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叛乱のコロシガミ-Another Story-  作者: 戯富賭
無響旋律-Mercy of wolves-
4/7

二つの不満


[聖歴203x年10月16日午前7時38分02秒]


親友の謎の突然死、取り残される二人


結束などなくとも彼らは繋がっている


さよなら、も言わずに友達が死んだ。

あいつはどうして俺らに何も言わずに逝ってしまったのか分からなかった。

後悔ばかりが、のしかかってきて。

道をぶらぶらと外していたところで、俺の意識が途絶えていた。



「……(とおる)!!!」



思わず死んだ友達の名を叫んで起き上がる。

この手に届きそうな距離だったが目覚めれば、あまりにも遠い。

生と死。

俺は生きて、彼は死んだ。

それがどれだけ遠いのか、冴えきらないバカな俺でもわかる。



「お、目が覚めた?

ちょっと待っててね、筒美(つつみ)さーん」



知らない青年。

ニコニコとした表情を浮かべて、何なんだ?



「俺、何で……そういえば、俺は……えっ?」



何故……こんなところに?



「どういうことだ……?!!」



徐々に思い返してきた。

こんな暖かな場所なんかじゃない。

暗くてジメジメしていて、血の匂いもするほど嫌な場所にいたはずだ。

そこですげェデカイ化物がいて、誰かが俺を助けてくれたのか……?

む、胸が苦し……!



「はぁ……はぁ……」


「力の暴走だよ、筒美さん!」


「言われへんでも!」



青年は倉本という大人を引き連れて、謎の発作が出た俺に衝撃を与えて再び気を失う。

次に目が覚めたのは、たったの五分後だった。

風邪を引いたときのような身体の重さ。

しかし、それこそ自分が生きていることの証明でもあった。

青年、武内(たけうち) 鷹人(たかひと)倉本(くらもと) 筒美(つつみ)に話を聞かされた。

自分の現状とそれまでのこと。



「コロシガミってやつになったことは分かったけど……徹は?」


「君の親友は報道番組で出とるが、残念やけど死んどるで」


「そう、すか……」



17歳の高校生が謎の死を遂げれば、報道される。

病気を患うほど身体が弱々しいわけでもなければ、急に死ぬ兆候を見せたわけでもない。

すんなりと溢れるように、死んだ。



「死神自体を倒したところで運命が変わらないこともある。

そういう類の連中が多いかな、うちは」



自分と同じように、受け入れられない死を変えようと力を手にした集団、ホムンクルス。

だが、変えられる力を持ったとしても現実を変えるというのは、一ミリにも満たない砂金を掴むのと同等のレベル。

何十、何百、何千……と繰り返し、地獄のループを辿った者もいるが最後は全てを受け入れるしかなかった。

そんな残酷な現実を受け入れた能力者たちの中に一人だけ、無能力者がいた。



「ねぇ、君も入らない?」


「鷹!何言うとんねん?!!

この子はお前と違って前向きじゃない!」


「けど、暴走が起きている時点で僕らはどうにかしないといけない。

これはコロシガミになった僕らの責務だ。

出ないといつかは僕らが戦うことになる」


「鷹……お前はコロシガミじゃなかろうが」


「あはは、そうだった。

おっと、こんな時間……僕帰らなきゃ」



こんなにも重たくなるような雰囲気にも関わらず、笑顔を見せている。

……俺を救おうとしてくれた。



「人間……?

どうして、あの人はこの集団で溶け込めていられる?

