


「申し訳ありません。会議中に居眠りなど……」


「クルト様は長旅でお疲れでしょう。誰もそのことを咎めたりいたしませんわ」


 そう言って、ウルスラさんがコロコロと笑う。

 それだけで、会議室の中は再び温和な空気に包まれた。


 ウルスラ・エノレコート――このエノレコート王国の王族である彼女は、度々ディムール王国へと特使として派遣されていた人物だ。


 宝石のような金色の瞳に、光を受けてキラキラと輝く銀髪。

 その透き通るような白い肌は、神聖なものを感じさせる。

 彼女の背中から伸びる純白の羽根も見事の一言で、ウルスラという完成した美をさらに際立たせている。


 場所が場所であれば、天使と見間違うであろうその姿に、僕は心を奪われてしまっていた。

 まあ、胸がとても大きいのも理由の一つだが。


「とにかくこれで、ディムール王国とエノレコート王国の間の不可侵条約は締結されました。まずは一安心、といったところですな」


「ええ、そうですね」


 大臣の言葉に同意する。

 ウルスラさんは外交官としても非常に優秀で、滞在してから僅か一日で不可侵条約を締結させてしまった。

 もちろん他にもやるべきことはあるのだが、最重要の課題が早速片付いてしまったディムール側の面々は、少し気を抜いているように見える。

 必然的に、ちょっとした雑談が目立つようになった。


「そういえば、クルト様はご結婚されているのですか?」


「いや、残念なことに相手がいなくてですね……まだ独身です」


 実際には婚約者候補には事欠かないのが事実なのだが、僕はまだ結婚するのは早いと思っていた。

 しかし、ウルスラさんは僕のそんな内心を知ってか知らずか、


「……それなら、わたくしが立候補してみようかしら」


「えっ?」


 それはまさに、僕にとっては予想だにしていなかった提案だった。


「クルト様は素敵な男性ですし、わたくしのような女など、相手にはしてくださらないかしら……?」


「そ、そんなことないです! ウルスラ様はとてもお綺麗ですし、僕のほうこそ……!」


「……ありがとうございます。クルト様」


 僕がそうまくし立てると、ウルスラさんは微笑んだ。

 理屈なしに守りたいと、男にそう思わせる魔性の笑み。


「おめでとうございます、クルト様!」


「実にめでたい。これでディムール王家も安泰というものですな」


 大臣たちが、口々にそんな言葉を漏らしている。


 ……この結婚が、エノレコートとディムールの関係を改善するための政略結婚なのだということくらい、僕にもわかっている。

 ウルスラさんが、心の底から僕に惹かれているわけではないことぐらい、わかっている。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。ウルスラ様」


 だから、僕がウルスラさんを幸せにしよう。

 ウルスラさんに、僕と結婚したのが間違いだったと思わないような、素敵な人生を送ってもらうこと。

 それが僕の示せる、精一杯の誠意に思えた。


「クルト様は、女性経験はおありになるの?」


「いや、ないですよそんなの」


 僕は生まれてこの方、女性とお付き合いしたこともなければ、関係を持ったこともない。

 生粋の童貞だ。


「――よかった」


 ウルスラさんのその安堵が表すものがなんなのか、僕にはよくわからなかった。

 自分が初めてだから、相手も初めてであってほしいという、お姫様のささやかな願望なのだろうか。




「――エーデルワイス。そろそろ茶番は終わりにしましょう」




 どこからか、声が聞こえた。

 この場にはひどく不釣り合いな、欺瞞と悪意に満ちた声が。


「……茶番を楽しめない女は、嫌われるわよ?」


 その声に対して、ウルスラさんが呆れた顔で声を返す。

 彼女の様子はまるで、長年連れ添った友人に話しかけるような、ある種の親しみに満ちたものだった。


「ワタシを愛してくれている彼は、そんなことでワタシのことを嫌いになったりはしません」


「ああ、そう……」


 意味がわからない。


「この不快な声はなんだ? 事情を知っておられるのなら、ウルスラ様にはそれを説明する義務があるはずだが」


 謎の声と、突然態度を豹変させたウルスラさんに、大臣たちも困惑している。

 中には、説明を求める声を上げる者もいた。


「ウルスラ、様……?」


 エーデルワイスというのは誰だ?

