プロローグ
長らく更新を停止していましたが、物語の流れを一新した『らいと☆ふぁんたじー』をお送りすることにしました。
「はぁはぁ……」
月や星々が煌く広大な空を隠すように分厚い雲が覆い、唯一の光源が閉ざされた漆黒の闇。
街灯なども何もない暗闇をただひたすらに走る青年がいた。
何者かから逃げるように頻りに後ろを確認し、恐怖に慄く表情を浮かべ、息を切らしていることを物ともせず。足が棒のようになりながらもずっと足を動かしていた。
「どこへ行くつもり?」
そんな青年を追いかけるように一人の少女が歩みを始めていた。
まるで闇を掌握しているかの如く、手に闇を纏わせ、獲物を目の当たりにした肉食獣のような眼差しで青年を視界にずっと捉えている。
「どこまで行っても逃がさないよ。あなたを殺すことが私の役目だから」
「くそっ」
少女の視界から逃れるために逃げ込んだ路地裏。
しかし、青年の逃げ道はそこには存在しなかった。あるのは非情にも登ることが不可能な真っ平らな壁のみ。
攀じ登るにしても時間が掛かり過ぎる。と考えた青年は、一か八かとばかりに追っ手に一泡吹かせてやろうと腰に付けていた護衛用のナイフを手にし、少女が現れるのを待った。
「……すぅ、はぁ」
殺される前に相手を殺す。
自分が生き残るためには少女を殺すしかない。そう結論を出した青年の覚悟は、大きなものだった。殺人の罪を犯してでも、生き残りたい。覚悟した者の力はとてつもないものだ。
カツンカツンと、深夜の路地裏に綺麗な足音が響き渡る。
その音の正体が自分を追っている少女のものだ。直感的にそう思った青年は真剣な表情を浮かべ、敵が来るのを今か今かと待ち望んだ。
「どこへ行ったの? 逃げても無駄だよ」
段々と音が近づいて来る――。
一つずつ曲がり道を丁寧に確認しているのか、少女が青年の付近まで来るには多大な時間を要した。
「後は、ここかな」
最後の曲がり角。
そこは青年が隠れている場所とまったく同じ場所だ。
残る場所がここしかない以上、覚悟を決めるしかない。そう考えた青年の腕に掛かる力は今までの倍に近かった。
命を狩るか狩られるか。まさに生き残り戦。
青年の手のひらに握られた一本のナイフに掛かる握力と、それを握る手の汗は尋常ではないだろう。
「来るなら来い。返り討ちにしてやる」
歩みを再開した合図である足音を頼りに、青年は飛び出す瞬間を計った。
最初の一撃が当たらなければ、ナイフの攻撃によって怯んだ隙を狙って逃げてやる。攻撃が成功しても、失敗しても生き残れる。そう高を括って……。
だが、青年の予想通りに事は進まなかった。
「えっ……」
不意に感じた異物感。
青年は腹の辺りに違和感を感じて、周囲に張り巡らせていた気を消散させた。
次に異物感を感じた自身の腹を目の当たりにして、青年は驚愕した。
「うそ、だろ」
(いったいどこから……)
青年の腹には一本の剣が刺さっていた。
刃も柄も何もかもが真っ黒で染められている漆黒の剣。刃先から柄に掛けて、赤い水が滴っている悪魔のような武器。
自分の命を奪う刃物を視界に入れた青年は、短かった人生を酷く悔やんだ。どうしてこうなってしまったのか。何故、自分が狙われなければいけなかったのか。
「さようなら」
いつの間にか青年の前に現れた少女。
彼女は素早く青年に刺さっている剣の柄の部分を持ち、一瞬で消し去った。まるで元から何もなかったかのように消えた剣。
本当は全部夢じゃないのか。そう心の隅で思った青年だが、自分に襲い掛かっていた痛みなどは決して嘘偽りではない。
「……お前の、能力はいったい」
自分を襲った犯人の摩訶不思議な力の正体だけでも掴もうと最後の気力を絞って、少女の能力を聞いて他に教えようと必死で喰らい付く青年。
体は既に伏し、視界も定まってはいない。けれども、ここで何も成せずまま死ぬのはごめんだと、青年は精魂尽きるまで倒れなかった。
「まだ生きてたのね。まぁ、いいわ。冥土の土産に教えてあげる」
そんな青年の姿を見て、哀れみを持ったのか少女は泰然として話す。
「私の能力は……」
少女の口より発せられた能力を聞いた青年は、閉じかけていた瞳を盛大に開け、呆然としていた。
「なん……だと」
「お喋りが過ぎたわね。それじゃあ、今度こそ倒れてね」
高々と振り上げた手に無限の闇が集中し、剣の形へと創造されていった。
(やっぱり。そういうことなのかよ……)
容赦なく自身を壊す気だと悟った青年。
既に四肢に力は一切入らず、打つ手が何もない。これが年貢の納め時って奴なのかな。と青年は静かに息を引き取った。
自分が死ぬことで悲しむ人間が、どうか裏の事情に巻き込まれることなく平和な生活を送れますようにと願いを込めて。
皆様の反応を確認するためのものですので、続きを書くかどうかは未定です。
以上、加那 翔からのご報告でした。