怖くないのか?」


「あーそういうの、あいつには無駄やで」



その問いに答えることが少し慣れているように見えた。

多分、俺以外の誰かも俺と同様な疑問を抱いて聞いたんだろう。

それでも、俺に話してくれた。



「あいつが人間でなくとも、結果は変わらん。

なんせコロシガミなんか後回しにして、一個人として見とる。

分からないことは積極的に向かう純粋な男なんよ。

だから、ホムンクルスという組織が出来たといっても過言じゃないな」


「仲、良いんすね……」


「そうでもないで、俺はあーいう奴は嫌いなタイプや。

学生時代の先輩後輩の付き合いからやったけど、俺らに敬語は使わんし、ずっと付きまととった。

せやけど、あいつは嫌いになれない何かを持っとった。

拒絶したところで受け入れて今まで通りに過ごすんよ。

純粋で天然、頑固な一面も持つ不思議な男。

一生敵わないって思った。

だからこそ、こうやって肩並べて歩いておるのが楽しいで」



意外に切実な人なんだな……。

多分、いろんなことが葛藤して。

そして、羨ましくも見えていた。

ノー天気というわけではないだろうけど、思ったことをそのまま言える。

あの武内って人は周りをいい意味でかき回している。



「なんか、恥ずかしい話ばっかやな」


「いや……少し興味を持てたから」


「……そうか」



一緒にいて面白い。

そんなの……俺だってそうだったから。

もの思いにふけていた俺を横目に携帯電話が鳴り響き、倉本は通話相手を見て戸惑いもしたが一応出た。



「どうした、忘れ物でもしたか?

……なんやて?また倒れとる?

そんで、その子は?」



どうやら、俺と同様なやつがいたみたいだった。

携帯電話を耳から離して、困り果てた顔で倉本は俺に話す。



「なぁ、徹くんの友達くん……」


「自分の名前、久賀(ひさか) 朱雀(すざく)っす」


「じゃあ、久賀くん。

君の友達、コロシガミになっとる。

名前は、黒薙(くろなぎ) (げん)

徹くんの死がきっかけで君と同じく死神にやられていたみたいや」



その名に驚嘆と。

そして……怒りが芽生えた。

奴とは馬が合わなかった。

徹という親友同士ではいても、俺たちが親友同士……だとは一度も思えない。

だから、その徹がいなくなったとき。

俺だけが絶望に浸っていたわけではないことは明確だった。

それでも……俺と同じ道を辿ったあいつを許せないし、あいつも俺を許さない。



「…………」「…………」



朝方。

空き部屋に二つのベッドを占領するけが人、二人。

互いに互いを知っていても。

目を合わさず、口も交わさない。



「す、凄い圧迫感……」


「昔からの腐れ縁で、徹くんがお前みたいに仲裁役としておって、二人は元々仲良しといえるほどの仲でもないらしい」


「中々、変な出会い方なんだね」


「お前がいうな」



こっそりと覗き見をしているのはバレバレだが、武内と倉本が見ている。

このままではあの人たちの迷惑にもなる。

常に冷静な奴から口を開いた。



「無様だな」


「そっくりそのまま返してやる。

コロシガミなんかになりやがって」


「何をしようと俺の勝手だ。

まぁ……未だに信じられないけど、徹の死は免れないことだけは分かった」


「あいつは優しいやつだったな……。

俺らの話を最後まで聞いてくれたし、俺らのことを考慮してくれた。

取り残された俺らをどうする気だったんだろうな?」



その答えは返らない。

本当に分からないなんてことはない。

ただ、奴から答えて欲しかっただけなのか?

