少女の見た騎士~お嬢様と街に
今日はお嬢様と街に出かけることになってしまった。
昨日はお嬢様のほんの気まぐれだと思ったら、朝食後出かける用意をしなさいと言われて、本気だったことを知ってびっくりしてしまった。
「お嬢様、本気……なんですか?」
もちろんこの『本気』というのは、昨日お嬢様が言った「白でも黒でも見たら言うように」と──多分黒の場合は、文句をつけるんだろうと思われる。
白は……お嬢様まで騎士様を好きになってしまったらどうしよう。
お嬢様なら、私と違って身分違いって言われることもなく、ひょっとしたら、お付き合いが始まってしまうかも知れないと思うと心が痛んだ。
「今日は……そうね、赤にしましょう」
お嬢様の今日のリボンは赤、ドレスも赤、いかにも挑戦的な色合いで、目立つことこの上ない。
その上、日傘はなぜか黒を選ばれた。
「お嬢様、日傘の色は合わせないんですか?」
「いいのよ、だってこの傘でぶっ叩くかも知れないんだし、一番気に入らない奴で」
「…………お嬢様…………」
この私のお嬢様は、どうやら黒の騎士服の大柄な騎士を日傘で殴るつもりらしい。
……しかも──日傘が壊れるまで。
思わず、どちらの騎士にも出会いませんように、と天に祈ってしまう。
街でお嬢様がドレスを注文し、カフェで一休みしようと私を伴って歩いていると、道の向こうに黒い大きな姿と白い小柄な姿とが見えた。
「あ……あれは……騎士様たち?」
「え? アリア、どっちの?」
「……あ……二人共です」
私が引きとめる間もなく、騎士様に向かってお嬢様が早足でつかつかと近づいて行く。
「ちょっと! そこの黒騎士さん」
お嬢様に呼び止められて黒い騎士様が振り返る。
「あー俺、かな? で、俺ぁあんたとどっかで会ったかな?」
黒い騎士様はお嬢様を見下ろして、不思議そうな顔を浮かべている。
「うちのアリアをよくも泣かせてくれたわね、騎士ともあろう者がメイドみたいな弱い者泣かせて恥ずかしくないの?」
「メイドぉ?」
メイド、と言われてようやくお嬢様の少し後に所在なげに立っている私に気付いて、ああ、と小さく声がした。
「アズール、込み入った話なら俺は先に──」
ふいに聞こえた白い騎士様の声、久しぶりにお顔が見れて、声まで聞けて、顔が赤くなっていくのが分かる。
「うわ……」
お嬢様が白い騎士様を見て、言葉に詰まっているのが分かった。
「……綺麗すぎ」
ぼそりと呟くお嬢様、どうやらお嬢様のタイプではなかったようで、ちょっとほっとする。
「あ、あの、すみませんっ!」
お嬢様の手を掴むと、騎士様たちから離れようと走り出した。
黒い騎士様だけならまだしも、白い騎士様──アルディス様がいるから恥ずかしい。
しばらくお嬢様の手を引っ張ったまま走って、広場まで来て漸く足を止める。
「ア、アリア……も……だめ…」
足を止めた途端にお嬢様が地面に座り込む。
「すみません……お嬢様」
「せめてあの黒いのに謝らせたかったんだけどなぁ」
「い、いえ……私はいいんです」
「よくないわよ、私は嫌よ」
メイドの私の為にお嬢様が怒っているのが、ちょっと嬉しい。
いつもは我侭だけど、本当は召使思いのいいお嬢様なのだ。
それに、今日は白い騎士様のお顔どころか声まで聞けた、それもすごく嬉しい。