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叛乱のコロシガミ-Another Story-  作者: 戯富賭
無響旋律-Mercy of wolves-
6/7

受け継ぐもの

[聖歴203x年12月4日午前12時49分11秒]


王の取り損ねた過去、銀髪赤眼の少女


その目に写すのは嘘偽りのない本物(くつう)だけ。

レストランバー・DooL。

都内隠れオシャレなお食事処ランキング一位に輝くほどの栄光を持ち合わせてから客数も増え、黒字真っ盛り中である。

営業時間は午前10時から午後5時までと、都内では短い時間帯でやっている。

その他の時間は、ホムンクルスの本拠地として集会が行われたりしている。

そして、今回の議題はこの一言から始まった。



「物足りないよね」



切り出したのは、武内(たけうち)だった。

突然の一言で場の空気は一転。

ひたすら悩み込んだ挙句の一言が意味不明で誰もしゃべらずにいた。



「腹減った……」



しかか、それに同意するかのように腹を摩り追加の食事を待っていたのは、ホムンクルスの王である神谷(かみや)だ。



「いやいや、王様。

そういうことじゃなくて。

この店にマスコットキャラが出来たとはいえ、男性オンリーっていうのは暑苦しいよ」


「ちっ……」



どうでもいいという視線を出しながらも倉本(くらもと)お手製のオムライスを倉本自身が神谷の目の前に出すと目線を下に落として食事が始まる。



「そないなこと言うてもなぁ。

このチームはコロシガミの集団や。

男女を気にしておったらやってけんで……あ?」



忽然と鳴り響く古い受話器。

時代も時代とあって倉本が店を受け継ぐ以前から常連客との交信など殆んど使われることのないものが鳴り響いたため、何事かと騒ぎ立てるメンバーもいるのだがトップ三人は怯みもせず対処する。

神谷はご飯、武内はトイレへ。

残る倉本が受話器を手に取る。



「珍しいな……。

こちら、レストランバーDooLです。

はい……はい……えっ?

しょ、少々お待ち下さい……。

おい、士狼(しろう)