馬鹿馬鹿しい……。

そんな奴を、俺は見た。

俺と同じように重傷で包帯だらけの身体だが、その目は腐ってはいない。



「……俺はお前が好きじゃない」


「同感だ、俺もお前が好きじゃない」


「でも、嫌いでもない」


「あぁ、それも同感だ」



気に食わないだけでも。

互いに互いを知れている。

常に同じ考えで。

道に迷ったときも、最初は右。

ジャンケンをすれば、あいこ。

トランプも、引き分けばかり。

意思疎通というより、意思共通。

これが徹の企みなんだ、きっと。



「で、これからどうする?」


「そんなの決まっているだろう」


「そうだな……」



だから、もう同じ考えだ。

ベッドから起き上がり、傷ついた身体ながら徐々に部屋を出るためにドアへと近寄り辿り着く。

部屋を出れば息をゆっくり吸い、声を張り上げる。



「「俺らをここに入れさせて下さい」」



共に、同じ答えを。



「それが君らなりの答えなら、俺らは面倒見る。

せやけど、覚えとき。

ここの優先事項はただ一つ。

仲間を救え、それだけや」


「やっぱり僕の予想通り。

若者が増えて楽しくなってきたね、キング」


「どうでもいい……が、いい目つきだ」



ホムンクルスの王である神谷 士郎が物珍しく、人を褒める。

何かを貫こうとする決意の眼差しに感づいているからだ。

しかし、倉本も武内も長年の付き合いである彼の行動がよほど珍しかったのか、口を開けたまま呆然としていた。



「キングが、褒めてるー!」


「うるせぇ、てめぇは黙ってろ」


「いたっ!

相変わらず制裁がキツイよ!

ねぇ、筒美さん?」


「自業自得や、ボケ」


「もー筒美さんまで!」



呆然と見ていた。

この人たちは、徹とは違う惹きつけられるものを個々に持っている。

それでも尚、この三人だからこそ。

俺たちは付いていきたいと思えたのだった。



「二人とも何つったとんねん?

あらかた説明してやるさかい、席につきや」



そこは決して天国ではないが、地獄でもない。

保留されながらも幸せな場所。

俺、久賀と。

奴、黒薙が。

ホムンクルスに所属した日となる。



「それで……何で世話役が武内さんなんですか?」


「コロシガミの実戦教育係は筒美さんだけど、僕はここでの生活の世話役ってわけ。

あ、初めからこういう役分けだから疑わないで貰えると助かるかな。

ここって見た目以上に掟がたくさんあるから、最初は大変だけど頑張ってね」



ここは色々と凄かった。

裏向きは、死神討伐と人命救助に個々の腹いせに付き合うことを目的としたコロシガミの集団。

だが、表向きは雑用扱い。

倉本さんがオーナーを務める、レストランバーDooLの店員となり手伝う。

その分、営業時間も限られており、その他は裏向きに回っている。

けれども、これは倉本さんの考えではなく武内さんの考えだった。

コロシガミになったとしても基礎基本の生活性を高める、とのこと。



「……で、この犬っころは何すか?」


「犬ではないわ、たわけ!」


「うおっ?!!

い、い、犬が、しゃべ、しゃべ……!」



い、犬……なのか、よく分からないが武内さんに指示された集合場所へ行けば、待っていた武内さんの隣に来るように歩いていた白い姿。



「お勤めご苦労さまです、カザマさん」


「おおっ、武内くん。

そういえば、頼まれておったお土産は買ってきたよ。

……また生意気な小僧の世話とは苦労なことで」


「誰が生意気だ?!

犬のくせに会話するんじゃねぇよ!」


「犬、犬、うるさいわ小童!」


「げほっ……!」



目の前にいたはずの姿は視界から消え、気がつけば背中に痛みが走る。

俺は犬に蹴られてコンクリートの壁にめり込んでいた!

こ、この犬も、コロシガミ……!



「ちょ、ちょっとカザマさん。

まだ開花したばかりだから手加減しないと」


「すまんのう……醜態を晒してしまった」


「まぁ、でも実感はしたから結果オーライかも。

これで分かったよね?

カザマさんもコロシガミの一人。

今の君たちなら軽くあしらう程度で勝てるほど、経験を積んでいる先輩だよ。

僕のいうことでもないかもしれないけど、敬意だけはしっかりね」


「は、はい……」



恐らく俺と同じ考えだった黒薙は言葉にしないことでうまく逃げ、俺だけが犬のカザマさんにやられた。

くそっ……あいつ!

