第6話 転校生の秘密 part 1
「なので、ここの答えはこのように……」
いつもと同じ光景でもある授業時間。
俺は普段と同じ要領で、ずっと目を瞑って必死に寝ようとしていた。
……理解出来ている範囲を授業で受けるのは、ただ窮屈なだけだ。
そのため、授業時間が終わるまで寝ようとしていた。
「こちらで答えようとしていたのだけども、話を聞かずに寝ようとしている御影君に答えてもらおうかな」
寝る気満々だったのだが、音夢先生に当てられてしまったので答えるしかない。
「……はい」
大人しく席を立ち、問いに答える準備をする。
「この問いの答えは何ですか?」
やばい……。
先生の話は全部、聞いてたつもりだったけど、内容がまったくわからない。
「……御影様、答えは1.39127です」
「1.39127です」
後ろの席に座っている雪羅からの助け舟をもらいつつ、先生の質問に答える。
この答えが本当に合っていたのだろう、先生は少し驚いたような表情を浮かべる。
「せ、正解です」
先生の認めるような声が教室に響いたと同時に、クラスメイトからは俺を称える賛辞の歓声が聞こえる。
それを持前のスルースキルを発動させて、歓声全てを無視する。
「……お前、すげぇな」
無視するつもりだったのだが、前の席のやつから直接、話しかけられたので無視出来なかった。
こっち向いてないで大人しく授業を受けていろよ。
そう思ってしまっても仕方ないだろう。
――俺に関わっても利益なんて、一切ないのだから。
異常なモノに、関わっても逆に損しかしない。
「……いや。まあ、偶然だよ偶然」
実際は偶然なんてものではなくて、助けを借りたわけなのだが。
俺だけだったら答えることもで出来ず、おろおろしているか無言を貫き通していたはずだ。こんな難しい問題、わかるわけがないのだから。
……というか、こんなにも答えが長ったらしい問題を出さないでくれますか?
先生の話をまともに聞いていなければ、答えられるかどうかすら怪しいから。授業中、ほとんど寝ると決心している俺からすると、かなりの痛手だ。
「いやいや、これは偶然なんて代物じゃないだろ。あんな長い答えを答えることが出来たんだ」
まぁ、そうなるよねー。
あらかじめ答えを知っていないと答えられないような問題だったし、これがキッカケで俺=天才の式がみんなの中で出来てしまっていたらどうしよう……。
数式の答えを聞かれても答えることが出来ないぞ。
「あははは……」
前の席の男から尊敬するような視線が送られてきたが、実際のところ、俺の実力ではないため苦笑いを浮かべるしか今の俺に方法はなかった。
◇
「……では、今日のところはこの辺で終わりにしておきます。きちんと復習はしておいてくださいね」
チャイムが鳴る前に先生は、自分の教科書や要点を纏めたノートを閉じ授業を終わらせようとしていた。
担任である音夢先生は、授業を早く切り上げる癖がある。だが、彼女の授業はわかりやすく、テンポ良く進めて行くので早めに切り上げても何の問題もないのだ。音夢先生は時間ギリギリまで授業をするのは、どうなのだろう。という生徒からすると、すごく嬉しい思考で授業をしてくれるのでありがたい。
「はぁ……、疲れた」
「お疲れですね。大丈夫ですか?」
教科書などを机の中に直しつつ、俺は溜め息混じりの愚痴を言っていると雪羅が俺の疲れている様子に気づいたのか、体調を伺ってきた。
「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと愚痴を言いたくなっただけだ」
「……そうですか。無理はなさらないでくださいね」
「おう」
紅帝学園からの刺客を退けた辺りから、雪羅の俺に対する態度が変わり始めていた。と言っても、一緒にいる時間なんてたかが知れているが、最初に会ったときよりは主人愛というか、なんと言ったらいいかわからないモノ、それが非常に多くなってる気がする。
最初――初めて教室で会ったときは、口では主と言っていたけども、実際は主と認めていない。そんな感情があった気がする。
でも、今の雪羅にはそんな刺々しさがなく、心から心配されているような気がした。
「……本当にいい女の子だよな。氷室さんは」
雪羅が俺の前から去っていったと同時に、入れ違いで先ほどの男子生徒が話しかけてきた。
「だったら話しかけたらいいんじゃないのか?」
「……いやいや、あんな美人と話したら、おれ、死ねるから」 気楽に話しかけて来ていたので、気づくことはなかった。だが、目の前の男は以外にもシャイなことが今、初めてわかった。
(まぁ、どうでもいい話だが……)
「あ、そういえば自己紹介がまだだったな。……おれの名前は、風宮 嵐だ。よろしくな」
「ああ、よろしく。俺の名前は……」
「それなら知ってるから安心してくれ。お前の名前は御影光輝だろ?」
まさかフルネームを知られているとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。
「知っているならいいや。ま、よろしく頼む」
風宮嵐か……。
今まで指で数えられるほどの人数しか関わってきていないけども、そのなかでもこいつは面白いやつだな。