表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叛乱のコロシガミ-Another Story-  作者: 戯富賭
無響旋律-Mercy of wolves-
5/7

あるべき居場所

[聖歴203x年11月2日午前11時10分08秒]


ひと時の帰郷、再会とすれ違いの四重奏(カルテット)


英雄(ヒーロー)はいつだって存在する

僕には最初から居場所がなかった。

親は世間体からすればろくでもないが優しい人たち。

学校は教育義務を受けるためだけのものでしかなかった。

当時の僕は肥満体型で周りからもイジメの対象となっていた。

そんなある日、ヒーローたちが現れた。

喧嘩っ早い烈火の赤。

常にクールな黒。

そして、一番の憧れだったのが……三人目のリーダー。

その人の第一印象は……ただ、怖かった。



「仲間が帰ってくる、っていつすか?」


「せっかちやなー、久賀(ひさか)は。

そいつはもうそろそろ来るはずやでー」


「へーぇ……その人ってどんな感じなんですかね?」


「確か……赤っちと黒っちの二人と同い年だったかも。

それでも二人より先に僕らの仲間入りだから、一応は先輩だからね。

敬わないとカザマさんに怒られるよ?」


「それでは私が怒ってばかりではないか、武内(たけうち)くん」



いつもの定例集会。

規定の時刻に遅れないように僕はその店の前まで来ていた。

既に店前から賑やかな声が聞こえてくる。

あぁ、いつも通りだ。

倉本(くらもと)さんと武内さん、仲間たちの楽しそうな声。

その声を聞いただけで戻ってきたのだと実感する。

ドアの前に立つと一呼吸置き、静かに開けた。



「お久しぶりです、みなさ……ん?」



開けて入ってきたのは両肩に重量感がヒシヒシ伝わるバックパックを背負いながらも気軽に歩くスラッとした細身で長身の青年。

その右頬には消えることはない大きな傷跡が刻まれている。

そんな青年が入ってきた直後に言葉を止めてしまう。



「おかえりー久しぶりだね!

……あ、この二人、新しく入ってきた新メンバーなんだよ。

右腕にバンダナ巻いてる方が久賀(ひさか) 朱雀(すざく)、で、本を読んでいる方が黒薙(くろなぎ) (げん)


「よろしくっす!」

「よろしくお願いします」



前向きにぐいぐいといく久賀と一応と言った感じの黒薙が挨拶を済ませていても、彼は動じない。

さすがの武内もこの様子に戸惑って問いただそうとしたとき。



「朱雀さん、玄さん……お久しぶりです!」



まさかの彼の方から土下座で挨拶。

……場は一度沈んだ。



「おい……お前ら、何しでかしとんねん……白状せぇよ?」


「く、倉本さん……!」


「俺らの、方が、聞きたい、ですよ……!」



古参の仲間の土下座に倉本の制裁アイアンクローが久賀と黒薙の息の根を止めようとしていたところ。



「倉本さん、やめてください!

別にいいんです、悪いのは自分です。

何も説明無しに……」


「そ、そうか……お前がそういうなら仕方なく止めてやる」


「俺らの信用性ゼロすか?!!」



青年の説得に倉本が応じるが、無駄な制裁をくらった久賀と黒薙は不満でしかなかった。

そんな二人を裏目に青年は低い腰で頭を下げて再会を喜んでいた。



「本当に、お久しぶりです……お二人とも」



しかし、青年の誠意も二人は分からないままだった。



「と言われても……どっかで会ったか?」


「俺には見覚えがない」



共に青年のことが分からなかった。

昔の友達、幼馴染でもなく。

知り合いという感じがあるだけで。

ここまで再会を喜べるほどの仲だったはずなのに、青年のことを一切覚えていないか、分からないか。

二人の反応に青年は少し焦っていた。



「な、何言ってるんですか!

僕ですよ、僕!

忘れるわけないっすよ」


「んー……ピンと来ない」


「昔のダチとは縁を切っている。

ここにいる以上は巻き込めない」



ここまで言われるほどに彼の再会は悲しいものとなってしまう。

一人だけの茶番劇。

周りで見ている人たちも酷に思っていた。



「うっ……」



せっかくの再会に青年は思わず涙目になってしまった。

そして、雰囲気が一気に変わる……。



「何、忘れてやがる……こいつら」


「や、ヤバイ!」


「落ち着いて、黄瀬(きせ)!」



先ほどの丁寧語は消えて壊れる青年の言葉によって、咄嗟に気づいた倉本と武内が止めにいこうとして名前を呼んだときだった。



「黄瀬……」


「黄瀬?!!」



その名に覚えがあったようで久賀と黒薙は共に思い返し、疑問視してしまう。



「お、お前……あの黄瀬なのか?」



あの、黄瀬(・・)

彼らにとっての黄瀬と今ここにいる黄瀬はイメージがかけ離れていたから分かるわけもなく、そんな台詞が出てしまう。



「そうだって言ってんだろうがぁ!!!」



厳つい顔付きになって、素早く振るう拳!

