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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼氏の悩み

作者: 雪だるま

 多分物心付く前から、龍二は自分が異常であるのに気づいたんだろう。

 自分は他人と違う。異質であって奇形であると理解してたから、童年時代はいつも一人だった。

 一人でいるしかなかった。

 しかし、そんな龍二でも、二十歳になった今は夢にすら出て来なかったそこそこ名のある大学に通い、その上彼女もできた。

 考えるだけでも不思議で、目に広がる光景はいつも幻のように思えた。

 だが、そんな理想をはるかに越えた生活に恵まれたにもかかわらず。龍二の歪んだ殻に眠ったある欲望が目を開いた。

 人を食いたい。


5月20日

 

 妙子は最近とても心配しているのだ。

 大学に入って初めてできた、運動も学業も群を抜いて文句言えない顔立ちの彼氏がここ何日前から憂鬱しがちだからだ。暗い顔で淀んだ目、何かに怯えているような、途方に暮れた感じ。

 一体何があったんだろう。

 理由を知りたいが、どうも自分を避けている気がする。

 そういえば、彼の鬱が始まったのはあの事件以来からではないか?


5月14日

 

 柿崎市でとんでもない事件が起きた。

 住ノ江大学近辺の公園で、女性の死体が現れた。

 死体の腹部は刃物で切り開かれ、内臓が引き出され、乳房が動物に食いちぎられたようにボロボロになり。一番恐ろしいのは顔の皮膚が向かれて、その様子は地獄から這い出て来た悪魔のように見えることだ。

 死体が発見され、報道で世に知れ渡った時。

 住ノ江大学、柿崎市はもちろん、全日本が震え上がり、人々は戦慄した。


5月13日

PM9:30頃


 今日の龍二の帰宅は少々遅めなのだ、原因はサークルでの制作に使う工具と材料の買いだして、学校帰りに近くの専門店を回ったからだ。

 パンパンに膨らんだ買い物袋を2つも持った龍二はようやく立てるのが精一杯で、歩くと左右に揺れとても不安定だ。

 そんな時に、何の前触れもなく後ろから声をかけられた。

「あのぉ、もし良かったら……手伝いましょうか」

 鈴のように綺麗な声。

 振り向いたら、年の近い女の子がそこに立っていた。

 小首を少し右側にかしげて、こちらを伺うにして覗くような目で微笑みかけている。

 その時、今まで心の中に隠された何かが。その偽りの皮を灰にして吹き飛ばした。

(この娘だ)


PM9:42頃


 彼女は袋を2つとも持とうとしたが、男である龍二はそれを断った。それで、一人一つの持って一緒に歩いた。

 少し歩いた頃、彼女が自分と同じ大学であることを知った。しかし、顔を知らないということは違う学科だろうと考えた。

 心の中で暗闇が広がる。

 場所と人間的な距離は悪いが、この期をのがしては ならないと思った。

「えっと、この公園を抜けたらすぐです」

 龍二は顎で右側にある公園を指し、彼女を導いた。


5月22日


「ねえ、知ってる。犯人は棒状のものであの女性を殺したあと死体をあんな風にしたんだってさ」薫子はまるで自分の目で見たかのように、顔を恐怖の色に染めて「なんて恐ろしいっ」と、言った。

 しかし妙子は、それより自分の彼氏が心配なのだ。猟奇殺人とか知ったことじゃない、そんなの妙子には関係ないもの。

 一体彼を覆う闇の正体は何なんだろう。

 そんな妙子の心境を知るはずなく、薫子は話を続いた。

「本当に怖いんだから。私ね、事件が起きた時その近くにいたのよ」目をいっぱいに開け高ぶった感情で声のトーンもいつもよりたかい「あっ、妙子の彼氏もいたわねあの時。二人共無事でよかった……」

「えっ……」

 思わぬ展開に妙子は目を見開けた。

 彼が……あの時……あのそこに?

 確かに、あの日彼は用事があるとかなんとかで早々に別れた。

 事件直前にあそこにいてもおかしくない、あのになぜ胸のうちがざわめく。

 なぜ不安がこんなにも込上がってくる?

