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叛乱のコロシガミ-Another Story-  作者: 戯富賭
無響旋律-Mercy of wolves-
7/7

サガシモノ

[聖歴203x年1月10日午前8時22分53秒]


ほったらかしの小屋、保存される記憶


その中で確かに彼らは幸せだった

うっかり、というものがある。

例えば物を探す羽目になったり、余分に増やしたり減らしたり、世の中簡単にはいかないように今日も出来ている。



「あれー?ないなー……」


「ゴタゴタうっさいで……って、鷹か」


「やぁ、倉本さん」



店の裏にある小屋。

本来なら店の品をストックするために使用されるはずが、溢れんばかりに別の物で埋め尽くされている。

そんな小屋の中を掻き分けるように武内(たけうち)が先頭を走っていた。



「物で溢れかえっとるやないか。

そろそろいらんもんは捨てとき」


「と言われましても、僕にいらない物なんてないよ?」


「いや、そうやなくて。

ここを物置みたいに使っとる時点でもう所有権はホムンクルス全体や。

特にその場を仕切るわいからの頼みや」



山になったから分別してくれているように見えていたが違っていた。

探し回っていただけだった。

それにしても、小屋にある無駄な物たちが倉本(くらもと)の思考を改めさせた。



「……で、何で俺らまで手伝わされてんすか?」


「鷹の私物が多すぎてあかんから、大勢でやった方が何かと手っ取り早く済む。

こいつもこいつでええ加減な奴やて、捨てれる物の見分けが出来んのや。

そこで、わいらがすれば捨てれる物も捨てられ、一石二鳥や!」



みんなは一人のために。

その精神が大切とする組織体制で山に挑み始めることとなった。

無論、ホムンクルスのメンバーが集められたのも、このためだけで気落ちするメンバーばかりだった。



「黒薙ぃー?どこいくつもりや?」



しかし、倉本は逃がすものに容赦せず。

忍び足で後方へ下がっていた黒薙(くろなぎ)も鋭い視線に立ち止まる。



「と、トイレです……」


「方向、逆やで?」


「自分、和式使えないんで」


「ここは洋式やで?」


「ウォシュレットがないと」


「先月バッチリ設備したで?」


「…………」


「…………」



……メンバー全員が静まり返った。



「まさか……逃げるつもりやったんか?」


「い、いえ、何でもない、です」



サボりグセがある黒薙が真面目に掃除している。

その姿に誰もが確信した。

逃げられない、と。



「許可なく逃走を測ったやつは、お仕置きな……!」



ギンギンに血走った視線を送る倉本の管理下、メンバーは手分けして掃除をしていく。

そんな中、久賀が何かを手にする。



「ん……これは釣竿?」


「それはね、三年前に海で溺れかけてた子供を助けたときにその子のお父さんが漁師だったらしくて使わなくなった立派な釣竿だよ。

キングと倉本さんで大物の鯛を何匹も捕まえて料理にして一緒に頂いたよ」


「へぇー思い出深いですね」


「でしょー?」


「じゃあ何でそんな物をこんな場所に置き去りにしてんだ、ボケ!!!」



二人の会話に熱いツッコミが入ってきた。

管理長、倉本だ。



「さっきまでの思い出どうしたん?!!

それで思い出深い釣竿は三年長期保管かい!」



これ捨てときますね、と一言入れ倉本のツッコミを置いておいてゴミ行き。

そんな中、黒薙が何かを手にする。



「これは……宝箱?」


「それは手に入れるのに大変だったなぁー。

宝の地図って書かれてたから近所の子供たちを頼って探して見つけたものの、中身は空っぽ。

けど、一攫千金狙ってたつもりもないしね」


「じゃあ、何すかこれ……?」


「記念に持って帰って来た」


「持って帰って来た、じゃねぇよ!

いらんやろ?!!使うもんちゃうやろ?!!」



二人の会話に熱いツッコミが入ってきた。

再び、倉本だった。

これは灰にしときます、と燃やすゴミ行き。


そろそろ倉本さんのツッコミにキレがなくなってきた頃。

ポンポンと背中を叩かれて後ろを振り向くと、詩織(しおり)が何かを隠すように後ろへ手を戻す。



「ん?どうしたの、詩織?」


「これ……」


「あ、ここにあったんだ!

ありがとー詩織」



出しにくそうにしていた詩織は恐る恐る武内の目の前に出すと、探し求めていたものだった。



「で、お次は何すか?

なんか目当ての物っぽいっすけど」


「ま、また、くだらん、もん、ちゃうか……?」


「倉本さん、息切れがヒドイです。

少しは落ち着いて下さい」



嬉しそうにしている武内を見て、掃除を行うメンバーの手が止まり武内の周りに集まってくる。

ワラワラと集まるメンバーを他所に、武内は微笑んで応えた。



「みんなとの思い出だよ」



それは、小さなデジカメだった。

けれども、大きく大切なものでもある。

メンバーのほとんどが知っていたが武内の写真撮影は毎日行われていた。

どんなに真面目なときだろうがふざけたときだろうが関係なく。

あの人だから許せる。

その一心が繋いだ、みんなの日常。



「さっきまで持ってたはずなのに、ふと目を離した隙になくなっちゃったから落としたものだと……」



武内の話によれば。

トイレに行こうとした矢先、テーブルの上にカメラを置いたはずなのに。

戻ってみれば、なくなっていた。

そこへ詩織が武内の写真を見たくてコッソリ持っていていたのだった。



「ごめんなさい。

私が持ってた……タカの思い出、見たかった」



みんなに迷惑をかけたとばかり思っている詩織がみんなに対して頭を下げる。



「気にしなくていいんだよ、詩織。

こんなのは僕の趣味の一つだから。

それに写真で収まるほど僕らの思い出は少なくないしね。

今日みたいに過ごせたら、それだけでいいんだ」



笑っている武内に誰もが許していた。

その後、ついで感覚で掃除を行われていた。

ゴミの量がなかなかだったが、小屋がスッキリして倉本は嬉しそうだった。

時刻は昼過ぎ。



「ったく……何だ?」



寝ぼけ面の士狼(しろう)の姿にみんなが笑う。

わけもわからない王様は引きづられるまま、みんなの元へと引っ張られる。

目の前には立てられたデジカメ。

タイマーをセットした武内がみんなに対して合図を出す。



「よし、じゃあ撮るよー」



シャッターを切った。


不機嫌そうな顔の士狼、その隣で微笑む詩織。

その隣で肩を組み合う倉本と武内。

前では黒薙と久賀が相変わらず、いがみ合っていて、コッソリ仲裁に入ろうとするカザマ。

周りには他のメンバーが囲んでいた。


そんな中途半端なまとまり方がホムンクルスであり、幸せな仲間たちである。













武内 鷹人の行方不明まで。


残り、七ヶ月







はい、今回は短めです。


些細な日常でも小さな幸せが大きな幸せになり得ることを彼らは示してます。

ところでカメラの中身は何なのでしょうか。


次回、外伝が最終局

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