しかし、その間へ入るように王が立ち、振るわれた拳をいとも簡単に片手で受け止める!



「士狼さん!」


「少し落ち着け」


「は、はい……すみません」



王の威圧に先ほどまでの怒りは消え、丁寧語に戻って最初の感じへと戻る。

その変わりように久賀も、黒薙も、周りの連中も言葉を失っていた。

だが、思い出した久賀と黒薙の様子を見抜いて倉本が話を戻す。



「やっぱ、知り合いなんか?」


「小学生時代の時からの付き合いですよ。

俺とこの馬鹿と死んだアイツの三人で連んで、正義の味方気取りでいたときに舎弟として入ったのがあの黄瀬(きせ) 拓馬(たくま)です」


「なるほどな……お前がヒーロー気取りだなんて、若さはどんな似合わないことでもするもんやな」


「一言多いです、倉本さん」



今の印象とは別人みたいなことに倉本は面白がっているが、からかわれるのが嫌いな黒薙は不服そうだ。



「にしても、黄瀬……痩せたな。

それにさっきのって……」


「すみません、久賀さん。

あの頃の体型は今と違いますし、それで分かれって言う方がおかしな話ですね」



ようやく思い出してくれた二人に謝罪する黄瀬は昔と今では違っていたことに自覚していなかった。

そこを自覚していたら、こんな風な形にはならなかったことも。



「会話から察するけど、小学生時代から三人は別れたの?」


「あ、相変わらずですね、武内さん……。

まぁ、そうなります。

自分の親が転勤することになって、それと同時期に卒業したので、中学からは別々となりました。

しかし、イジメはまた起きました。

あの頃から何も変わることが出来なかったと自覚した自分はその瞬間にコロシガミとなりました。

その反動で第二人格が生まれました。

おかげで喧嘩腰の凶暴性なので戦いばかりの日々に興じたためにこんな体型になりました」



誰も救わず、自分で自分を救うために。

力を求めて、無知だった無力を知る。

いつだっていてくれたヒーローは卒業してしまったから。

だから、彼は一人で戦い続けた。

現実(イジメ)に対しても、非現実(コロシガミ)に対しても。

ずっと、ずっと戦い続けた彼が次に出会った先がホムンクルスであった。

そうして、ホムンクルスの黄瀬として。

対個人能力で旅を続けている。

さらなる強さを求めて。



「にしても、たくましくなったじゃねぇか。

あの泣き虫が、なぁ……」



昔を思い出して納得している久賀に対して、黄瀬は少し……残念だった。

弱者を上から見ている目で話す彼らに黄瀬は不満でしかない。



「もうあの頃とは違うんです。

後戻りできない、コロシガミになりました。

お二人も、ここにいるということは……なったんですよね?」



コロシガミに。

言わなくても分かる言葉に久賀と黒薙は言葉に出さない。

黄瀬の話にただ耳を傾ける。



「あの人が死んだからですか?

そうですよね、お二人はあの人の元に付き従うしかなかった。

だから、次は士狼さんや倉本さん、武内さんたちがいるホムンクルスに従うんですか?

そうやってコロコロと付き従われていくんですか?

いい加減やめたらどうです?」



黄瀬のヒーローは二人ではない。

久賀と、黒薙と、もう一人。

そのもう一人こそ、久賀と黒薙と黄瀬のまとめ役で……そして彼の死が、久賀と黒薙をコロシガミにした。

黄瀬からすれば、何も変わらない二人に聞くしかない。

彼にとっては今でもヒーローなのに、腑抜けているようにしか見えない。


個人的な話になって熱くなる黄瀬に空気を読まない武内が止めにかかるも倉本が武内を止める。

彼らの事情を知っているからこそ、ここは口出ししてはこれから先、進めなくなる。

久賀と黒薙を汲んで、倉本と武内たちは黙って見守る。



「ハッキリと言ってください!

