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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第二章 少年期 ディムール王立魔法学院編
40/96

第40話 妹の誕生とミーシャとの別れ


 二年生になった。


 とは言っても、やることは変わらない。

 相変わらず、オレは鍛錬に明け暮れる日々を送っていた。


 Aクラスは今年クラス替えがないため、顔を合わせるメンツは一緒だ。

 またこれから一年よろしく、といったところか。


 クレアやロード、キアラとの関係もそこまで変化はない。

 変化があったとすれば――、




「ラルさま! お待たせしました!」




「遅いぞカタリナ」


 とことこと走りながら、玄関先まで飛び出して来たのはカタリナだ。

 外へ出掛けるためか、しっぽはスカート部分の中へと収納されているようだ。


「でも、似合ってるな、その服」


「――! あ、ありがとうございますっ!」


 カタリナはいつものメイド服ではなく、白いワンピースを着て、サンダルを履いている。

 容姿の可愛らしさもあって、どこぞの貴族のお嬢様と言われても違和感がないほどだった。


 しっぽを隠せるようにスカートの部分が少し長めのものを買ったつもりだったが、まだ微妙に短かったようで、カタリナは少しそわそわしている。

 その様子がまた可愛らしかった。


 これらはオレがカタリナに買い与えたものだ。

 カタリナは自分では服も買えないからな。

 カタリナが十二歳になって自分の給金で服などを買えるようになるまでは、衣服類はオレがカタリナに買い与えてやろうと思っている。


「今日はダブルデートだもんねー」


「……まあ、そうなるな」


 からかうような口調のキアラにそう言われて、その事実を真摯に受け止める。


 そう。今日は週末。

 前世で言うと日曜日で、今日は学校が休みなのだ。

 その休みを利用して、今日はカタリナとキアラと一緒に、家の近くにある喫茶店まで足を運ぼうと思っている。


 まあ、デートと言うには少し距離が近すぎるような気もするが、カタリナは嬉しそうだから問題ない。


「うふふっ」


「ん? どうした」


「なんでもないですー」


 そう言いながら、カタリナはオレの手に自身の手を重ねてくる。

 オレはカタリナのやりたいことを察し、その手を繋いでやった。




 ――あの八歳の誕生日以来、オレとカタリナの仲はとても親密になった。




 暇さえあればカタリナに構うようになり、週末にどこかに一緒に出掛けることも珍しくない。

 はっきり言って、ほとんど彼氏彼女の関係と言っても過言ではない。

 十二歳まではフレイズたちには認められないものの、オレたちの関係を黙認されている節はある。


 十二歳になったら、やはり結婚だろうか。

 しかし、そうなると気になる人物がいる。


「ん? どうしたのラルくん。私に告白でもしてくれるの?」


 オレの視線に気付いたキアラが、微妙に口元を緩めながら軽口を叩いた。


「……お前、オレの気持ち知ってんだろ」


「うーん。でも、ラルくんはカタリナちゃんがいいんじゃないの?」


 たしかに、オレはカタリナのことが好きだ。

 正直に言って、将来結婚したいと思えるほど好感度は高い。

 しかし、それだけじゃない。


「オレは、キアラのことも好きだよ」


「でも、それは……」


 キアラは口ごもる。

 おそらく、カタリナに気を遣ってのことだろう。


「――カタリナは、キアラさんもラルさまのお嫁さんになればいいと思います」


「カタリナちゃんまで……」


 オレの言葉だけで、キアラと話をしていることを読み取ったらしいカタリナが、自分の考えを述べる。


「キアラさんはラルさまのことが好きで、ラルさまもキアラさんのことが好きなんですよね? それなら何も問題ないじゃないですか」


「カタリナの言う通り。オレはキアラのことが好きなんだ。たとえ幽霊だろうが、まだ肉体を取り戻せてなかろうが関係ねえな」


 別にいいじゃねえか。

 ここは異世界なんだ。

 国で一夫多妻が認められているんだから、オレがカタリナとキアラの二人を愛して何がいけないというのか。


 というか、なぜ異世界人であるキアラが、そこを重要視しているのかがわからない。


「……ありがとう、ラルくん。カタリナちゃん」


 そう言って、キアラが微笑んだ。

 わかってるのかわかってないのか微妙な顔をしているが、まあ、今はいい。


「キアラ」


「どうしたの、ラルくん?」


「オレが十二歳になったら、『最果ての洞窟』に行こう」


「えっ? なんでまた急に」


 キアラは不思議そうに首を傾げている。


「ほら、『霧の森』の迷宮を攻略したときに約束しただろ? オレもキアラやカタリナと結婚した後はあんまり無茶できなくなるだろうし、一回どんなものなのか行ってみようと思ってさ」


