表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の風と香る月  作者: 寝台ひつじ
1/13

プロローグ

 今日は、大学の卒業式。

 学長からの祝福の言葉をもらい、自分たちの将来について、社会人になるということとその意味、旅立つということなど、いろいろを講談され、がんばれと告げられた。

 卒業証書を代表が受け取り、式は終了。式の会場となった大ホールから出て、親や友人らと涙を流す人、笑い合う人、またなと約束する人……様々な行動をとっている。

「ハル」

 そんな中、僕に声をかける友人がいた。

「卒業おめでとう。よく卒業できたな」

 僕の肩をたたいて、そんなことを言う。失礼な奴め。

 でもそう思われても仕方ないか。

 何せ、単位ぎりぎりだったからな。

「うるせぇよ」

「ははは。まぁ、お前頑張ってたもんな」

 こいつには世話になったからな……本当に助かった。

 僕は途中までは適当に大学の授業を受けて、いつくか単位も落としてた。でもそこからまた頑張って、頑張って、そのあとの単位も――ぎりぎりだけど――なるべく落とさずにやってきた。

「今日、これから飲みに行かないかって話してたんだけど……お前は?」

 表情をうかがうように、予定を聞かれる。この後、僕に用事がある、ということを知っているような口ぶりだ。

「やめとく。帰って、準備しないと」

「そっか……いつだっけ? 行くの」

「そんなこと聞いてどうする?」

「見送らせてくれよ」

 見送りか……。ちゃんと送ってくれるんだな。

「いらん。必要ない」

 嬉しくはある。でもいらないと断る。

 小っ恥ずかしいんだよ、そういうの。

 電話やメールで十分だ。

「わかった」

 やれやれ、とでも言いたげに、ため息のように呟かれる。

「ハルカゼくん」

 話をしていると、もう一人、女友達が声をかけてきた。

「これから、行くの?」

 彼女も、僕の用事を理解してる一人だ。というか、この二人くらいしか知らないだろうけど。

「いや、今日じゃない。まだ準備」

「そう……寂しくなるね……」

 俯いてそう呟く。

 それは僕もだよ。でも……。

「行くと決めたからね」

 そのために、今日この日まで、あの時から頑張ってきたんだ。

 彼女は「そうだよね」と、今度は前を向くように言葉を発し、

「場所はわかってるの?」

 と続けた。

「いや、実は……細かいとこはまだ……」

 これから向かうところは、大雑把にはわかっているが、詳細はまだわかっていなかったのだ。知る方法もあったが……しかしそれができなかった。手段がなくて。

 すると「だと思った」と口にして、ため息を吐かれた。

 そしてポケットから一枚の紙を出して、僕に渡す。

「これ。あんたが行こうとしてるとこ」

 その紙には、僕が知りたかった情報が書かれていた。

 …………ありがたい。

「じゃ、またな。ハル」

「ちゃんとしてくんのよ。ハルカゼくん」

「……あぁ。行ってくる」

 二人に背を向け、

「ありがとう」

 首だけ振り返らせて礼を言い、帰りを急いだ。

 あの日から頑張ってきたことを、果たすために――…………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