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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第一章 幼少期編
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第2話 幽霊との遭遇


 オレがこの世界で生を受けてから、およそ二か月が過ぎた。


 どうやら、オレの名前はラルフというらしい。

 メイドがいつもオレのことを『ラルフ様』と呼んでいるので間違いないだろう。

 母様はオレのことを『ラル』と呼んでいるが、こちらは愛称のようだ。


 ちなみに母様の名前はヘレナで、メイドの名前はミーシャ。

 二か月経っても数えるほどしか名前が出てきていないが、おそらく合っているはずだ。


 さて。

 オレがこの二か月間何をしてきたのかというと、主に自分の身辺の調査だ。


 とはいえ、そこまで難しいことはしていない。

 主に家の構造を把握したり、他の部屋から拝借してきた本を使ってこの世界の固有名詞を覚えたり、そんなところだ。


 この前気が付いたことだが、オレは何故か習ったわけでもないのにこちらの世界の言葉が読める。

 理由はよくわからないが、かなり便利だ。


 最近では、彼女たちがいない隙を見計らって家の中をはいはいして動き回っている。

 まあ、最終的には見つかって連れ戻されるのだが。


 ヘレナやミーシャも、四六時中この部屋にいるわけではない。

 特にヘレナは何の仕事をしているのかよくわからないが、彼女たちにもほかにやることがあるのだろう。


 それにしてもこの家は広い。

 屋敷と呼ぶのがふさわしいレベルだ。

 オレが入ると危ないからか、鍵がかかっている部屋も多い。


 そんなある日、勝手に子供部屋を脱走して書斎らしき部屋を漁っていると、オレは掘り出し物を見つけた。

 この世界について書かれた本『世界の歴史』と、魔術について書かれた本『魔術学入門』が置いてあったのだ。


 これには、さすがのオレもテンションを上げざるを得なかった。

 この世界のことと、魔術について知ることはオレにとっては急務だったからな。


 で、『世界の歴史』を実際に読んでみたはいいものの、これがなかなか大変だった。

 人種や大陸、文化や宗教など、前世で言う世界史と同じような内容が、長ったらしい文章で延々と羅列してあったからだ。


 とは言っても、まったく違う世界の全く知らない歴史。

 これが面白くないわけがない。


 まだ読み始めて間もないため、完全に内容を把握するまでには時間がかかるだろうが、ゆっくりと読み進めていこうと思う。


 『世界の歴史』のほうは、読むこと自体は容易だったので、時間をかければ読破できるという自信がある。

 問題は『魔術学入門』の本のほうだった。




 魔術の使い方が、どうしてもわからないのだ。




 魔術のしくみ自体は比較的簡単だ。

 正しい詠唱をして、魔力を練りだせばそれだけで発動できる、と本には書かれてある。


 だが、何度『魔術学入門』の本を読んで、その内容を実践しようとしても、自分の中から魔力の流れ? を感じ取ることができない。

 魔力を持っている、という実感がないのだ。


 まさか、オレには魔術の適性がないのだろうか……?


 この本には、魔術の適性についての記述はない。

 そういったものが存在しないのか、一般常識すぎて載っていないのか、どちらかはわからない。


 とにかく、オレはいまだに魔術を発動できる気配がなかった。


 まあ、魔術が使えなくても武器が使えれば、この世界でも生きていけるだろう。

 幸いにもこの家は裕福そうだし、すぐに追い出されるなどということもあるまい。


 時間はある。今できることを、最大限の努力をもってやればいい。






 そう頭では合理化しながらも、魔術が使えないことで悶々とした日々を過ごしていた、とある日の夜のこと。


 オレがいつものようにベッドで寝ていると、風と共に、窓際のカーテンが勢いよくたなびいた。


「あ」


 あいつだ。

 オレがこの世界で目覚めて、一番最初に出会った少女が、すぐ近くにいる。


 しばらくすると、深緑色の長い髪をかき上げ、心なしか疲れた表情を浮かべた少女がオレの前に姿を現した。

 初めて見たときもそうだったが、何もないところからいきなり出てくるから心臓に悪い。


「ふぅ、やっと出てこれた」


 よくわからないことを呟きながら、少女はこの前のようにオレの頭上に立った。

 だが、その表情は前見たときのものとはずいぶん違っている。


 彼女は頬をぷくーっと膨らませ、目を潤ませながら、


「もう、いきなり弾き返すことないでしょ!? たしかに、気持ちを抑えきれなかったのは私だし、いきなりその……キ、キスしたのはまずかったと思うけど……」


 これ以上ないほどに、はっきりと怒っていた。

 クールな印象が強かっただけに、矢継ぎ早に喋る少女を見上げて、オレはポカンとした表情を浮かべてしまう。


「……えっと」


 とりあえず何かを答えようと、声を発した。

 一人でいるときに発声の練習もしているので、日常会話ぐらいなら問題なくできる。


 何気なくやったその動作に、少女は目を丸くして、


「え、あなた、もう喋れるの?」


 あ、しまった。迂闊だったな。


 オレは今、生後二か月ほどの幼児なのだ。

 そんなのがもう言語を話せるなんてどう考えてもおかしい。


 まあ、言ってしまったものは仕方がない。諦めよう。


「うん」


 ここまで来て嘘をついてもしょうがないので、彼女の問いにコクコクと頷く。


「きゃぁぁあああ……!!」


 両手を両頬に当てて、身体をくねらせながら少女が悶え始めた。

 その頬は目に見えてわかるほどに紅潮している。


「やばいよぉ、超かわいいよぉ……!! ねえ、このままお持ち帰りしてもいいかな? いいよね?」


 ダメに決まってんだろーが。


 そんなオレの内心のツッコミなどいざ知らず、両手をわきわきさせながら、少女がこちらへと近づいてくる。

 なんか目が怖かったので、微妙に体勢を変えて少女から逃れようとした。


「あ、ちょっと待って本気で拒絶しないで。さすがにまた『呪術系統無効』の能力を受けたからって、二か月も動けなくなるのは勘弁してほしいから……」


「『呪術系統無効』?」


 少女の口から聞きなれない言葉が飛び出してきたので、思わず聞き返してしまった。


「えっと、『呪術系統無効』っていうのはね、幽霊とか呪いとか、そういうものからの接触をまとめて無効にできる能力なの」


 ふむふむ。なるほど。


「その能力を、オレは持ってるって言うのか?」


「そうだよ。もー、本当に大変だったんだから」


 そうぼやきながら、唇を尖らせる少女。

 少し怒っているようではあるが、その姿には愛らしさしか感じない。


 ついでに、さっき可愛いと言われて少し癪に障ったので、わざと乱暴な感じの口調にしてみた。

 これで話もスムーズに進むだろう。


「……で、なんでその能力があると、アンタが二か月も動けなくなるハメになったんだ?」


 そこがよくわからない。


 説明を聞く限り、『呪術系統無効』は、幽霊や呪いなどに対する耐性が付与される能力のはず。

 それなのに、どうして目の前にいる少女に悪影響を及ぼすことになっていたのだろうか。


「え? そりゃあ……。ああ、ごめん。自己紹介がまだだったね」


 オレの疑問の声にどこか納得した様子で居住まいを正すと、少女は満面の笑みを浮かべて、




「初めましてラルくん。私の名前はキアラ。職業は幽霊です。よろしくっ!」




 そんなことを言い出した。

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