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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第二章 少年期 ディムール王立魔法学院編
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第38話 カタリナのプレゼント作戦 前編

今回はカタリナ視点です。


 最近、肌に触れる風に暖かいものが混じってきました。

 寒かった冬が終わり、暖かな春が近づいている気配がします。


「ふぅ……」


 ベッドで爆睡していたラルさまを叩き起こし、日課である庭掃除を終え、カタリナは息を吐き出しました。

 カタリナがラルさまのところにやってきて、もうすぐ三年になります。

 ということはつまり、毎年やって来る、あの日が近づいているのです。




 そう。ラルさまのお誕生日です。




 狐人族には毎年誰かの誕生日をお祝いするという習慣はなかったので最初は戸惑っていましたが、それも最初だけの話。

 今では毎年来るこの日を楽しみにしています。

 とはいえ、カタリナは自分の誕生日を覚えていなかったので、ラルさまが引き取ってくださった日がカタリナの誕生日になっているのですが……。


 おっとっと。話が逸れました。

 もうすぐ、ラルさまのお誕生日がやってくるのです。

 そして、カタリナは今年、ラルさまにしてあげたいことがあります。


 今年からは、ラルさまにお誕生日のプレゼントを贈ってあげたいのです。


 普段からいっぱいお世話になっているラルさまに、ほんのささやかなお返しがしたいのです。

 カタリナなんかのプレゼントを、ラルさまが受け取ってくれるかは少し怪しいですけど……カタリナ、負けません。


 いや、でもラルさまはお優しいので、なんだかんだ言ってどんなものでも受け取ってくださるような気もします。

 ……そうですね。多分ラルさまならどんなものでも受け取ってくださるでしょう。


「うーん……どういうものがいいんだろう」


 それが一番の問題でした。

 いくらラルさまがお優しいとはいえ、本当に喜んでもらえそうなものを贈りたいと思うのは当然のことです。

 プレゼントは、誰かと相談してしっかりと吟味して決めたいと思っていました。


 ですが、メイドさんたち以外に、カタリナが相談できそうな人はほとんどいません。

 メイドさんたちには相談してみたのですが、あまりラルさまが欲しいと思えるようなものは思いつかないようでした。

 ミーシャ様やヘレナ様なら、何かいい案を出してくれそうな気がするのですが、奴隷の身分でカタリナの方からお二方に会いに行くわけにもいきません。


「うーん、困りました……」


 他に相談できそうな人は――、


「やあ、おはよう。カタリナちゃん」


「わひゃあ!」


 考え事をしていたせいで、背後から声をかけられた瞬間に飛び上がってしまいました。


「あ、ごめんね。びっくりさせちゃったみたいだね」


「だ、大丈夫です。おはようございます、ロードさま」


「うん。おはようカタリナちゃん」


 ロードさまはにこやかな表情の浮かべて、カタリナのことを見つめています。

 何か用事でもあるのでしょうか?


「カタリナちゃん、ラルはもう起きてるかな?」


「あ、はい。時間も時間なのでそろそろ朝ごはんを食べ終わる頃だと思いますけど……」


 起こした後しばらく、ラルさまはのろのろと動いていましたが、さすがにあのまま二度寝に入ったなんていうことはないはずです。

 ……ないはずと思いながら、少し心配になってきました。


「一応、様子を見てきますね」


「うん。ありがとう」


 そう言って屋敷の中に入ろうとしましたが、ふと、思いついたことがありました。


「ロードさま。折り入ってご相談があるのですが……」


「えっ? カタリナちゃんが僕にお願いなんて珍しいね」


 ロードさまは少し驚いた表情を浮かべていましたが、すぐに微笑んで、


「うん。僕で良ければ聞くよ。どういう相談なのかな?」


「あ、ありがとうございます!」


 ほとんど即答でした。

 ロードさまのお言葉に甘えて、カタリナはロードさまに相談をすることにします。


「えーっとですね。もうすぐラルさまの誕生日で、そのときに誕生日プレゼントを渡そうと思ってるんですけど、なかなかいいものが思いつかなくて……」


 ラルさまとすごく仲がいいロードさまなら、ラルさまのお誕生日プレゼントについて、何かいいアイデアをいただけるに違いありません。


「うーん。ラル君へのプレゼントかぁ」


 ロードさまはしばらく考えていましたが、やがて首を横に振りました。


「特には思いつかないな。言われてみれば、ラル君が欲しいものってなんなんだろうね」


「ロードさまでも思いつきませんか……。そうなんですよね。ラルさまが欲しいものってなんなんでしょう」


 いくら考えても、なかなか思いつきません。

 カタリナが一旦思考を放棄しようとした、そのときでした。


「カタリナちゃん。もしよかったら、僕と一緒に、ラル君のプレゼントを買いに行かないかい?」


「えっ?」


 それは、思ってもみない提案でした。


「プレゼントを買いに行くとなったら、カタリナちゃんは一人で行くでしょ? いくら王都とはいえ、女の子のひとり歩きは感心しないからね。というか、普段からラル君がカタリナちゃんを一人で歩かせてるのもちょっとどうかと思うんだけど」


