第8話 転校生の秘密 part 3
――いつも、私は独りだった。
――私の友達は誰もいなかったし、両親も私のことは少しも気にしていなかった。
――ただ気にしているのは、私に課された使命のことだけだった。
――それが普通だと感じていた。そんな悲しい私が存在していた。
――そんな時、私に救いの手を差し出してくれた人がいた。
「大丈夫……?」
他の誰でもない火野 焔姫だった。
彼女が無口で自分の意思を表に出さない“人形”の私に手をさし伸ばしてくれたから、私は自らに課された使命を全うする気になった。
だけど、その友好的な関係は早くも崩れ去った。
たった一回の会話によって。
「……雪羅ってさ、強いよね」
「えっ」
「なんていうか、アタシにはない強さを持ってる」
「気のせいじゃない? 私はそんな自覚ないよ」
「……ううん、気のせいなんかじゃない。あなたはアタシが持っていない強さを持っている」
この他愛もない会話に触れてはいけない地雷が含まれていたことに、私は気づけなかった。
「ねぇ、教えてよ。どうして、あなたは強いの?」
「……私なんかより焔姫のほうが強いよ。だって演習でも――」
「あんな演習試合のことなんて話してない!!」
いきなり怒号を発する焔姫に、教室内にいた生徒全員がこちらを見てくる。
活発な彼女の容姿からは察することが出来ないぐらい、物静かに授業を受けていたのだ。
そんな彼女がいきなり怒号を出したら、全員が驚くに決まっている。
「ねぇ、教えてよ。どうしたらその強さを手に出来るの!?」
――力への執着。
ここまで強い執着を感じたのは、生まれて初めてだった。
何かを焦っているのか、彼女は私にしがみついてくる。
「…………」
「なんでアタシにはない、その力をアンタみたいな人形が手にしているの!?」
悪気はなかった。
そう信じたいけど、彼女の口から人形という言葉が聞こえた瞬間、私のなかで何かが壊れた。
――私が人形だと、長年一緒にいた友達にも思われていた。
その事実が私を苦しめた。
独り悲しく苦しんだところで意味はなく、それから一年のときが経った。
「……お前が命をかけて護る男を見つけた」
人形のように感情を奥底にしまいこんだ私に届いた話。
長年、探し続けていた【光の使者】を見つけたらしい。
――もう、すべてがどうでもよくなった私は、迷うことなくその仕事を受けた。
友達だと思っていた彼女との仲が、偽りだったことを悟ったからかもしれない。とにかく彼女から逃げようと思っていた。
「……わかりました。では、明日からその学校に行きますね」
「ああ、絶対に悪用しようとするやつらの手に渡すんじゃないぞ」
「はい」
こうして私の物語は始まりを告げたのでした。
◇
「お前も苦労してたんだな……」
本人の口から聞いた壮絶な過去――。
それは俺のなかでの想像を遥かに超え、聞いてはいけなかったと後悔した。
ただ、能力を隠し続けないといけなかっただけの俺とはまるで違った。
「……でも、それがあったからこそわかるんです」
学生寮に向かって歩きながら話していたのだが、その足を急に止める雪羅。
「うん? どうした……」
「あなたが私の使える主でよかったと」
彼女は今まで見ることすらなかった満面の笑みを浮かべて、俺の手を強く握っていた。
手を握られていたせいで、逃げることも出来なかった俺は、その笑顔を至近距離で見てしまった。
「っ!?」
――やばい、これはやばい。
雪羅みたいなクールな女の子の満面の笑みって、ギャップが激しすぎるだろ。
パニックになってしまい、意味不明な言葉を心の中で連発する俺。
口から考えてることが筒抜けになりそうだったが、耐えきった俺の理性に感謝した。
「……昼間っから、アンタ達は何をやってるのよ」
内心、助かったと思いながら、声の正体を探るべく周囲を見回す。
俺達の前に姿を現したのは、なんと――。
「焔姫……?」
「はっ!? なんで、お前がここにいるんだよ」
「昨日ぶりね……」
そこにいたのは、俺達が通っている学校の制服を身に纏っている紅帝学園からの刺客であった火野焔姫だった。
これにて、転校生の秘密は終了です。
はい、まさかの焔姫さん再登場です。
……昨日の今日で早くね。と、本人も思いましたが、そうじゃないと話がつながらないという。
次回の更新はいつになるかわかりませんが、楽しみに待ってくれると嬉しいです。
ではでは~