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叛乱のコロシガミ-Another Story-  作者: 戯富賭
無響旋律-Mercy of wolves-
2/7

三頭の狂犬

[聖歴203x年8月16日時刻不明]


あの日から、三年


平和な青年は王たちに出会う




彼らの出会いは唐突もなく訪れる。




目の前には一体の化け物と一人の青年。

青年は武器も何も持たず、素手だけで化け物を粉砕。

誰も寄せ付けない覇道の青年だった。


ここは過去進行形の世界。

生物の動作がまるで逆再生され、時計の数字は減少していく。

もちろん、生物も物体も壊れない。


現在の現実ではないのだから。



「大丈夫か?」



青年から声をかけられたときにはもう意識が持たなかった武内(たけうち)

ただ、覚えていたことは同じ学校で高等部の制服と赤髪だった。

まるで夢のような事態だが、現実。

朝、目が覚めると身体の異常な気だるさと身体の手当てが物語っている。


次の日の学校。

何事もなかった武内はクラスメートに赤髪の同学校の高等部の生徒を聞く。



「はぁ?!!あの二人組を知らないのかよ!」


「そんなに、有名?」


「本当、お前ってどこか間が抜けてるよな……。

いいか、よく聞けよ。

二つ上の神谷(かみや) 士狼(しろう)先輩と倉本(くらもと) 筒美(つつみ)先輩っていえば、高等部では有名中の有名。

暴走族を一人で圧倒する伝説を持つ男の憧れ神谷さんに、二枚目かつ善良人で女の憧れ倉本さんのタッグ。

普通じゃあり得ないコンビなんだけど、噂じゃ昔から仲が良かったらしい。

ほんと変な縁だよな……」



神谷 士狼と倉本 筒美。

赤髪の方は神谷 士狼。

それを覚えた武内はさっそく接触を試みる。

そんな彼もまた変人として噂されていた。

当然といえば、必然でもある。

彼の行動原理はいつだって、謎なのだから。


その頃。

屋上で一人寝る神谷へそこにいたことを知るかのように倉本は話し掛ける。



「士狼、こんなとこにおったんか」


「なんか用か……?」


「用も何も……あの少年に事情を話すべきやったんちゃう?

別に脅せとは言わへん。

話して止むを得ない場合だけや。

ただ訳分からんまま闇雲に入られても困るんや」


「なら、あいつは死神になるか?」


「そないな冗談キツイで。

お前ならやりかねんからな。

ともかく、ケジメは付けんといかんわ」



コロシガミと死神、過去進行形に進む世界のことを知らせるべきだった。

ある程度の人は混乱し、いつかは相手にされなくなり孤立。

そんな最悪な状況に立たされる前にどうにかしてやりたいところ。



「それならすぐに済みそうだぞ」


「えっ?」



獣のような感覚で神谷は出入口付近で隠れる武内に気づいていた。

気づかれたことに察した武内は逃げることなく、堂々と神谷たちの前へ。



「どうも、先日は助けて頂きありがとうございました!

自分、武内(たけうち) 鷹人(たかひと)っていいます。

呼び方自由でどうぞ!」


「お、おぉ……」



倉本が感じた武内の印象は気さくな人間だと思った。

しかし、神谷は何かを察するように起き上がって座れば、武内は目の前に出て一言。



「ところで、狼さんは何で飢えているのにそんなにも悲しそうなんだい?」



予想外の一言で神谷の目つきが変わり、倉本の口が茫然と開き冷や汗をかいていた。

断りもなく、堂々と。

武内は言葉を濁さずに発言する。



「お、おい!士狼に何言うとんねん!