「……そうだね。じゃあラルくんが十二歳になったら、私と一緒に『最果ての洞窟』に行ってみようか」


 キアラは少しの間考え込むような仕草をしていたが、やがて首を縦に振った。


 今になって考えると、オレは思うのだ。

 『霧の森』の迷宮を攻略したあのとき、キアラがどうしてあんな提案をしたのか。


 もしかしたら、何か、キアラには『最果ての洞窟』に行きたい理由があるのではないかと。

 そして、それはおそらく――、


「ラルさま! 早く行かないと遅れちゃいますよ?」


「あ、ああ。悪い。じゃあ行こうか」


「はいっ!」


 人気の店なので、お昼ご飯の時間帯である今は、急いで行かないと席を確保できなくなるかもしれない。

 時間が迫っていることに気付き、オレたちは若干急ぎ足で喫茶店へと向かったのだった。




 そして、二年生になってしばらくした頃。

 妹が産まれたという報せが入った。


 予定より少し早い出産に、オレたちは慌てに慌てた。

 そもそも、お産のときにはガベルブック領に行って、オレも手伝おうと思っていたのだ。

 まあオレがいなくても無事に生まれたのなら、それでいいんだけどな。


 オレはカタリナとキアラ、それにメイド二人を連れてガベルブック領へと向かった。

 オレ一人なら片道で三時間くらいなのだが、馬車で行くため丸一日くらいは見ておいたほうがいい。


 そして、ガベルブック領に到着した。

 疲れてフラフラになっているカタリナとメイドたちを引き連れて、屋敷の中へと入る。


 屋敷のメイドたちに案内され、ヘレナが寝ている部屋へと向かった。


「あら、ラル。いらっしゃい」


 部屋に入ると、ベッドで横になっているヘレナが出迎えてくれた。

 その腕の中には、赤ちゃんが抱きしめられている。

 どうやら母子共に無事のようだ。

 その事実に少し安堵した。


 フレイズの姿はなかった。

 最近はまた本業のほうが忙しくなっているらしいから、お産のときだけは一緒にいて、すぐに仕事に戻ったのだろうか。


「母様、お身体のほうは大事ありませんか?」


「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ラル」


 その言葉通り、ヘレナは調子が悪そうには見えなかった。

 本当に大丈夫なのだろう。


「私も久しぶりだったので、お産の途中は少し焦りましたが……無事にお生まれになって安心しています」


 ヘレナと赤ちゃんの様子を見て、ミーシャが安堵の吐息を漏らしている。

 なんだかんだで、ミーシャもうまくいくかどうか不安だったのだろう。


「そういえば、ミーシャさんは、もうすぐご結婚されるんでしたっけ」


 オレはふと、この前、オレの誕生日でミーシャが漏らしていた言葉を思い出した。


「はい。今年の七月頃にはお暇をいただきたく思っております」


「けっこう急な話ですね……」


 今が五月だから、あと二ヶ月弱でミーシャとはお別れになるということだ。


「実家からうるさく言われてしまいましてね……。いい加減お前も結婚しなさい、と」


 ちなみに、ミーシャは今二十五歳だ。

 現代の日本なら二十五歳で結婚と聞くと適齢期ぐらいに思える。

 だが、こちらの世界だと、二十五歳で結婚というのはだいぶ遅い方らしい。


 見合い結婚のようだが、相手は地元ではそこそこ名の知れた商人家の息子だそうで、経済力はそれなりのようだ。

 ミーシャも「私も、好んでもない人と結婚なんてしませんよ」と苦笑混じりに言っていたので、けっこういい人なんだと思う。


 しかし、ミーシャがいなくなるのか。

 最近は割と顔を合わせていただけに、寂しくなるな。


 ミーシャの結婚先は、ガベルブック領からそこまで離れていないところらしいので、会いに行く約束をした。


「母様、赤ちゃんを抱かせてください!」


「いいわよー。はい、どうぞ」


 ヘレナに赤ちゃんを渡される。

 ……軽い。

 これが本当に人間なのかと疑いたくなるほどの軽さだ。


 でも、この子もちゃんと生きているんだよな。

 そんな当たり前のことに感動を覚えながら、ふと気になることが一つ。


「名前はもう決めてあるんですか?」


「ええ。エリシア、っていうの」


「エリシア、ですか。いい名前ですね!」


 オレは赤ちゃん――エリシアを抱きしめる。

 名前からして女の子だろう。

 まだ猿のような顔で、頭の毛も生えていないが、そのうちきっとヘレナに似た美少女になるに違いない。


 肌の色は全然似てないけどな。

 ヘレナが灰色っぽい肌なのに対し、オレやエリシアはかなり色白だ。

 フレイズも色白だから、単純に二人ともフレイズに似たのか、灰色っぽい肌が劣勢遺伝子なのかね。

 うーん。わからん。


「ラルさまー、カタリナにも抱かせてください!」


「おう。落とすなよ?」


「……やっぱり、ちょっと怖いのでラルさまが抱いてるのを見てるだけにします」


 自分の腕力のなさを悟ったのか、カタリナは赤ちゃんの抱き上げを辞退した。

 まあ、普段から一人で買い物に行って荷物も持ってるんだから、二、三キロぐらいの重さ、どうってことないと思うけどな。


「カタリナちゃんの妹になるかもしれない子だから、カタリナちゃんも可愛がってあげてね?」


「――っ! はい!」


 ヘレナのからかいの声に、カタリナは顔を真っ赤にして、しかし嬉しそうに頷く。

 まったく。そういうのは、オレがいないところでやってほしいものだ。




 そのあともしばらくヘレナたちと談笑していたが、その途中でふと思ったことがあった。


 ――この子、転生者とかじゃないよな?


 それは、オレ自身が転生者だからこそ思いついたことだった。

 転生前のオレなら鼻で笑ったであろう考えだが、実際に有り得ることがわかっているなら全く笑い飛ばせる可能性ではない。


 そう勘ぐったオレはその夜、こっそりと母様の部屋に忍び込み、エリシアに「お前の正体はわかっているんだぞ……」とか「うまくやったようだが……オレの目は誤魔化せなかったようだな」とか日本語で言ってみたが、特に反応はなかった。


 ものすごく恥ずかしい気持ちになりながら、オレは早足で自分の部屋へと戻ったのだった。

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