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春の風と香る月  作者: 寝台ひつじ
13/13

エピローグ

 大学を卒業してから、もうしばらく経つ。

 あれから俺は、考えていた職業に就くことができ、自分には勿体無いくらいの彼女も出来た。ちなみに、告白したのはこちらからだ。

 夏になって、仕事も一段落。長期的な休暇をいただけた。

 と言っても有給休暇だが。

 その期間を狙って、俺はある人物と待ち合わせて出かけることになっている。ちなみに相手は女性だ。

 恋人である結衣(ゆい)にはその旨を伝えているので、浮気にはならない。

 そして待ち合わせの場所。時間になるよりも随分と早くに来た。どんなことであろうと、相手を待たせるのは失礼だからな。

「あ、早いね。待った?」

 待ち合わせをしていたファミレスで、ドリンクバーから持ってきたアイスティーを飲んでいると、待ち人が手を挙げてやってきた。

「よ。久しぶりだな」

「うん。大学卒業以来?」

「そうだな……それくらいか」

 俺が待ち合わせてたのは、佐藤(さとう)希美(のぞみ)。卒業しても、メールのやり取りとか、電話とか、連絡はとっていた。まぁ(まれ)にだが。

 あんま変わらない。ってもまぁ、俺は他人の変化にはなかなか気づけない、鈍い性格らしいけど。

 彼女は今、地元近くの塾で英語の教師をしている。あれだけ苦手だって言ってたのに、よくなれたもんだ。しかも教員免許を取得しようと考えているとか。

 ちなみに俺は呼び出された側。さらに追加で、俺が場所と時間を決めた。決めさせられた。丸投げされた。

 俺って、呼び出された側のはずなんだけどな……。

「ミノくん、あんま変わんないね。でもちょっと太った?」

「……ま、幸せ太りってやつか?」

 結衣がうまいもんを作ってくれるんだよね。つい食っちまう。

 俺と結衣はただ今一緒に住んでいる。と言ってもまぁ、俺が結衣の部屋に入り浸ってるようなもんだが。

「あ、惚気けてるな?」

「お前も、幸せそうじゃねぇか」

 と俺は希美の左手を見て呟く。

 その薬指には、銀に輝く指輪がはめられていた。

 希美もあれから恋人ができて、驚きの早さでその男と結婚し、式を挙げた。その時の席には俺も出席して、うまいご馳走をいただいた。うまかったなぁ。

 そして二人でアパートの一室を借りて一緒に住んでいるそうだ。

「えへへ……まぁね」

 希美は幸せそうに笑って、照れたように頬を染める。

 それからそれぞれ何か軽食を注文し、しばしの雑談。

 今どうしている。恋人との仲のこと。仕事は順調かどうか。とかまぁ、そんなようなこと。そうしてるとそのうち料理が運ばれてきた。

 それをつまみつつ、会話に戻る。てか、そういや、肝心のこと聞いてねぇや。

「そういや。何で俺を呼び出したんだ?」

 俺はこいつから呼ばれたのだが、その理由をまだ聞いてなかった。

 ついこの前、急に電話がかかってきて、「ねぇ、すぐに会えない?」と何かお楽しみを隠しているような声で告げられた。

 それから強引に適当に時間を作らされて、流されるままに、今現在。

「肝心の要件を聞いてないんだけど?」

「ん? あぁ、そうだっけ」

 惚けたようにそう言うと、持っていたハンドバッグに手を伸ばし、中を探ってから何かを取り出した。そしてそれを俺に差し出す。

 ……手紙?

 希美に顔を向けてみると、「読んで」と顔に書かれてた。いや実際に書かれてたわけではないが。目線がそう言ってる気がした。

 手紙を受け取り、とりあえず差出人とかを見る。

「…………え、これ…………」

「そ! 香月からの手紙」

 宛名には“Dear Nozomi Sato”、差出人のところに書かれていた名前は“From Kazuki Hiiragi”。

 すべての表記が英語で書かれている。

 それもお構いなしに封の切られた手紙を出し、読もうと広げる。

 ……が、

「一切わからん」

 俺、英語とか苦手だし。

 かろうじて最初の文が「元気にしてる?」ということが書いてあることはわかった。しかしそれ以降の文章はところどころの単語がわかるくらいで、文章として繋がらない。

 お手上げ。と手紙を希美に返し、「なんて書いてあんの?」と目線で尋ねると、超簡単に概要を教えてくれた。

「――――――!」

「……へえ、マジか!」

 驚きだ。でもなぜ俺には知らせん……。

「んで、どうするよ」

「どうしよっか」

 俺たちは二人して、楽しいいたずらを仕掛けるかのように、子どものように顔を突き合わせて相談する。

 どうやって、歓迎してやろうか。


 こっちに……日本に帰ってくる二人を――――。



 どうやって、祝福してやろうか……!

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