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チャプター 27:エピローグ

 イベント終了後、事後処理に駆けつけた情報省の役人に唯と亮が呼ばれ、菜々達FPS

部の人間は部室待機を命じられていた。前代未聞であり、電脳の安全性を揺るがすほどの

大事件だけに、慎重に対応せざるを得ない事は、菜々も重々承知している。

 しかしながら、身体検査を行っている瑞希に会えない事は、彼女にとってどうにも我慢

ならない事柄である。ガタリと音をたて立ち上がったかと思うと、無言で部室の扉へと歩

いてゆく菜々。

「お、おい! 待機してないとマズイだろう」

「知らん」

 香織の制止も聞かずに、部室の外へ出た菜々は、迷う事無く歩き始める。瑞希は正門前

に停められた健診車の中に居ることは明白であり、すぐにでも会えるよう、目の前で待っ

ておこうと考えた。

「うん? 部員は待機しておけと指示しておいた筈だが?」

 通り過ぎようとした大会議室の扉が開き、菜々を咎めたのは、オリーブ色の制服を纏っ

た役人。

 しかし菜々は、巌のような男に物怖じしなかった。

「瑞希に会いたいんだ。正門であってるだろ? (こう)おじさん」

 胸のプレートには、情報省の職員らしい役職が彫り込まれていた。そして、名前の欄に

は〝巌 鋼〟と印刷されている。

 まるで話を聞かない菜々に慣れているのか、鋼は苦笑した。

「そうだ…………菜々」

 歩き始めた菜々が足を止め振り返ると、微笑した鋼と目が合う。

「よく、瑞希を護ってくれた。この恩は一生忘れない」

 瑞希の素直な性格は父親譲りだったのかと気恥ずかしくなり、踵を返し手だけで応答す

る菜々。

 気持ちが落ち着いてくると、足が徐々に速くなり、遂には走り始め、息を切らせながら

正門へ到着した。

 そこには、窓一つ無い真っ白な塗装を施された大型のバスが停車しており、赤色灯と、

HTMIのロゴマークが描かれている。

 息が落ち着いてきた所で、腕を組み空を眺めていると、背後から油圧のピストンが動く

音が聞こえ、足音と共に瑞希が出てきた。顔は青ざめており、足取りはおぼつかない。慌

てて駆け寄り、手を出しだすと、瑞希は菜々の手をそっと握る。

「ありがとう、菜々ちゃん」

 アスファルトに降りた瑞希と、数瞬見つめあう菜々。何かを言いたいのか、瑞希が息を

吸いながら口を開く。

「私の身体は大丈夫みたい。電脳をロックしてもらって、本社で新しいプログラムに変え

てもらう事になったわ。それまでFPSはできないわね。ううん、その前に、お父さんに

反対されちゃうかも…………菜々ちゃん?」

 菜々は膝を折り、瑞希の胸へ顔を埋めていた。淡いピンクのワンピースが濡れている事

で、菜々は自分が泣いているのだと気が付いた。

「もう、こんな事は…………やめてくれよ」

 震える声で懇願する菜々の頭を、瑞希はそっと撫でた。

「ごめんね。でも、菜々ちゃんなら、菜々ちゃんだからきっと大丈夫だと思ったの」

「勝ってきたよ。試合にも。籠田にも」

 血色の悪さが嘘のように、瑞希は満面の笑みで菜々の頭を抱きしめる。

「やっぱり凄い! 菜々ちゃんは私のヒーローね」

 いつもならば羞恥心によって離れようとする菜々も、今回ばかりは瑞希を強く抱き返す。

 暫くの静寂の後、瑞希がもう一度菜々の髪を梳く。

「本当にありがとう。菜々ちゃんとなら、私、どんな事になっても安心だわ」

 菜々は顔を埋めたまま、頭を左右に動かした。

「あんな思いはもう、二度と……御免だね」




< 完 >

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