どうなんですか、お二人とも!」


「黄瀬、お前の言うとおりだ。

俺らは何かにすがらないと生きてけねぇのかもしれねぇ。

徹が死んでからそれが益々分かった気がする……が、ここにいるのは違う。

この人たちに救われたから。

その分、助けてやりたいだけだ」


「俺も、そいつと同意見だ。

別に付き従われて、あいつと一緒にいたつもりはない。

一緒にいたいと思ったから一緒にいた、ただそれだけだ。

ここは恩返しするためにいる。

まぁ、かなりの利子が付いているけどな」



その目に曇りなし。

いつも馬鹿ばっかりしている二人が本気で出した答えと決意。

その言葉に黄瀬はやっと安堵する。



「……変わりました、ね」


「当たり前だろ。

何年ぶりに会って、変わってなかったら逆に怖いわ」


「中身が変わっていない奴もいるけどな」


「誰だろうな、えぇ?ノロマ亀」


「うるせぇよ、鳥アタマ」



また雰囲気が総崩れ。

いつもの喧嘩が始まって。

そこを止める黄瀬は嬉しくて仕方なかった。


こうして、緊張感があったりなかったりした定例集会は終わった。

それ以上の重大な話もなく、いつも通りに仕事をする。

今日は久賀も黒薙も仕事がなく、黄瀬は旅から戻ってきたばかりで空いている。

そこでもう一人のヒーローへ会いに行こうと考えた黄瀬たちだったが。



「それで、何で武内さんもいるんすか?」



そこには場違いな武内が同行していた。

話で聞くしかない彼らの仲に割り込んでくる、いつもの感じ。

今日ぐらいは……とは思えない奇抜な人の行動だった。



「いやー君たちを変えたリーダーさんに会ってみたくてね。

そしたら、君たちだけで会いに行くだなんて言い出すからタイミングがバッチリ」



こっそり話していたはずなのに、一体どこから情報なのか。

疑問を抱く三人に武内は相変わらずのにやけっぷりだった。

そして、彼の前。

花束の一束、線香を四本。

雲一つない青空に煙りが登るのがよく見える。

ユラユラと、ゆったりと。

合掌で目を瞑る三人。

そこへ斬新に武内が笑って声をかけている。



「それじゃあ……初めまして。

僕は武内 鷹人っていいます。

今はこの三人の仲間で、皆仲良くやってます。

もしかしたら、君も入ってきたのならもっと賑やかな組織になれたかも、なんて考えてしまいます。

心配しないで下さい、彼らは僕らにとって大切な仲間です。

頼ってますから」



そんな嬉しい言葉に、三人は同じことを思っていた。

この人たちについて行って良かった、と。


あらかたの掃除が終わって、夕暮れ時。

交通機関を使ってレストランDooLへ帰ろうとしていたが、黄瀬は再びバックパックを背負っている。



「そんな急じゃなくても……」



黄瀬の旅はまだまだだった。

各地の死神を駆除しながら、倉本からの任務を全うする旅。

集団で戦うことが出来ず、一人で戦うほうが本領を発揮する彼の能力。

最初は協力性がなく気に入らなかったが、今はその能力を誇っている。



「また帰ってきますよ。

今回ばっかりは立ち寄っただけですから」



嘘なんかじゃない。

本当に近くまで来たから立ち寄っただけ。

倉本さんから顔出し程度で、と言われただけで本来ならここに寄らずに南の方へと進んでいたのに。

今回だけは寄って正解でした。

昔のヒーローたちに再会できたのだから。


関西行きの新幹線へと乗り、出入口で見送る彼らを見ていた。

大雑把に手を振る武内さん。

本当、面白い人です。

その後ろに久賀さんと黒薙さんが目を合わせようとはせず、何かを考えているようにもみえる。

こういう別れ際は苦手なのも知っているから、これ以上は望みませんよ。

彼らからの激励は無いだろうと踏んでいました……が。



「っ……!」



ヒーローたちの誓い。

拳を掲げて、拳を交わし合う。

昔から変わらない深い激励。

僕は嬉しく、再び一礼。

ありがとうございます。

閉まるドア、動く新幹線。

だが、彼らは姿が見えなくなるまで掲げる。

その栄光を照らして。



「……何それ?」


「いいんすよ、武内さん。

これは俺らの挨拶みたいなものですから」


「ただの約束事を実現しただけです」



わけのわからない武内の背中を押して久賀と黒薙は先に進む。

また、再会することを信じて。


指定席を見つけて、大荷物を置いて一安心。

仲間の顔を見れてよかった……と思ったとき、一つだけ言い忘れを思い出した。



「あ、武内さんに武内さんの親族と会ったって言ってなかった……まぁ、別にいいか」











武内 鷹人の行方不明まで。


残り、九ヶ月。






どーも、戯富賭です。

今回は本編で名だけの黄瀬くんのお話でした。

彼は久賀くんと黒薙くん、あと徹くんを含めた三人に一人の舎弟のような存在です。

彼にとってはこの三人が居場所であり、また憧れでした。

しかし、憧れと強さは違います。

強くなってしまったことで彼らの生き方が付き従えているように見えてしまったのは無理もないですが、結局彼のヒーローたちは生きているという事実でした。

これで黄瀬くんには再び長旅です。


けど、次週は本編。

次回、蒼天と呼ばれた組織が遂に登場!

そして……剣豪を目指す三人目が。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