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寵愛の精霊術師  作者: さとうさぎ
第二章 少年期 ディムール王立魔法学院編
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第16話 不穏の幕開け


「ラルさまー! 起きてくださーい! 朝ですよー!」


 可愛らしいけれどやかましい声と、身体が揺すられることによる振動のせいで、まどろみの中にあった意識がゆるやかに覚醒する。


「うるっさいなぁ……今何時だと思ってんだカタリナ……」


「もう朝の八時を回ってます! 早くしないと遅刻しちゃいますよ!!」


「……えっ!? 嘘だろ、もうそんな時間かよ!?」


 ベッドから身を起こして時計を見ると、カタリナの言う通り、朝の八時を少し過ぎたところだった。

 今から急いで準備しても、ギリギリ間に合うかどうかといった時間だ。


「いや、でも夜の八時過ぎという可能性も……」


「現実逃避してないで、さっさと用意してください!」


「あっ、はい」


 洗面所で顔を洗い、カタリナが押し付けるように渡してきた制服に腕を通しながら、カタリナが作ってくれたパンにかぶりつく。

 相変わらず美味である。


「うん、美味い」


「今はそんなに味わって食べなくていいので急いでくださいラルさま! もうロードさまがいらっしゃいましたよ!」


「マジか。急がないとな」


 ロードを待たせるのは気が引ける。

 さっさと用意してしまわなければ。


 身だしなみを整えていると、玄関先に出て行ったカタリナの声が聞こえてきた。


「おはようございます、ロード様!」


「おはよう、カタリナちゃん。今日も可愛いね」


「かわっ……!? あああ、えーっと、あ、ありがとうございます……」


 カタリナが顔を赤くしている様子が、手に取るようにわかる。

 まったく、一応は人の奴隷なんだから口説くなよ……。


「悪い、待たせたな」


 用意を終えて玄関の方へ行くと、ロードが待っていた。

 やはりカタリナと雑談に興じていたようだ。


 ロードはオレのほうを一瞥すると、表情を和らげる。


「ううん。そんなに待ってないから大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」


「いってらっしゃいませ、ラルさま、ロードさま!」


「うん。いってきます」


「カタリナちゃんも、家事頑張ってね」


「はい!」


 満面の笑みを浮かべたカタリナに見送られながら、オレたちは家を後にする。


「カタリナちゃん、可愛いよね。僕の好みだな」


「……カタリナはやらんぞ?」


「ふふっ、冗談だって。そんなに怖い顔しないでよ」


 ロードは冗談だと笑うが、オレは本気にしか思えなかった。


 まあ、何があってもカタリナは渡さないけどな。

 あいつはオレのもんだ。


「まあ、この話はこれぐらいにしとこうよ。ほら、今日はあの日だし。変にぎすぎすしてても楽しくないしね」


「わかってるよ。オレもずっと楽しみにしてたんだ」


 そう。

 なにせ今日は、初めて魔術の授業がある日なのだから。




 ディムール王立魔法学院に入学してから、およそ一か月が過ぎた。


 学校のほうは順調だ。

 オレとロード、そしてクレアは、クラスの中でもトップの成績を修め続けている。


 友達も増えた。

 ロードほどではないが、ある程度魔術や体術ができる生徒も多い。

 さすがはあの入学試験で生き残っただけのことはある。


 とはいえ、やはり一番の友達はロードだ。

 最近も、クレアと一緒にほとんど毎日ロードの家に遊びに行かせてもらっている。


 ロードの父親はかつて名のある騎士団長だったらしいが、怪我が原因で今は隠居しており、ロードの家に行くたびにオレやクレアのことを歓迎してくれる。


 見た目から推測する限りでは、ロードの父親はフレイズより二周りぐらいは歳上なのではなかろうか。

 というより、フレイズとヘレナが若過ぎるだけなのだろう。

 フレイズは二十代後半ぐらいだし、ヘレナに至っては二十代になってそれほど経っていない。


 冷静に考えると、前世の日本で言えばフレイズって完全にロリコンの性犯罪者だよな。

 こちらの世界の成人は十五歳だからまあいいんだろうけど。




 ……親の話はこのくらいにしておこう。


 さて。

 今日は魔術の授業がある。

 この日をどれほど待ちわびたことか。


 オレたちAクラスの面々は既にグラウンドに出て、担当の教師が来るのを今か今かと待ち構えていた。


 やはり魔術の授業は楽しみなのだろう。

 オレだけでなく、ほかの奴らもそわそわしている。


「珍しいね。ラルがそんなにそわそわしてるの」


 楽しみすぎて若干挙動不審になっていたせいか、クレアからそんなツッコミを入れられた。


「オレだって普通に、楽しみなことはドキドキワクワクするぞ」