殺されたいんか?!!」



慌てふためく倉本に平気な顔する武内。

平然としていながら、なんて無謀だろうか。

武内の不可解な行動に倉本は悪寒が走る。

しかし言われたら返す神谷が口出しも手出しもせず、武内を放って置いて倉本の肩を叩いて耳打ちする。



「……あとは、任せた」


「は、はぁ……」



今にも襲いかかるのではないかと緊張感が抜けない中で神谷はその場を立ち去る。

つまるところ、厄介ごと全てを押し付けられた。

とりあえずは難所を乗り越え一息。



「ホンマ焦るやんか……あいつにそないな言い方する奴は君ぐらいやで。

ある程度事情を説明せんかった俺らにも悪気はあるけどな、噂くらいは耳にしとらんかったんか?」


「いやーだって、あの化け物に向かっていく姿は勇敢というよりも、悲観的だったから」



武内はそんな答えしかない。

素直な好奇心ともいえる。

人見知りが激しい神谷にとって敵意を持った人間には容赦無く切り捨てた。

しかし、その神谷が切り捨てない。

素直な好奇心……いや、コロシガミにとって失くしてしまった純粋さに負けた。



「なんというか、呆れるわ」



完敗。

なんともあっさりとしているのか。

でも、負けた気はさらさらない。

尊敬と羨ましさ。

欠点を持つから武内 鷹人の、人間の持つ可能性を欲している。

いや、彼だけの純粋さかもしれない。


全てを見透かされた気がしてならない倉本は神谷に言われた通り、武内に一通りの説明をする。



「……ちゅーわけで、俺らは戦っとる。

本来なら君たち一般人を巻き込まずして終わるはずなんだけど、稀に巻き込まれてしまうことがあるみたいや。

君、運がないな」


「それは元々なので気にしてない、気にしてない。

そっかあー、狼さんと筒美さんは世界を守ってる人なんだ」



怖気づくことなく。

目を輝かして自分の不幸も、二人のせいにすることもなく。

純粋すぎる。

いや、それ以上に異常なのかもしれない。

どちらにしろ、倉本は驚嘆する。



「……こないな人間初めてや」



人間も捨てたものじゃない。

倉本はそう思い返された武内との出会いだったが、神谷の方は違う。



「見透かした人間……」



根本を読み取った神谷はふいに思い返す。

……居心地が悪かったわけではない。

むしろ、怖気づいたのは神谷だった。

コロシガミの本職は人の救助。

彼にとって救助なんて生温いことのためではなく、復讐のため。

人間としての人生をめちゃくちゃにした神への反旗。

ぽっかりと空いた穴を埋めるために殺し続けた。

それをたった一度二度の接触で読まれた。


武内 鷹人。


綺麗すぎる奴だ。




それから一ヶ月……



「……で、いつまでついて来るのかな?」


「んー、一生」



武内はにこにことちゃっかり側にいる。

ほぼ毎日、付きまとうかのように気がつけばいる。

説得を試みるも無駄。

結果、コロシガミの現場にも、無駄な争い事にも参加している。


しかし、問題はまだある。

神谷の反応は無し。

いたって普通に無口なりにも返事もすれば、武内が側に来ようが気にも止めない。

一体何なんだ、この仕打ちは?

倉本はついに鉾先をどうにもならない武内から無抵抗の神谷へ向けた。



「で、士狼はええんか?!!

結局巻き込んでしもうたけど」


「だから、任せたって言ったろが」


「押し付けか?!!

そもそもこないなことになったのはお前のせいやっちゅうのに、押し付けか?!!」


「あーうるせ!」


「あはは」


「「お前のことだろうが!!!」」



天然笑いする武内に二人は息揃えて頭上へ軽くグーパン。


そんな平凡な日常。

三歳年下の純粋な天然後輩、武内 鷹人。

神谷と武内の見守り役、倉本 筒美。

唯我独尊の一匹狼、神谷 士狼。




それがホムンクルスの誕生秘話。




二年後……


神谷と倉本は卒業、成人へ。

だが関係は変わらず、今も暇となれば側にいる武内。

チーム、ホムンクルス。

本拠地は倉本家が経由するレストランバー・DooL。

現在約十人のメンバーとなり、この三人はトップと呼ばれている。

専用席を陣取る神谷。

カウンターで働く倉本。

その相席にくつろぐ武内。

そして、周りにも見慣れた多くのメンバーが居座る。



「結局、ここまできてもうたな……」


「筒美さん、何か言ったー?」


「なんでもあらへん。

それよりも行こか、神様退治」



その言葉を合図に当番であるメンバーたちは支度を始め、先頭を突っ切る神谷のあとへ続く。

休暇で仕事中の倉本と特別枠の武内はそれを見送る。

心配など一度もない。

互いに互いを知っているのだからするだけ無駄。


だけどチームが出来たのは鷹、お前の力や。

辛気臭くとも心の中で感謝する倉本。

まさか、見透かされたりしてな……?


微笑む彼は洗い終わったグラスを拭く。











武内 鷹人の行方不明まで。


残り、一年。






無響旋律……遂に始まりました。

実はこの章こそ、小説を初めに書いた本命なのです。


今回は五人衆の一人である武内 鷹人くんがホムンクルスを作った、裏の張本人だったという誕生秘話です。

これから書かれるのは彼が行方不明になるまでの記憶。

ホムンクルスのメンバーが何故コロシガミになってしまったのか。

ホムンクルス過去編です。



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