第3話 宵の明星
“光を自在に操る能力”――。
こう聞けば結局そんなものか。と落胆の声が出てくるだろうが、実際の能力は万能過ぎる。さすが滅多に発現する人材が現れないと言われている程だ。
「……まぁ、計画の一端を知ってすぐに転校した女はいるけどね」
今まで、きちんと喋ったことのない転校生を睨み付けるように厳しい目線を送る襲撃者。
計画の一旦を知ったことで逃げてきたということは、俺の後ろにいる転校生は紅帝学園に俺が狙われている理由を知っているということなのか。
狙われている理由は能力でわかりきっているとはいえ、何のために利用しようとしているのかが気になる俺としては、是非とも計画のことを教えて欲しかった。期待を込めた視線を転校生に送るも無視され続けた。
「そんなの知りませんよ。私の家系は代々、光の使者を護るように言われていますので」
俺をいつでも攻撃から庇えるよう、前に出てきて、戦闘態勢を取る転校生。
こうなる運命だと脳では理解していても、こうなって欲しくないと思っていたのだろう。転校生の態度を見た襲撃者の少女は舌打ちをした後、手のひらに無数の火の玉を出現させた。
「……チッ、めんどくせぇ。夢幻光源を置いて、さっさと退けばいいものを」
「私は御影様の護衛なのです。主を置いて逃げるわけないでしょう」
「ああ、もう。害虫はさっさと消えなっ!!」
無数に現れた火の玉を一つに合わせる少女。さっきの隕石みたいに大きな火球ではないにしても、かなり大きいサイズだ。
(やっぱり、紅帝学園の生徒だな……)
ウチの学校にいる最強クラスの人間と同じぐらいの強さだ。
しかし、紅帝学園の最強クラスと言えば、彼女のことを指すわけではない。おそらく、中堅クラスかそれ以下のクラスになるだろう。俺が知っている情報と今も同じだったなら、紅帝学園の最強は『黒神 朔夜』という名前の少女だったはず。能力は公開されないが、力の序列は学園一位と謎だらけの生徒だ。
「御影様、下がって」
「……あ、ああ」
この学園の平均ランクと紅帝学園のランクの圧倒的な差を身に染みるほど実感した俺は、転校生が言うままに安全地帯へ下がることにした。
所有している能力を発揮しても良いが、異能力の中でも扱い方に最も気を付けなくてはいけない俺の能力はそんな簡単に発現して良いものじゃない。
扱いにミスが生じてしまうと何が起こるかと言えば、その日の体調次第で色々と変わってくる。最悪の場合、一週間程、ずっと意識を失っていたことだってある。
女子に自分を守らせて、素直に後ろに下がる男子。
傍から見れば、これほど屈辱的なものはない。だが、プライドのために命を落とすなんて俺は真っ平ごめんだ。
「……凍りつけ」
冷たい言葉と同時に、転校生は目に見えないなにかを切るかの如く腕を横に一閃。
――それは一瞬のことだった。
目の前にいた俺ですら、何があったのか理解することが出来なかった。
「う、うそだろ……」
俺達に迫ってきていた炎が完膚なきまでに凍り、屋上一面の床や壁などもその被害を直に受けていた。
「な、なんでアタシの魔法が……、アンタの魔法なんかに」
自信満々だった少女は、たった一回……転校生に自分の炎を凍らされただけで折れていた。
最初から勝つ気でいたし、これが防げるわけないと高を括っていたのだろうな。そうなると、自身の能力が防がれると動揺してしまう。
「言ったでしょ。私の目的は御影様を護ることだって」
「それじゃあ、紅帝学園での成績は……」
「そう……。あんな学校で良い成績を取っても意味がないもの。手を抜くに決まってるわ」
一見、真面目に思えた転校生は、実はそこまで真面目でもなく、サバサバとした性格だったようだ。自分の得になることはきっちりと、得にならないことは手を抜くという、損得感情で動く効率的な人間だった。
目的に関わりがないとそれ自体はどうでもいい。そんな気難しい女の子。
当初は感情を表に出さない気難しい女の子なのかな。と思っていたのだが、本当の彼女は合理的で気難しい女の子だったみたいだ。
「……それじゃ、アンタに勝てたから喜んでたアタシって」
「ええ、無意味な歓喜ってやつね」
転校生の無慈悲な台詞を聞き、密かに少女に同情していた俺であった。
「……これに懲りたら、さっさと学校に帰りなさい。それともここで死にたい?」
圧倒的な力の差――。
自分との力の差が大きければ大きいほど、戦いたくない気持ちになる。
勝ち目のない戦いなんて、どうしても戦わないといけない理由がなければしたくない。だが、転校生の圧倒的な力を見たはずの少女は一歩も退くことがなかった。
「……ふざけんじゃないわよ」
逆に転校生の言葉が気に障ったのか、キレた。
「何が手加減してあげてた、よ。そんな理由で私は退くわけにはいかないのよ!!」
俺に向かって放った能力の一部を併用した一種だろうか、自身の体を軸として、超巨大な火球を生み出していた。
既に少女の姿は視界に入らず、火球に飲み込まれていた。
限界がないように広がり続ける火の球。能力者を巻き込む能力。それらを見た瞬間、俺は気付いてしまった。
(この奇怪な能力の発動の仕方……。まさか、能力の暴走か!)