「そう……なの?」


「そうだよ」


 クレアは小首を傾げているが、とんでもないことだ。

 オレをなんだと思っているのか。


「ラル君は、いつも冷静なイメージがあるからね。今日みたいにテンションが高いのは珍しいよ?」


「そうなのか」


 ロードもクレアの意見を支持したので、一応納得しておく。


 そういえば、今日は朝からキアラの姿を見ない。

 まったく、どこをほっつき歩いてるんだか。


 それに最近はなぜか、キアラがオレに魔術の訓練をするのを避けるようになってきた。

 もしかしたらキアラは、上級以上の魔術は一部しか扱えないのかもしれない。

 その辺も含めて一回吐かせる必要があるな。


「……ラル、なんか悪い顔してる」


「おっと。これは失敬」


 危ない危ない。

 考えたことが表情に出ていたようだ。

 気を付けないとな。




 しばらくすると、担当の先生がグラウンドに姿を現した。


 ……見覚えのある顔だ。

 どこかで会ったことがあるような。


「よう、ガベルブック。こうやって顔を合わせるのは、試験のとき以来か」


「あ、その節はどうも」


 その言葉で思い出す。

 現れたのは、入学試験の日にオレやロードの担当になった先生だった。


「よーし、全員そろってるな。俺の名前はレオ・ウルゾフだ。これからよろしく頼む」


「……あのー、先生」


「ん? 何だオールノート」


 ロードが先生に質問したのを見て、またか、と思った。

 こいつはほとんど毎回、初対面の先生に向かって同じように質問や指摘をする習慣があるようだ。

 それらはだいたい、教師の質を見抜くのに使っているようだが、今回はいつもとは少し違った。


「先生の隣にいるその子は、一体誰なんですか?」


 うん。

 それはオレも気になっていた。

 先生の隣に、オレたちと同じぐらいの年頃の女の子が立っているのだ。


 見た目だけで言えば、クレアに似ていた。

 顔立ちの整った金髪碧眼の美幼女で、背中まで伸びる長い髪に、頭に黒いリボンをつけている。

 だが、人に与える印象としては全くの正反対になるだろう。


 その双眸は鋭く、口元に浮かべている笑みは一種の妖艶さすら漂わせている。

 どう見てもせいぜい八歳かそこらの幼女がしていい表情ではない。

 まだ入学してから一か月程度しか経っていないが、新入生か何かだろうか。


「ああ。この方こそ、『精霊級魔術師』、アミラ様だ」


「アミラじゃ」


 自分の名前を一言だけ発し、ものすごく不遜な態度でオレたちを見下ろす幼女。

 いや、身長が同じぐらいなので見下ろせてはいないが、見下されている感じがすごい。


 しかし、精霊級魔術師だと?

 こんな幼女が……?


 いや、ここはファンタジー世界だ。

 見た目の年齢と中身の年齢が一致しているとは限らない。


 精霊級魔術師ということは、神級の次に強力な魔術を行使できるということに他ならない。

 それがどれほどのものなのか、想像もつかないというのが正直なところだ。


「安心するといい。ワシが用がある生徒はほとんどいない。そなたとそなたと……まあ、そなたも許容範囲内か」


 そう言ってアミラ様が目で示したのは、オレとロード、最後にクレアだ。


 オレたちには用があるのか。

 この人あんまり性格よくなさそうだから、できれば何事もなく帰ってくれたほうがありがたいのだが。


「それにしても……」


 オレのほうを見据えるアミラ様が、感嘆の息を漏らした。


「そなたはとても精霊に愛されているな。将来は、ワシを超える魔術師になるやもしれぬ」


「まさか……それほどなのですか?」


 ウルゾフ先生が驚きの声を上げる。


「ああ。ワシも将来が楽しみじゃ。とにかく、ラルフ・ガベルブック、ロード・オールノート、クレア・ディムールの三人は、ワシが直々に魔術の稽古をつけてやろう」


 えっ、マジかよ。あんまり嬉しくないな。

 お前らは何か言うことはないのか、と隣にいるロードとクレアを見るが、二人は目をキラキラさせてアミラ様のことを見ている。ダメだこりゃ。


「さて、ではさっそく……」




「――――アミラ様!」




「……なんじゃ、騒々しい」


 校舎のほうから、職員らしき女の人が走ってきた。


 声が切迫している。

 ただ事ではない雰囲気だ。


「落ち着いて話してくれ。何があった?」


 ウルゾフ先生も、女性を落ち着かせようと話しかけている。

 生徒たちも、その異様な雰囲気に飲み込まれて不安げな表情を浮かべていた。




 嫌な予感がする。

 そして厄介なことに、オレの予感はよく当たるのだ。


 数秒後。

 乱れた息を整えた女性が、その場にいる全員に聴こえるほど大きな声で叫んだ。




「王城が、『憤怒』を名乗る女に襲撃されました!」

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