 彼女の名前は、ウルスラではないのか。


「カミーユ。外野がうるさいから、クルト様以外の方々はいただいてしまって構わないわ」


「わかりました。それではお言葉に甘えて」


 次の瞬間、エノレコートの大臣たちの身体が膨れあがる。

 肉の身体が弾け飛び、臓腑と血と腐臭を垂れ流しながら、内側から大量の赤黒い触手が現れた。


「な、なんだ!? うわぁぁああああああ!!」


 困惑した表情を浮かべていた男が、四肢を触手に掴まれ、好き放題に弄ばれる。

 説明を求めた男は口内へ触手の侵入を許し、そのまま身体の中をまさぐられて破裂した。


「頭は置いておきますね。ディムールに送り返さないといけませんし」


「それもそうね。そうしてちょうだい」


 ウルスラと謎の声が会話をしている間に、他の者たちも次々と触手に蹂躙されていく。

 老若男女など微塵も関係がないとでも言うかのように、触手たちは僕とウルスラさん以外の人間たちを全て蹂躙し尽くした。


 そこに至ってようやく、ウルスラさんが呼んだその名前には、聞き覚えがあることを思い出す。


「カミーユ……っ!」


 それは、父上から最も注意するように言われていた人間の名前だ。

 七つの大罪のうち『憤怒』を名乗るその魔術師は、僕の大事なクレアを連れ去ろうとしていた人物にほかならない。


「ありがとう、カミーユ。そこの肉、臭いから全部食べておいてくれないかしら?」


「わかりました」


 どこからともなくそんな声が聞こえたかと思うと、触手たちは床にばら蒔かれている死体を咀嚼し始めた。

 血をすすり、肉と骨と臓腑を噛みちぎる、この世のものとは思えないような音が辺りに響く。

 思わず目を覆いたくなるような凄惨な光景だ。


「さて」


 そんな中、ウルスラさんだけが正常だった。

 腰が抜けて立てなくなっている僕を視界に入れながら、ウルスラさんは何事もなかったかのように呟く。


「邪魔物も片付いたことだし、早めに終わらせちゃいましょうか」


「君は……君は自分が何をしているのかわかっているのか?」


 いや、そもそも、これは本当に目の前にいる少女が引き起こした事態なのだろうか。

 あの『憤怒』に指示を出せる人間というだけで、あまりにも逸脱してしまっている人間なのだということは、おぼろげながらわかるが……。

 この少女は、一体何者なんだ。


「なんのために、こんな酷いことを……」


「もちろん、ディムールと戦争を始めるために決まってるじゃない」


 ウルスラさんは、何を当たり前のことを、とでも言うような表情を浮かべている。


「戦争だって……? そんなことをして何になる!? また歴史の悲劇が繰り返されるだけじゃないか!」


「実際に歴史を見てもいない小僧が、歴史を語らないでちょうだい。それに、悲劇が繰り返されることのどこに問題があるっていうの?」


「は――ぁ?」


 意味がわからない。

 さっきまで、この生涯をかけて幸せにしてやろうと思っていた少女が、今は得体の知れない化物としか思えない。


「悲劇も、怒りも、絶望も、みんなみんな、わたくしたちが欲してやまないものだわ。それを否定する権利なんて、あなたにはないはずだけれど」


「だったら僕たちにも、その悲劇と怒りと絶望を感じるのを拒絶する権利があるだろう!」


「そんなものないわよ。そもそも、例えそれが苦しみであれ、恐怖であれ、悲しみであれ、このわたくしに何かを与えられるということ自体が、あなたたち凡人にとっては身に余る幸運なのだということを理解したほうがいいと思うわ」


 少し不満そうな顔をしながら、ウルスラはオレにそう語る。

 ……ダメだ。

 こいつは頭がおかしい。

 とても僕が説得できる相手とは思えない。


 僕はこのまま殺されてしまうのだろうか。

 ついさっきまで隣で僕の結婚を祝福してくれた大臣たちのように、およそ人間としての尊厳を失った屍を、この王城に晒すのだろうか。

 何もできないまま、何も残せないまま。


「……あ」


 そうだ。

 僕にも、まだやれることがあった。


 ラル君が僕にくれた腕輪。

 これは、遠くにいても頭の中で会話ができるという優れものらしい。


 カミーユだけではない。

 このウルスラという少女も、『憤怒』と同等の立場で話している以上、普通ではない。


 僕は、最後の希望を抱いて、ラル君に意識を繋いだ。

 聞こえるか、ラルく――。


「ん? なにそれ?」


 次の瞬間、僕の右腕が根元から取れていた。


「は?」


 今、目の前にウルスラが立っている。

 僕の腕を千切り、それにはめられている腕輪を興味深そうに眺めていた。


 遅れてやってきたのは、この世のものとは思えぬ強烈な痛み。


「ぁぁあああぁああああぁああ!!」


 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 まるで焼きごてを当てられたかのように熱い痛いあるはずのものがない強烈な喪失感が圧倒的な痛みによって増幅される痛い痛い痛いこの身体のどこにそんなに血が入っていたんだと思わせるほどの痛い出血量痛い痛い痛い痛い。