その後は一通りの運動を済ませて、武内さんとカザマさんの指導の元。

基礎を習っていた。



「どう?実感、湧いた?」


「結構やってきたんで、見てて下さい」


「俺の方もお願いします」



まだまだ粗いがコロシガミとしてのコツは掴めてきていた。

打たれてナンボという鬼指導で得たもの。

徐々に目が慣れ、俺だけの世界が見えていた。

黒薙の方は水たまりの水分を拳一つ分だが操っている。



「なるほど……。

自動で力が発動する赤っちは鎧のコロシガミ。

で、自然物の操作する黒っちは鎮のコロシガミ、ってところだね」


「聞きたいことは山積みですけど……その、黒っちって自分のことを指すなら、即刻やめて下さい」



本当、人見知りというかなんというか……。

人との関わりに距離を置くよな。

奴には不満しかないが、今は対等。

負けてなどいられない。



「コロシガミにも力の種類で分けられいるんだ。

大体基礎部分で似ているのが五つ。

肉体強化の(てつ)、生命異常の(さび)、武器改造の(ほこ)、自己防衛の(よろい)、自然操作の(ちん)

それぞれに特徴があるから分かりやすいけど、王様はまた別。

神話創造の(おの)

ホムンクルスの王と呼ばれる由縁。

彼の力は世界を壊しかねないんだよ」



武内さんの説明は分かり易かった。

それだけ分かっていながらもコロシガミでないし、士狼さんのこともある。

自然体だけど、俺ら以上に考えるよな普通……。



「だから人前では滅多に力を使わないし、気の力を使った体術だけでどうにか出来ているから」



でも、そんな顔しないで下さい。

暗く俯いた武内さんの表情をその日初めて見た。

士狼さんの力は世界を壊しかねない。

それを知っているから、どうにもできない自分を嫌っている……。

あの顔だけは、分かってしまう……。

そんな暗い部分も一瞬だけ見せて、武内さんはいつもの明るさを表に出していた。



「ちなみに気の力のことだけど、これは元々人間とコロシガミの間にある力で持っている人は大半。

気力演武の(つば)、ってカテゴリに入るけど、僕でも使えるから気の力って呼んでる」


「それじゃあ、武内さんも戦えるってことですか?」


「それは無理。

僕のはキングの一割にも満たない力だから、戦闘能力はほぼゼロなんだ。

基礎教育係としてはこの辺までかな。

これからの成長は自分次第さ。

倉本さんの教育もスパルタだし何とかなるよ」



こうして、長くて短い武内さんの指導は終わった。

そのあとは実戦と倉本さんのスパルタが始まって。


現在。


力を持たなくとも。

あの人が俺らを救ってくれた。

倉本さんや士狼さんがあの人を慕う理由も、着いて行くことですぐに理解した。

あの人は俺らを人間として見てくれる。

どんなに人間離れな力を持とうとも。

武内さんは俺らを見てくれるし、同じ気持ちだ。



「ちーっす」


「どうも」



ホムンクルスに出会ってから少しが経って気づけたこと。

日々の挨拶と共に入った本拠地。

正直、まだ気に食わないが徹のダチ同士であることは互いに認めている。

いつもの喧嘩もあるけれど、二人は前に進めているんだと分かっていた。



「おかえり、二人とも」



この人たちについて来て、

武内さんが救ってくれて、

俺らの居場所がここに出来た。


徹じゃない、新しい居場所が。











武内 鷹人の行方不明まで。


残り、十ヶ月。






今回は久賀 朱雀くんと黒薙 玄くんのお話です。

彼らの関係性はとても複雑です。

徹くんと久賀くん、徹くんと黒薙くんが親友同士ともいえる大きな存在に対し。

久賀くんと黒薙くんのセットは存在すらないのです。

仲良しではないが、考えることは一緒。

つまり、兄弟以上に似た者同士ということですがそれでも最低限の手助けしかしません。

瀕死で頼んだら助ける、ぐらいの度合いです。

まぁ、プライドが高い二人ですから頼むことはないですけど。


※先週の投稿で出すつもりが、このような不定期となってしまいスミマセンでした。

理由は作者の体調不良です。

今はほぼ完治しています。

ですが、来週も別件で忙しくなるので休みます。

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