少女が見た騎士~初恋?
2.少女が見た騎士~初恋?
お嬢様のおつかいに出て、白い騎士服の騎士様に助けてもらってから一週間。
助けてもらったといっても、私だけが怖がってただけで、黒い大柄の騎士様たちも何か悪いコトをしようとしていたわけじゃないので、助けてもらった……っていってもいいのかは分からない。
黒い大柄の騎士様たちと白い騎士様は笑って手を振ってたから。
多分、派閥の同じ側の同僚の騎士様たちなのだろう、と思う。
聞くところによれば、白の側と黒の側のいざかいはあちこちであったらしいから。
もし、派閥が違っていたらあんな風に笑ってたりはしない、と思う。
まぁ、私が白い騎士様に見惚れてて、何も聞いてなかったのだけど。
あの白い騎士様にもう一度会えたらいいなぁ……なんて胸をどきどきさせながら思うのは、思うだけなら自由だよね。
名前も知らない美しい白い騎士様……身分違いでも、会えたらいいなって思うくらいは許してもらえるよね。
「アリア、髪のリボンの色が気に入らないわ、他にないかしら」
お嬢様の髪を整えていたら、言われて、慌ててリボンの種類を確認してみるが、その中にお嬢様好みの色はなかったらしい。
「今日は薄いピンクのが付けたいのよね」
「お嬢様にはピンクがよくお似合いですものね」
「薄い、白に近いピンクのがしたいの。ねぇ、買って来てくれない?」
白、という言葉だけで心臓がどきんとしてしまう。
「……アリア? 熱でもあるの?」
「いえ、熱などありませんよ、アリアはいつも元気ですっ」
結局、お嬢様の「白に近いピンク」のリボンを買いにおつかいに出ることになった。
街に出たら白い騎士様に会えるかなぁ……会えたらいいなぁ、なんて思いながらリボンやブローチなどの装飾品を売っている店へと足を進める。
お店の前では、メイド服で入るのはちょっとばかり気後れしたけど、お嬢様のおつかいで、と意を決して中に入る。
お店の中には綺麗な装飾品がたくさんあって、綺麗な服の方々が何人もいて、自分のメイド服の場違いさにちょっと気分が沈む。
リボンをいくつか選んで、お嬢様ならこの色かと思われるものを2本選んで買っていると、店の外に白い騎士服が見えて心臓がどきんと鳴った。
ひょっとしてあの白い騎士服は!
お店の人に挨拶をしてから慌てて外に飛び出す。
後姿だけでも、と思ったけど、もうその白い騎士服はどこにも見当たらなかった。
がっかりしてとぼとぼとお屋敷にと歩いていると、足元が急に暗くなった。
「よぉ」
頭の上から声がかけられて、振り仰ぐと、黒の騎士服の大柄の騎士様がそこに居た。
「あー、こないだは怖い思いさせたみたいですまんな」
ぼそっと低い声で言われたのは一週間前の事だと思い当たり、思わずぶんぶんと頭を振る。
「いえっ、すみませんっ、気にしてませんからっ」
一週間前の、たかがメイドにしたことを覚えていて、しかも謝ってくれているのにびっくりした。
そんな気をつかえるような人だと思ってなかったから余計に、とは口が裂けてもいえないけど。
「そうか、そりゃよかった」
バンと大きな手が背中を叩くのに、咽た。
「これであいつに小言言われずにすまぁ」
けほけほと咽ていると、頭上で小さな呟きが聞こえて、あいつ、というのがひょっとして白い騎士様ではと心臓が高鳴る。
「あの……騎士様、同僚のあの騎士様とは親しい仲なのですか……?」
「ん?」
首を傾げている様子に誰の事だというのが見てとれて、慌てて言葉を次げる。
「あの白い騎士服の騎士様……銀髪の……」
銀髪に白い騎士服というのに誰の事かと思い当たったのか、ああ、と頷くのが見えた」
「アルディスの事か。
どうした嬢ちゃん、顔が赤いぞ?」
アルディス様、アルディス様って言うんだ、あの騎士様!
「あ、いえ、その……綺麗な方だなと思って……」
俯き加減でそう口にすると、頭にぽんっと手が置かれた。
「ひゃあぁぁぁっ」
子供にするようにがしがしと撫でられて、思わず声が出てしまった。
「な、何をするんですか?」
「ん、まぁ、なんだな?」
少し思案するような顔がいきなり近づいて、ぼそりと言われた。
「あいつはやめとけ」
「な、なんでそんな事言われなきゃならないんですかっ?」
見るくらいは、思うくらいいいじゃないですかと、頭の手を振りほどくようにして、大柄の騎士を見る。
「あー…まぁ、いっか」
また頭をぽんぽんと叩かれて、大柄の騎士様は歩き去っていった。
どうして、やめとけなんて言われなきゃならないんだろう。
私はただ、ほんの少し、会えたらとか名前を知れて嬉しいって、それだけなのに。
身分が違うことなんて、言われなくても分かってるのに……。