お前に変わってくれって」



倉本の言葉に反応できるように済ましていたのか、ご飯を平らげ待機し難なく神谷が受話器を持った。



「……変わったぞ」


「それにしても珍しいっすね、しかも士狼さん目当てで店に電話するなんて」


「命の一つや二つ、狙われている人だから大方あれも呼び出しだろ」


「おい、お前……敬意を忘れてないか?」


「だから敬意を持ってるだろ、アホ」



相変わらず、久賀(ひさか)黒薙(くろなぎ)の喧嘩が始まった。

そのまま行けば、口だけでは済まなくなる仲の悪さだが、今は神谷の通話中ともあり大袈裟には出来なかった。

そういうところに気遣うことの出来ることこそ、黒薙の隠れた美点でもある。

そんな気も知れず久賀がヒートアップしかけたときに神谷の通話が終わり、こちらに戻ってくる。



「で、どうやった?」


「……出てくる」



倉本の問いにも答えず簡潔的に済まして神谷は一人、外へ。

それに着いて行こうとする久賀たちに対して、止める武内。



「また無茶せんか、あいつ……」


「大丈夫大丈夫、筒美(つつみ)さん。

今日の王様はどちらかというと上機嫌の方だし。

誰も引き連れないで出るってことはガッツリ暴れてくるか、散歩ぐらいでしょ?」


「お前に言われると妙に安心するから、逆に危険や」



苦笑いしながらも倉本は武内の言葉を受け入れた。

長年の付き合いで得た結論。

それが武内の行動に必ずしも答え

があるからだ。

何もしない倉本と武内にメンバーも安心して動こうとはしなかった。

が、そんなやり取りを知らず堂々と出入口が開かれる。



「あれ?士狼さん、もうおかえりですか?」



その張本人が戻ってきた。

たったの二、三分の会話にも関わらず、何事もなかったように神谷は仁王立ちしていた。

メンバーたちは本当にただの散歩だと思った。



「……で、何やその子は?」



神谷の背中に隠れるようにひょこっと横から出す少女を見るまでは。



「あの生き残りらしい……」



意味深な言葉と共に首根っこを掴み前へ押し出す神谷だが、少女は顔色一つ変えずぺこりと頭を下げる。



神谷(かみや) 詩織(しおり)です」



沈黙。

少女の名を知ると誰もが疑問視。

何よりホムンクルスの王と同じ苗字という事実。

倉本は咥えたタバコを落とし、久賀は驚きの表情を隠さず、黒薙は何の反応も示さない。

ただ一人、場の空気も読まず武内は二人の神谷に近寄った。

ニコニコと笑いながら。


神谷 士狼は孤児だ。

その出身者は他者に引き取られない限り、“神谷”の姓を貰う。

しかしながら、その修道院はもう存在していない。

生き残りも神谷 士狼だけのはずだった。



「それじゃあ、その孤児を集める修道院の子がまだいたんだ」


「今更だがな」


「わいも属してたけど、今の親に拾われ現在ここを経営しとるわけや」



軽々と経歴を口にしたが、周りはついていけていない雰囲気だった。

中には、久賀のように涙脆く泣いているものも。

だが、それをものともしないのが武内(たけうち) 鷹人(たかひと)の真骨頂。



「お嬢さん、お飲物はいかがかな?」



まるで女性の客人を出迎えるように礼儀正しく、詩織の前へと立つウエイターの武内。



「……オレンジ」


「かしこまりました」



空いているテーブルへと案内し、詩織を座らせバーに立つ倉本へ注文を回す。



「やっぱ鷹がこの手には慣れとるわ。

正直、お前だけじゃ世話しないもんなぁ」


「うるせぇ」



女、子供の相手が特に苦手とする士郎に嫌味しかこぼさない倉本は一言多かった。

一方でウエイターの武内はオレンジが注がれたグラスを丁寧に詩織のテーブルへと置く。

勿論、分からないことを分からないままにしない彼の性分は止まらない。



「で、詩織ちゃんはどうしてここに?」


「迷惑、だから……」


「えーと、僕らが?」



武内の問いに首を横に振る。

よくわからないままだが、詩織はハッキリと告げる。



「私、変だから……」


「変……?」



変……とは、だいたい分かり始める。

異体、異質、異常。

それだけが頭に浮かび、武内は理解する。

この子は同じなのだ、と。



「ここじゃない世界があって、怖いの、見える」



私には他の人には見えないものが見えていた。

いるようでいないような悪魔の顔。

それは人の欲望を実現する誘惑。

一度引き受けてしまえば人は人ではなくなる。

その化け物が私を孤独へと導く。

両親もその化け物に食われ、私が孤児を集める修道院に入る前にその修道院もなくなった。

私には居場所がない……どこにも、ない。



「なるほど……それじゃあ、君は今まで何処で?」


「非国際研究施設、ようはテロリストの納屋だ」



話に割り込んできたのは、士郎だった。

これ以上、彼女の口から聞くのは酷なことなのを察した武内は詩織に礼だけ言って倉本たちがいるカウンターに戻る。



「この国の姫君の使いだか何だが知らないがSSS所属兵が俺に渡してきやがった。

大方、色々と調べる内に神谷の姓であったコイツが修道院との繋がりを持っていたことが判明したから、俺らが嗅ぎつく前に片を付けたかったんだろうよ、お偉いさん方は」



政府はホムンクルスを警戒(マーク)しているのがよく分かる。

特に、神谷 士郎。

彼の力は仲間ですら強大で危険なものだと知っている。

下手をすれば、自分を対価に国を滅ぼすほどに。

力の矛先を向かせないため。

それだけのために、彼女をこちらへ無償で渡した。



「……で、それを知った上でどうするの?」


「俺のやりたいようにやるだけだ」



しかし、王の機嫌は良くも悪くもなかった。

彼女が引き金になるかはどうかは別問題にしろ、政府の研究所が幼い子供たちに何をさせているのかが問題なのだ。

交渉通り、政府本体には手を出さない。

だが、彼の様子なら研究所はもう無くなる。

誰も引き連れず、店を出る王の背中は寂しいものだった。

士郎が店を後にしたあと、飲み干したグラスを運ぼうとした武内の背後で服を引っ張る詩織が。



「ん?どうしたかな?」


「武内 鷹人……さん」



……名を名乗っていない。

それだけでも驚きだが、彼女の力がそういう類のものだと理解すれば納得していた。

よほど誰かに聞かれたくないのか、耳を貸して欲しいと頼まれた武内。

詩織の身長に合わせて、膝を折る。



「ここにいたら、いつか命を失う」



予言。

他人の何かを見据えている。

だが、今のは破滅の宣告だった。

恐らく、詩織の言葉は間違っていない。

率直に言われて、正直受け入れ切れていないが彼はいつも通りだった。



「ありがとう……僕は大丈夫さ。

そうなったときにまた考えてみるよ。

それに失ったものはもうあるから」


「ごめんなさい」


「いいんだよ、見えたなら仕方ないね。

でも、他の人には内緒だよ?

二人だけの秘密」



色んなものを見えたのだろう。

薄情と思われても仕方がない。

人間である武内にはコロシガミの不幸を知らない。

だけど、一度たりとも人間とは別物に見たことはない。

生きている限り、同等。

彼女は不幸だ。

けど、君一人だけが不幸じゃない。

みんながみんな同じだよ?

そう思っている彼のことを理解したのか、詩織は初めて笑顔を見せた。

彼はそっと頭を撫でてあげた。












武内 鷹人の行方不明まで。


残り、八ヶ月。







はい、幼女です。

これでいいのか?という感じですが、神谷の名を持つ詩織ちゃんです。

彼女の場合は見たもの全てを読み取るという厄介この上ない強大な力です。

つまり人を人として見てしまう。

暖かさも、冷たさも。

表面上だけで捉われない彼女は数多くの闇を見てきたのでしょうね……。

作者としても、あまり要らない力ですね。


来週は本編です。

荒木くんに危機が……!


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