街で見かけた方
屋敷にお嬢様と帰る路すがら、お嬢様の言うには私を泣かせた意趣返しに見かけは甘い、でも辛いケーキをプレゼントしてきたらしい。
「……お嬢様、あくどいですよ」
「ほーっほっほ、女の子を泣かせたらどういう目に合うか、思い知れって言うのよ」
お嬢様、私怨も入ってますよね?
私の意趣返しだけじゃないですよね、さっきの黒い騎士様にムカつくって言ってましたもんね。
願わくは、贈り主がバレませんように。
特に、白い騎士様に私の関係だと分かりませんように。
「お嬢様、そんなに黒い騎士様の事が嫌いなんですか?」
「んー嫌いっていうか……気に食わない?」
……気に食わないだけであの辛いケーキを贈るんですか……しかも、あれ店で一番大きくて高いのでしたよね。
ちょっとお嬢様から視線を逸らして溜息をついてしまう。
そして、黒い騎士様の以外に優しそうな眼差しを思い出して、ごめんなさいと呟く。
翌日、お嬢様のおつかいで言伝を届けに行った帰りに、肩を落として歩く黒い騎士様らしき人を見かけた。
……あのケーキ食べちゃったのかな……それであんながっくりされてるのかなと思うと、思わず目を瞑ってごめんなさい、ごめんなさいと呟く。
あんまり心苦しいので道を変えようと振り返ると、壁か柱にぶつかってしまった。
「きゃっ」
「あら……大丈夫?」
道に尻餅をついてしまった私の目の前に、白い綺麗な手が差し出されていた。
「だ、大丈夫です、すみませんっ」
差し出された手を取って、立上がらせてもらった。
「怪我はない?」
優しそうな声で聞かれて、思わずこくこくと頷くと、ふわりといい匂いがした。
「気をつけないと危なくてよ」
いかにも良い所のお嬢様か、どこかのお姫様みたいな美しい微笑みにぼわんと頬が赤くなっていく。
「は、はいっ。気をつけます」
私が元気よく返事をすると、にっこり微笑んで去って行かれ、ただその後姿をぼーっと見送ってしまった。
「うちのお嬢様とは天と地ほど違うって感じ……綺麗で優しくて……素敵だなぁ……」
白いドレスの背に光る銀色の長い髪を見ていて、ふと気が付くと、あれ、私って銀髪の人なら誰でも好きなのかな?
白い騎士様も、あのお姫様も女の人なのに、このドキドキは何だろう。