エピローグ
大学を卒業してから、もうしばらく経つ。
あれから俺は、考えていた職業に就くことができ、自分には勿体無いくらいの彼女も出来た。ちなみに、告白したのはこちらからだ。
夏になって、仕事も一段落。長期的な休暇をいただけた。
と言っても有給休暇だが。
その期間を狙って、俺はある人物と待ち合わせて出かけることになっている。ちなみに相手は女性だ。
恋人である結衣にはその旨を伝えているので、浮気にはならない。
そして待ち合わせの場所。時間になるよりも随分と早くに来た。どんなことであろうと、相手を待たせるのは失礼だからな。
「あ、早いね。待った?」
待ち合わせをしていたファミレスで、ドリンクバーから持ってきたアイスティーを飲んでいると、待ち人が手を挙げてやってきた。
「よ。久しぶりだな」
「うん。大学卒業以来?」
「そうだな……それくらいか」
俺が待ち合わせてたのは、佐藤希美。卒業しても、メールのやり取りとか、電話とか、連絡はとっていた。まぁ稀にだが。
あんま変わらない。ってもまぁ、俺は他人の変化にはなかなか気づけない、鈍い性格らしいけど。
彼女は今、地元近くの塾で英語の教師をしている。あれだけ苦手だって言ってたのに、よくなれたもんだ。しかも教員免許を取得しようと考えているとか。
ちなみに俺は呼び出された側。さらに追加で、俺が場所と時間を決めた。決めさせられた。丸投げされた。
俺って、呼び出された側のはずなんだけどな……。
「ミノくん、あんま変わんないね。でもちょっと太った?」
「……ま、幸せ太りってやつか?」
結衣がうまいもんを作ってくれるんだよね。つい食っちまう。
俺と結衣はただ今一緒に住んでいる。と言ってもまぁ、俺が結衣の部屋に入り浸ってるようなもんだが。
「あ、惚気けてるな?」
「お前も、幸せそうじゃねぇか」
と俺は希美の左手を見て呟く。
その薬指には、銀に輝く指輪がはめられていた。
希美もあれから恋人ができて、驚きの早さでその男と結婚し、式を挙げた。その時の席には俺も出席して、うまいご馳走をいただいた。うまかったなぁ。
そして二人でアパートの一室を借りて一緒に住んでいるそうだ。
「えへへ……まぁね」
希美は幸せそうに笑って、照れたように頬を染める。
それからそれぞれ何か軽食を注文し、しばしの雑談。
今どうしている。恋人との仲のこと。仕事は順調かどうか。とかまぁ、そんなようなこと。そうしてるとそのうち料理が運ばれてきた。
それをつまみつつ、会話に戻る。てか、そういや、肝心のこと聞いてねぇや。
「そういや。何で俺を呼び出したんだ?」
俺はこいつから呼ばれたのだが、その理由をまだ聞いてなかった。
ついこの前、急に電話がかかってきて、「ねぇ、すぐに会えない?」と何かお楽しみを隠しているような声で告げられた。
それから強引に適当に時間を作らされて、流されるままに、今現在。
「肝心の要件を聞いてないんだけど?」
「ん? あぁ、そうだっけ」
惚けたようにそう言うと、持っていたハンドバッグに手を伸ばし、中を探ってから何かを取り出した。そしてそれを俺に差し出す。
……手紙?
希美に顔を向けてみると、「読んで」と顔に書かれてた。いや実際に書かれてたわけではないが。目線がそう言ってる気がした。
手紙を受け取り、とりあえず差出人とかを見る。
「…………え、これ…………」
「そ! 香月からの手紙」
宛名には“Dear Nozomi Sato”、差出人のところに書かれていた名前は“From Kazuki Hiiragi”。
すべての表記が英語で書かれている。
それもお構いなしに封の切られた手紙を出し、読もうと広げる。
……が、
「一切わからん」
俺、英語とか苦手だし。
かろうじて最初の文が「元気にしてる?」ということが書いてあることはわかった。しかしそれ以降の文章はところどころの単語がわかるくらいで、文章として繋がらない。
お手上げ。と手紙を希美に返し、「なんて書いてあんの?」と目線で尋ねると、超簡単に概要を教えてくれた。
「――――――!」
「……へえ、マジか!」
驚きだ。でもなぜ俺には知らせん……。
「んで、どうするよ」
「どうしよっか」
俺たちは二人して、楽しいいたずらを仕掛けるかのように、子どものように顔を突き合わせて相談する。
どうやって、歓迎してやろうか。
こっちに……日本に帰ってくる二人を――――。
どうやって、祝福してやろうか……!