「あらいけない。わたくしったら、またやってしまったわ。早く抜き取ってあげないと……」


 ウルスラは慌ててこちらに近づき、僕の心臓の辺りに手を置いた。

 その人肌の柔らかさに鼓動を高鳴らせる余裕すらなく、僕はただ右腕の付け根の痛みに悲鳴を上げ続ける。


「――――――っあぁ!」


 何か硬く冷たいものが、心臓を突き破ったような強烈な痛みと不快感があった。

 そして、


「――『あなたが望む結末を』」


 ウルスラのその言葉と同時に、僕の意識はブラックアウトした。







「――っ!!」


 急速に意識が戻ってくる。

 僕はベッドから飛び起きた。


「……どこだ、ここ?」


 いや、わかる。

 ここは教会だ。

 ベッドだと思っていたのは、教会の椅子を何個も使って作られた、即席のベッドだった。


 記憶がはっきりしない。

 僕はどうなったんだ?

 たしかエノレコート王国に行って、不可侵条約を締結したときに、ウルスラとの結婚の話が出て――、


「あらあら。いったいどうしたんですか、あなた?」


「っ!? ウル、スラ……?」


 すぐ隣に、ウルスラがいた。

 僕が少し不安定な状態なのを察しているのか、そのまなざしは慈愛に満ちており、見られた者全てを安心させるような、

不思議な力があった。

 その穏やかな瞳に見つめられて、ようやく僕も平常心が戻ってくる。


 そうだ。

 あのあと僕とウルスラは結婚して、ディムールへと戻ったんだ。

 不可侵条約のおかげでエノレコートとの関係は改善されて、今のところ戦争なんて起こる気配は全くない。

 とても平和な世の中だ。


「僕は……」


 ウルスラはちょっと困った顔をして、


「まだ寝ぼけているんですか、あなた? もう、しっかりしてください。今日は、クレアちゃんの結婚式なんですから」


「ん? ……ああ、そうか」


 ……ああ、思い出した。




 今日は、ラル君とクレアの結婚式だ。




 クレアが結婚すると聞いたときは、相手がラル君とはいってもなんだかんだで難色を示したものだが、今は不思議と穏やかな気持ちだ。

 娘の結婚式を見る父親というのは、こういう心境なのかもしれない。


「ほら、あなた。みなさんが呼んでいるみたいですよ?」


「ああ、ありがとうウルスラ。行ってくるよ」


 教会の入り口のほうに、見知った顔が集まっているのが見えた。


「クレア! 久しぶりだね!」


「なに言ってるのクルト兄さん。つい昨日も会ったじゃない」


「あれ? そうだったっけ?」


「もう、忘れちゃったの? しっかりしてよ兄さん」


 ウェディングドレス姿のクレアが、クスクスと笑った。

 でも、いつの間にかとても大きくなったような気がする。

 今のクレアは、なんだかいつもより輝いて見える。


「うん。とっても綺麗だよ、クレア」


「ふふ、ありがとう、クルト兄さん」


 心の底からそう思った。


「クルトさん」


「……ラル君」


 タキシード姿のラル君は、男である僕ですらため息を漏らしてしまいそうになるほど様になっていた。

 銀髪翠眼の優しそうな顔立ちだが、僕は彼がそんな柔な男ではないと知っている。


「クレアのことを、頼んだよ」


「ええ、任せてください。クレアのことは、僕が必ず守りますから」


 ああ、ラル君。

 君がいれば、クレアは安心だ。そう思える。

 たとえ、どんなことがあっても守り通してくれよ。クレアのことを。


「ロード君も、来てくれたんだね」


「クレア様には、一人の友人としてとてもお世話になりましたからね。まあ、その結婚相手がラル君というのも予想はしていたのですが、本当にそうなるなんて」


 ロード君もタキシード姿で、ラル君の隣に並んでいる。

 ラル君と並んでいたら、どちらがクレアの嫁なのかわからなくなりそうになるな……。


「それに、アミラ様まで……」


「教え子たちの晴れ舞台じゃ。当然じゃろう?」


 アミラ様は、漆黒のドレスを羽織っている。

 いつも通りの服装だ。


 そのほかにも、ラル君のところのお父さんとお母さん、それにメイドのミーシャさんやカタリナちゃん、クレアの護衛のダリアさん。

 王家からは、父上や兄さんたちが来客として来ていた。


 クレアとラル君の結婚式なら他の貴族たちも来ていそうなものだが、今日の結婚式は身内だけで行うもののようだ。


「……っ、と」


 急に、立ちくらみがした。

 そのまま、僕は床に座り込んでしまう。


「クルト兄さん!? 大丈夫?」


「なに、ちょっと疲れてるだけさ。問題ないよ」


「きっと身体の疲れが今頃になってでてきたんですよ。無理しないで、式が始まるまで横になっていてください」