 もしかして、彼の最近の陰りは事件と関係あるんじゃあ。

 妙子はとても恐ろしい想像をしていた。


5月13日

PM9:50頃

 

 隣に歩く女の子の名前は絵里奈という、こうして自分を助けることを見ると根から優しい子であることが分かる。

 そうだ、そうでなくちゃ。

 初めての獲物としては、この娘は十分に相応しい。

 異常なまでの興奮に龍二は震えて危うく転びそうになり。一瞬体全体に電気が走ったように痺れて、左手に持った袋が地面に落ちた。

「あら大変」

 女の子は落ちた勢いに溢れて前方に散らばった袋の中身を見て、早速一歩前に進み方膝をついて拾い始めた。

 背を向いてる女の子。

(今だ)と。龍二の中で声が響いた。

 龍二はようやく震えが止まらる体のバランスを保ちながら、右手に持ったものを彼女に頭に目掛けて振り下ろした。


5月23日

 

 講義が終わったあとの昼下がり。

 龍二は大学の廊下で妙子を見かけた。

 とても暗い表情だった、何かに悩んでいるように見えた。

 龍二の視線に気付いたか、妙子もこちらに目をむいた。

「あ、あの……」

 龍二に駆け寄りながら、妙子は震える声で話しかけた。

「すまん、今は用事あるから」と。龍二はそっけなく返事して、ゆっくり立ち去った。

 


(あー、なんと素晴らしい)

 ついさっき自分が手にかけた女の体を眺めながら龍二は思った。

 上の服はすでにはだけられ、綺麗な形をした乳房が顕になった。

 その美しい2つの塊に吸い寄せられるように、龍二は片方の先端に口付けした。

 次に、口を大きく開き柔らかき肉を奥歯まで届くところに吸い込み、肉食獣のように噛み付き皮膚を食い千切った。

 眉間に皺が寄る。皮膚の下は脂肪しかなく食すにはあんまり向いてないようだ。

 少し考えて、さっき袋からこぼれ出たカッターを拾い、刃を少し押し出して女の腹部に当てた。

(やっぱ、内臓のほうが美味しいにきまってる……)



5月24日

 

 妙子。

 色々調べても、たくさん考えても、疑惑は深まるばかり。

 妙子はとうとう我慢できず、直接聞こうと彼の部屋に来ていた。

 正面に座ってる彼は相も変わらず、暗い闇に包まれていた。

 やがて、彼は何かを決意したらしく立ち上がった。 

 

5月24日

 

 龍二。

 今日は珍しく彼女が部屋に来ている。

 どうやら、最近の龍二は反応がおかしく、彼女はそれが心配で来ているようだ。

(あぁ、そうだ! あの日欲望が満たされてから俺は生まれ変わった。そして今、また餓え始めた)

 龍二は立ち上がって、後ろにあるキッチンに行き、コップで水を汲もうとした。だが、コップを取ろうとした手が横に並べた食器にあたり、鼓膜に刺さる金属とともに食器が床に散乱した。

「なにしてるのよもう」

 彼女がしょうがないなー、と言うような顔をして、龍二の横に来て片膝を床について食器を拾い始めた。

 この前と同じ構図。

 龍二は笑い出したい衝動を抑えて、前にある包丁を手にし、彼女の背中に突き刺した。

 一瞬、彼女は何が起きたのかもわからなかった。

 次の一瞬、背中から肺を貫かれた彼女は悲鳴を上げることすらできない。

 痛みもがくの中、彼女の体内の酸素がどんどん消耗され、ついに息を絶った。

「ふっふふ、あっはははははははははあはははははははははは!」

 部屋中に龍二の笑い声が響き渡る。

(二番目の食事)


15分後

 

 警察が龍二宅についた頃、龍二の彼女は見るに耐えない無残なしたいとなっていた。

 

5月25日


 今日も、妙子は彼の部屋に来ている。

 昨日の彼の口から聞いた話は想像にして恐ろしい。

 しかし、どこなホッとしてる。

 彼は今新聞を広げて、昨日公園猟奇殺人犯人が逮捕された記事を見ていた。

 新聞にはーー。

 ……友人の通報により……逮捕された殺人犯……。……殺人犯……先天四肢欠如……右足……。

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