少女の見た騎士
勢力争いのある国の中で、メイドから見た物語。
「メイドから見た」なのでほのぼの成分多目のファンタジー日常
ガールズラブタグつけてますが、基本的にえちぃのとか百合百合したのはありません。
1.少女の見た騎士
私は貴族の家でお嬢様付きとして働いているメイド。
日々、お嬢様のお世話と、細々とした雑用をしている。
その中でお屋敷の外におつかいや、言付を持っていったり、自由な時間に外を少し出歩いたりがとても楽しかったりする。
国の中は大きく二分されていたりして、危険な事もあるから外では気をつけるようにと言われたけど、たかがメイドにはそんな事はよく分からないし、気に留められることもないだろうと気楽に考えていた。
だって、そうでしょう、たかが一介のメイドごときに騎士様や貴族の方々が注意を払ったりするわけがないだろうし。
けど、私は知らなかった。
白と呼ばれる公爵家と、黒と呼ばれる公爵家との争いが下々にまで影響しているということを。
ある晴れた日の昼下がり。
「それでは、お嬢様お届けに行って来ます」
「ええ、よろしく。
できれば…そうね、お返事も頂いて来て頂戴、時間がかかってもいいわ」
「はい、では失礼します」
お嬢様のお友達への言伝の封書を手に持って、部屋を辞するとエプロンのポケットに封書を入れて屋敷の外へ。
外は青空が広がっていて、とても綺麗で、なんとなくうきうきするような気分でおつかいにと歩き出す。
お屋敷からどのくらい歩いたのか、街の中ほどに来るといつもと違った雰囲気で、何だろうと足を止める。
よく見ると、黒や青の騎士服を来た騎士の方々が歩いていて、それを避けるように街の人たちが戸口の中へと入って行く。
あの色の騎士様たちは黒の公爵様の配下なのかな…なんて思っていたら、すぐ側まで近づいて来ていて、慌てて壁の方にと身を寄せて避けるようにする。
「娘」
え? 私? 私の事? 思わずメイドなんかに声をかけられるなんて思ってなくて、回りの誰かの事かときょろきょろしてしまう。
「娘、お前だ」
「わ、私ですか?」
顔を上げると背の高い大柄な騎士様が立っていて、私を怖そうな顔で見下ろしている。
「お前、どこのメイドだ?」
大柄な騎士様の横にいる少し背の低い(それでも私よりはずっと高い)騎士様がにやにやした顔で私に尋ねる。
「あの……あの、私……」
うまく声が出ない。
なんだか、怖い。
「俺たちはちょっと暇をもてあましていてな、ちょうどいいから来い」
「い、いえっ、私おつかいの途中なので……その……」
「まぁ、いいから」
ぐいっと右手を掴まれて、壁から離されてしまう。
怖い、怖いよぉ……。
「……おい、その辺でやめてやれ」
ふいにかけられた声、透き通るような綺麗な……。
「何だ、お前も混ざるか?」
大柄の騎士様の近くに、白い騎士服に銀の髪をした、男性にしては線の細い、小柄な騎士様が立っていた。
「……綺麗……」
陽に透ける銀の髪が白いお顔にさらりと流れる様子や、印象的な紅い瞳に見惚れて思わず口に出して、その騎士様をじっと見つめてしまっていた。
ぼんやりと騎士様を見つめていて、ふと気付くと大柄な騎士さまたちは小柄な騎士様に手を振って笑いながら歩き去っていた。
あの怖い騎士様たちと仲がいいのかな……?
「あ、あのっ、ありがとうございましたっ!」
とにかくお礼をと口にして、深々とお辞儀をする。
「いや、礼を言われるような事は俺はしてないから」
礼を留めるように右手を上げられて、顔を上げるとやっぱり男性にしては顔立ちが綺麗だなぁと見つめてしまう。
「何、俺の顔に何かついてるかな?」
「……っ、す、すみませんっ!」
あんまりぶしつけに見つめてたのに気付いて、慌てて謝る。
そりゃ、こんな風に穴が開くほど見るのは失礼だよね。
「それじゃ……」
軽く手を上げて歩き出す騎士様にぺこりとお辞儀をして、その背に長く銀の髪が揺れるのを見つめていた。
何だろう、すごく頬が熱くってどきどきする……。
そうして騎士様の姿が見えなくなるまでずっと、その姿を見つめていた。
そんな事があって、おつかいが遅くなってしまい、必然的にお返事を頂くのも遅れてしまいお屋敷に帰る頃には夕方になってしまっていた。
お嬢様は何も言わなかったけど、私の顔を見てなんだか変な顔をなさっていた。