「ああ、悪いけどそうさせてもらうよ」


 心配そうな表情のラル君の提案に素直に従って、眠っていた場所に戻ってきた。


「おかえりなさい。ちゃんと挨拶できましたか?」


「子供じゃあるまいし、それぐらいできるさ」


 苦笑しながらも、僕はウルスラの隣に腰掛ける。


「式が始まる時間になったら起こしてあげますから、今はゆっくり寝ていてくださいな」


「うん。そうさせてもらうよ」


 僕がそう言うと、ウルスラは僕が寝ていたところへと座った。

 ちょうど、頭がウルスラの膝にくる位置だ。


「膝枕してくれるのかい?」


「教会の硬い椅子より、わたくしの太もものほうがあなたも喜ぶかと思いまして」


「嬉しいな。じゃあありがたく」


 僕は寝転がって、ウルスラの太ももの上に頭を置いた。


「気持ちいいですか?」


「うん。とっても」


 暖かく、弾力のある肌がものすごく心地よい。

 大きな乳房の影に隠れて、僕の頭を愛おしげに撫でているウルスラの顔が見える。

 僕はちょっといたずらしたくなって、その大きな乳房を下から軽くつついてみた。


「ひゃっ!?」


「あ、ごめん。びっくりさせちゃった?」


「もう……おっぱいを触るのは帰ってからにしてください」


「はいはい」


 ウルスラに怒られてしまったので、大人しく眠ることにした。


「クルト様」


「……? どうした、ウルス――っ」


 少し身を引いたウルスラが、僕の唇を塞いでいた。

 触れるだけのキスだったが、僕の心は暖かいもので満たされていく。


「ウルスラ……」


「……これで、安心して眠れますか?」


 顔を真っ赤にしながらも、そんな軽口を叩いてくるウルスラ。

 そんな彼女のことが愛おしくて、


「ウルスラ。愛してるよ」


「っ! わ、わたくしも、クルト様のことを愛しております」


「……そう、か」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の意識は急速に遠のいていく。

 視界が途切れ、感覚がおぼろげになっていく。


「クルト様?」


 遠くのほうから、ウルスラの声が聞こえてくる。

 それに応えられないことを少しもどかしく思いながらも、僕の心の中は穏やかだった。


 なにも心配することはない。

 明日も、明後日も、一年後も、十年後も、未来はずっと続いていくのだから。


 だから、今は眠ろう。

 明日は、今日よりもっといい日であることを願って。


「……おやすみ、――」


 ――――。


 ――――――――。


 ――――――――――――――――――――。






「――彼は、いい夢を見られたかしら」


「……あなたにしては優しいですね、エーデルワイス。どういう心境からの行動なんです?」


 既に事切れたクルトの死体を見下ろしながら、エーデルワイスとカミーユは、それぞれの言葉を発した。


 エーデルワイスがクルトに放ったのは、『あなたが望む結末を』。

 対象となった者が最も望むものを、その人間に見せるという『色欲』の固有魔術だ。


 カミーユは、エーデルワイスがこの魔術を使うのをほとんど見たことがない。

 ゆえに、今回の彼女の行動に少しばかり疑問を持ったのだ。


「ちょっと、ね」


 エーデルワイスの中には、僅かな後悔の念があった。

 せめて死ぬ前に一度、彼に子種を注がれておけばよかったという、そんなささやかな後悔が。

 クルトの心臓を『精霊の鍵』の供物にする以上、それは叶わぬ夢でしかなかったのだけれど。


「カミーユは、クルトさんが最後に見た光景を知っているの?」


「もちろん見ていますよ。送りましょうか?」


「……いえ、遠慮しておくわ。その思い出は、彼だけのものだから」


 人間の欲望というものはあまりにも浅ましい。

 クルトが最後に見た光景も、どうせカミーユの口からは語るのもはばかられるような内容に違いない。

 行為の相手がエーデルワイスだったのか、クレアちゃんだったのかは少しばかり気になるところだったが、それだけだ。


 エーデルワイスは、目の前で事切れているクルトの首を、手刀で掻き切った。

 滑らかな断面から大量の血が溢れ出し、エーデルワイスの身体と床を汚していく。


「――さようなら、クルトさん。もしまた来世で会うことがあったら、今度はきっと、身体を許してあげる」


 エーデルワイスは、その血で濡れた唇に口づけした。


 軽く触れるだけの、優しいキス。

 こんな口づけをしたのなんて、いつぶりだろうか。

 エーデルワイスはそんなことを思い、少し笑った。

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