「あはは……」


 本当は、キアラさんが今も昔もカタリナの後をつけていたらしいので、ラルさまと一緒に出かけているぐらいには安全なのですが、それをロードさまに言うわけにはいきません。


 あ、そういえばキアラさんにもラルさまのプレゼントのことを相談できますね。

 後でキアラさんにも相談しなきゃ。


「じゃあ、今日の放課後に迎えに来るよ。ラル君はアミラ様のところで訓練してから帰ってくるだろうから、早めに帰れば多分なんとかなるはずさ」


「え? でも本当にいいんですか? ご迷惑なんじゃ……」


「いいんだよ。僕も前から、カタリナちゃんと出かけたいと思ってたからさ」


「あ、ありがとうございます!」


 前からそんな風に思ってもらえていたなんて、恐縮でした。

 やっぱり、ロードさまはお優しいです。


「それじゃ、また放課後に来るよ。あ、ラル君には内緒だよ?」


 口の前に人差し指を立てて、ロードさまがいたずらっぽくウィンクします。

 その様子が、少し可愛いと思ってしまいました。


「わかりました! それじゃあ、放課後ぐらいの時間にお仕事を終わらせられるように頑張りますね!」


「うん。楽しみにしてるよ」


 ロードさまがそんな言葉を言い終えたのと同時に、ラルさまが玄関を飛び出して、こちらへとやってくるのが視界に映りました。


「悪いロード。ちょっと遅れた」


「まったく。ラル君はもうちょっと早く起きるっていうことを覚えるべきだよ」


「わかってねえなあロード。ギリギリまで惰眠を貪る快感は最高だぜ?」


「僕までそれをやってたら、一緒に登校できなくなるじゃないか……」


 ロードさまは呆れ顔でそんなことを言います。

 本当にその通りだと思いました。


「さて、と。じゃあカタリナ。行ってくるわ」


 ラルさまがこちらを向いた瞬間、カタリナの心の底のほうが燃え上がりました。

 ……やっぱりラルさまは、かっこいいです。

 もちろん、そんなことを口に出すはずもないんですけど。


「はい、ラルさま! 行ってらっしゃいませ! ロードさまも、どうかお気をつけて!」


「うん。ありがとうカタリナちゃん。行ってきます」


 カタリナがいってらっしゃいの言葉をかけると、お二方は楽しそうに喋り合いながら、学院のほうへと歩いていきました。

 ……その姿を見ると、少しだけ羨ましくなります。

 もし、カタリナがラルさまやロードさまと一緒に学院に通うことができたなら、どれだけ楽しい毎日になるんでしょうか。


 もちろん、今の生活に不満があるわけじゃありません。

 メイドさんたちもキアラさんも、カタリナに優しくしてくれますし、ラルさまは言うまでもありません。


「さあ、今日も一日頑張ろう!」


 自分で自分を激励して、カタリナはお仕事の続きをするために、屋敷の中へと戻ったのでした。




「やあ、お待たせカタリナちゃん」


「いえ、カタリナも今お仕事が終わったところだったので!」


 放課後の時間になり、約束通りロードさまが屋敷へとやってきました。

 キアラさんにはあらかじめ事情を説明して、カタリナとロードさまの買い物についてきてもらえるようにお願いしています。


 そして、キアラさんに相談したおかげで、ある程度ラルさまにプレゼントするものも絞ることができました。

 キアラさん曰く、『ラルくん絶対喜ぶよ!』だそうです。


「えへへ……」


 ラルさまの喜ぶ姿を想像して、頬が緩むのを抑えられません。

 はっ、いけないいけない。

 今、カタリナの目の前にはロードさまがいるんでした。

 緩む頬を意識して引き締めて、カタリナはロードさまのほうを向き直ります。


「それじゃあ行こうか」


 そう言って、ロードさまがカタリナのほうへ手を差し出してきました。


「はい! よろしくお願いします!」


「っ……。うん、よろしく」


 カタリナがそう言ってペコリとお辞儀すると、ロードさまは出していた手を引っ込めました。


「……?」


 その動作を不思議に思いながらも、カタリナはロードさまの隣に並びます。


 こうして、カタリナたちは、お店が集まっているところへ向けて歩き出しました。


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