少女の見た騎士~初恋
お嬢様のリボンのおつかいの後、「あいつはやめとけ」と大柄の黒い騎士様に言われてから、どうやってお屋敷に帰ったのか覚えていない。
どうして? という思いがずっと胸を締め付ける。
私がメイドで身分違いだから、思うことさえも許されないの?
ただ、白い銀の髪の騎士様にもう一度お目にかかることが出来たら……とか、遠くからでもいいから、そのお姿を目に入れたいって、そう思うことさえもダメなの?
リボンをお嬢様に届けて髪に結んで差し上げようとしたら、ふいにお嬢様に手で止められた。
「アリア、街で何があったの?」
「な、何でもありませんよ、お嬢様」
お嬢様が椅子に座って鏡越しに私を見ている。
今まで見たことのない表情で、眉を顰めている。
「だって、アリア……」
お嬢様が椅子から立ち上がって、私の顔を両手で挟んだ。
「……お嬢様?」
「だって、アリア泣いてるじゃない!」
「え?」
今までお嬢様が座っていた椅子に、座らされて、鏡を見ると……頬が濡れていた。
「リボンはもういいから、何があったの?」
お嬢様に優しく問い詰められて、一週間前に白い騎士様に出会った事、今日黒い騎士様にあいつはやめとけって言われたことをぽつりぽつりと口に出した。
「……騎士の考える事なんて分からないけどね、その黒騎士の奴ってあんまりだわ」
「……お嬢様、奴って言うのはお嬢様の口になさる言葉遣いでは……」
「いいじゃないの、そんな事っ!
今は家庭教師も侍従も居ないんだし」
「……それはそうですが……」
「それよりさ、白騎士の君ってそんなに素敵だったの?」
ふいにお嬢様がにやりと私に笑いかける。
「ええ、素敵でした……銀の髪がとても綺麗で、紅い瞳が印象的で凛とされていて……」
「私も見てみたいなぁ……。そうだっ!」
いきなりお嬢様が大きな声を出すのにびっくりしてしまう。
「明日、街に一緒に行くのよ。
ちょうどドレスも新調したいし、それからカフェでお茶でも飲んで……」
「は…?」
どうやら白い騎士様に興味を持ったお嬢様は明日お出掛けされると決めたらしい。
「白でも黒でも見かけたら教えてちょうだい」
完全に面白がっているようにも見えて、思わず苦笑が浮かんでしまう。
それでも、明日、あの白い騎士様をほんの少しでも見かける事が出来たらいいな、と頬が赤くなってしまう。