「……御影様、下がってください」
力を暴走させるまで能力を解放するとは思っていなかったのだろう、転校生は焦った様子で俺を下がらせようとする。
『なんで、なんでなんでなんで! 努力もしていないあの子が私より、強いのよ。私は一生懸命、頑張って強くなったのに、どうして……』
ふと耳を澄ませば、襲撃者こと少女の悲痛な声が聞こえてきた。
転校生には聞こえていないことから、これは俺の能力が発動した結果だと思う。これまでも何度かこんな現象は起こっていた。
クラスメイトが落ち込んでたときや、幼馴染が困っていたとき。負の感情が発生しているとき、頻繁に起こった。
「……辛かったんだよな。努力をしている自分が、何もしていない人に負けていることが」
頑張りやな少女の気持ちを少なからず理解出来てしまう俺は、自分の……現在の俺が感じ思っていることを伝えるために自分を庇ってくれている少女の前に出ながら話す。
「御影様っ!?」
護衛対象が先陣切って、危ない場所へと向かって行く。
それをさせないために後方にいろと言ったにも関わらず、護るべき人は前に向かい、護衛する立場である自分を後ろへ押し退けようとする。
この状況で慌てない人がいるのであれば、それは人間でないか、考えることを放棄したロボットか人形だ。
「でもな。だからと言って、制御出来ない力で押しつぶそうとするのは間違ってる。それで勝ったとしても、後に残るのは後悔だけだ!!」
『何も知らないやつが偉そうなことを言うなーーっ!!』
叫ぶように放たれた少女の本音――。
何も知らないやつに説教なんてされたくない。
(……本当にその通りだ。自分を理解していないやつからの説教なんて辛いだけ)
「だけどな、これだけは言わないといけないんだ」
無知な俺からの説教なんて聞きたくないのだろう、
「……お前の世界が、1人や2人で回っていると思ってんじゃねぇ!!」
感情の高揚と相合って、体内に存在する力が増幅される。
――創造するのは、たった一人の少女を救うための武器。
「世界には、お前のことを理解してくれるやつもいる」
――悲しみにくれている少女を護る楯。
「だから、勝手に嘆いているんじゃねぇ!! 【アイギス】」
何者も寄せ付けない伝説の楯――アイギス。
手にしてみると、一層、伝説の武器であることがわかる。いかなる邪悪なものも寄せ付けないオーラを纏っていた。
その楯を用いて、少女の想いが篭もった攻撃を受け止める。
『う、うそでしょう!?』
「くっ……」
膨大な力を楯一つで受け止めているので、神経が擦り減り、手に力が入らなくなっていくのがわかる。
『な、なんで、そこまで……』
「……決まってんだろ」
男がここまで必死になる理由なんて、一つしかねぇよ。
「お前を理解してくれる人がいないって言うのであれば、俺がお前を理解してやる!!」
目の前で苦しそうにしている少女。
彼女を助けたい、たったそれだけの話。
そんな小さな理由で男は、こんなにも必死になれるんだ。
精一杯の感情を込めた言葉を放ったと同時に、意識が飛んだ。




