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蹴球に集い  作者: 釜揚げ製菓
再びの決意
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入学式

 唯花学園は県内でも有名な女子校……だった。

 

 勉学においては毎年有名大学に多くの生徒を合格させている。スポーツにおいては運動部の大半が、全国大会出場をするほどに功績を残している。文武両道な名門校である。

 

 ……まあ、そんな唯花学園も少子高齢化の波には耐えられず、数年前から男女共学にする話が持ち上がったらしい。

 

 かなり反対があったらしいが、唯花学園のお偉いさんの一人の鶴の声で可決されたらしい。

 

 そして一応、今年から唯花学園は新体制となって、共学の道をたどることになった。僕はその共学化における、初めての男子の一人というわけだ。


「えー、今年から我が学園は男女共学になりましたが……」

 

 体育館の壇上、唯花学園女性理事長が、話を始めた。内容は新入生に対しての激励の言葉と共学化における云々のことだった。

 

 僕はその話に耳を傾けながら、体育館全体を見回した。

 

 真新しい制服を纏う生徒はやはりというかなんというか、女子が多かった。

 

 僕は女子の制服ばかりの中から、僕と同じ制服を着た、男子を探してみた。

 

 A~Eクラスまである中で、各クラスから見つけられた男子は、多くても五人ほどであった。それは僕のクラスであるCクラスも例外ではなく、男子の列には僕の前に一つ席が空いていることを除かなかったとしても、三人しかいなかった。

 

 ……いまさらだけど、やっぱり気まずいなあ。誰に促されたわけでもなく、自分の意志からこの学校に入学すると決めた僕だったが、やはり女子ばかりの環境は精神的にキツいところもありそうだ。

 

 ――けど、これでいい。これだけ男子が少なければ、僕の決意は達成されるはずだ。

 

 春休み、一度破ってしまった「決意」。冤罪を着せられたことよりも、僕はそれに後悔した。

 

 なにか、別に熱中できることを、この三年間で見つけよう。僕は頭の中に浮かんできたものを無理やり消すように、今後送っていく学生生活についてを考えることにした。


「――次に新入生挨拶、佐島凛」


「はい」

 

 聞き知った名前と声に、僕ははっとなって前を見た。偉い人たちの話がひと通り終わり、僕の座る椅子の、ちょうど一つ後ろから、快活な声とともに、立ち上がる音がした。僕の横を通り過ぎ、兵隊のような規範正しい歩きをしながら、壇上に上がる女子生徒を見た。


「みなさん、こんにちは。新入生代表、佐島凛です。本日は……」

 

 中学時代にしていた、度の厚い眼鏡はかけていなく、髪型も地味な三つ編みから流すように長い髪をなびかせていたけど、この声とただずまいはたしかに佐島凛であった。

 

 ……さっきは慌てていて気付かなかったけど、すごいイメチェンだよな。春休みは一度も会わなかった分、新鮮さが増していた。


「……この唯花学園に入学できたことを、私は誇りに思います……」


 立て板に水を流すかのように、スラスラと言葉を紡いでいく凛。凛は手に持った紙にほとんど視線を落としていない。壇上から全体を見回すように、喋っていく。


 すごいな凛……。新入生挨拶をするってことは、一番の成績で合格したってことだろう。この学校に合格するだけでも困難だった僕と比べると天と地ほどの差がある。しかも僕の場合は、温情的な部分が多々あったわけで……。


 などと自分を卑下している内に、凛の挨拶が終わろうとしていた。凛は最後に感謝の言葉を告げて、壇上を去ろうとした。そこに、意外な妨害が現れた。



「すいまっせーーんっ! 遅れましたっ!」



 凛の挨拶が終わり、今まさに拍手をしようとした僕を含めた体育館内に、体育館入口から、男の大声が響いてきた。どこかで聞き覚えのある声だった。


 拍手しようとした手を、生徒のみならず、入学式に出席していた親御さんも止めて、その声のした方向を向いた。


「……嘘?」


 そこには、つい最近出会った、僕に今日「走る」という選択肢を与えることになった、根本的元凶である男が、にかっと笑って立っていた。



「ただいま到着しまし――た!」

 


 それだけ言って彼は並べられたイスの間を走りだした。突如の来訪者の突飛な行動に、体育館内の視線は釘付けだった。


 真ん中辺りまで走っていった彼は、そこで両手を前に突き出した。


「うわっ!」という驚き声がどこからともなくした。僕もその一人だった。

 彼は突き出した両手を床につけると、腕の筋肉をこれほどまでかというくらいに使って、宙返りをしながら、前に跳んだ。体操競技でいう、前転飛びだ。


 現役の体操選手のような綺麗なフォームで跳んだ彼は、足元をおぼつかせることなく見事、着地した。彼は、シュタッと両手を斜めに上げた。彼はちょうど、僕のいる席の近くに立ち止まった。



「………あれ?」



 達成感に満ちた顔で、しばらく立っていた彼。だが周りの反応が自分が思っていたのとは違うとわかり、彼は体育館全体を見回して、引きつった笑いになっていた。



 これが、僕と城島龍時の二度目の出会いであった。


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