プロローグ
今日は、大学の卒業式。
学長からの祝福の言葉をもらい、自分たちの将来について、社会人になるということとその意味、旅立つということなど、いろいろを講談され、がんばれと告げられた。
卒業証書を代表が受け取り、式は終了。式の会場となった大ホールから出て、親や友人らと涙を流す人、笑い合う人、またなと約束する人……様々な行動をとっている。
「ハル」
そんな中、僕に声をかける友人がいた。
「卒業おめでとう。よく卒業できたな」
僕の肩をたたいて、そんなことを言う。失礼な奴め。
でもそう思われても仕方ないか。
何せ、単位ぎりぎりだったからな。
「うるせぇよ」
「ははは。まぁ、お前頑張ってたもんな」
こいつには世話になったからな……本当に助かった。
僕は途中までは適当に大学の授業を受けて、いつくか単位も落としてた。でもそこからまた頑張って、頑張って、そのあとの単位も――ぎりぎりだけど――なるべく落とさずにやってきた。
「今日、これから飲みに行かないかって話してたんだけど……お前は?」
表情をうかがうように、予定を聞かれる。この後、僕に用事がある、ということを知っているような口ぶりだ。
「やめとく。帰って、準備しないと」
「そっか……いつだっけ? 行くの」
「そんなこと聞いてどうする?」
「見送らせてくれよ」
見送りか……。ちゃんと送ってくれるんだな。
「いらん。必要ない」
嬉しくはある。でもいらないと断る。
小っ恥ずかしいんだよ、そういうの。
電話やメールで十分だ。
「わかった」
やれやれ、とでも言いたげに、ため息のように呟かれる。
「ハルカゼくん」
話をしていると、もう一人、女友達が声をかけてきた。
「これから、行くの?」
彼女も、僕の用事を理解してる一人だ。というか、この二人くらいしか知らないだろうけど。
「いや、今日じゃない。まだ準備」
「そう……寂しくなるね……」
俯いてそう呟く。
それは僕もだよ。でも……。
「行くと決めたからね」
そのために、今日この日まで、あの時から頑張ってきたんだ。
彼女は「そうだよね」と、今度は前を向くように言葉を発し、
「場所はわかってるの?」
と続けた。
「いや、実は……細かいとこはまだ……」
これから向かうところは、大雑把にはわかっているが、詳細はまだわかっていなかったのだ。知る方法もあったが……しかしそれができなかった。手段がなくて。
すると「だと思った」と口にして、ため息を吐かれた。
そしてポケットから一枚の紙を出して、僕に渡す。
「これ。あんたが行こうとしてるとこ」
その紙には、僕が知りたかった情報が書かれていた。
…………ありがたい。
「じゃ、またな。ハル」
「ちゃんとしてくんのよ。ハルカゼくん」
「……あぁ。行ってくる」
二人に背を向け、
「ありがとう」
首だけ振り返らせて礼を言い、帰りを急いだ。
あの日から頑張ってきたことを、果たすために――…………