第20話 目的と共同戦線
(だいたい……、なんで俺だけが呼ばれるんだよ。屋上を壊した事件だって、雪羅やら焔姫も関わっているだろ)
心の中でずっと愚痴っていると、あっという間に校長室の前まで来てしまった。
そういえばうちの校長って女性だったよな……。
別に関係あるのかって話になると思うが、まぁ、そういう話が今までなかったのでちょっと思い返してみた。
今の今まで校長室に入ったことは一回もないので、軽く緊張しながらドアをノックする。
コンコンコンッ
『はい、御影君ですか?』
「……そうです。入ってもよろしいでしょうか?」
『ええ、どうぞ』
「失礼します」
ドアをゆっくりと開き校長室の中へ歩みを進める。
そして目を開けた瞬間、俺は表情を隠し切ることが出来ずに驚愕の表情を浮かべてしまう。
「……な、なんでアンタがここにいるんだよ」
この学校の長が校長室にいることはわかっていた。
それが自然の理だし、いなければ逆におかしい。
俺はその校長を見て驚いたわけではない。さっき言った通り、いることは予想出来ていた。なら、校長関係で驚くことはない。
驚いた原因は校長と一緒にいた、もう一人の姿を見たからだ。
「ふふっ。やっぱりそんな反応をされるのね」
そいつはつい昨日、辞めていったやつとそっくり……ドッペルゲンガー、生まれ変わりと言ってもいいぐらい類似していた。
「でも、あなたとは初対面のはずなんだけどな。御影光輝君」
「初対面……」
ってことは、俺を狙ってきた加賀美とは違うってことなのか。
頭の中ではそう理解していても、体はついてこなかった。
どちらかと言えば、加賀美というより黒神のほうがバカ強かったからかも知れない。地味に体の震えが止まらない。
これがトラウマ――恐怖ってやつなのかも知れない。
圧倒的戦力差ってやつを感じてしまったら、恐怖で体が竦んでしまうってことはかなりあることだ。
俺の能力がかなりチートと言っても、黒神の能力もかなりチートだ。
あまりこの力を好んで使おうとしてない俺と力を出し惜しみせずに使いまくってる黒神の間に差がありすぎるのはわかってる。
だけど、この言葉だけで説明出来る差ではなかったことはたしかだ。
「初めまして、私の名前は加賀美 奏。加賀美 音夢の姉です」
「……あの加賀美の姉?」
「ええ、昨日この学校をやめていった音夢の、ね」
それはわかっているんだが。
あの加賀美に姉がいたということに俺は驚いている。
「……校長。これからの口調はいつもの自分に戻りますがいいですか? 敬語で話しきれる自信がないので」
「別にいいわよ。ここにはわたしとあなた、それに奏先生しかいないから」
ありがとうございます。と小さな声で言ってから、俺はいつもの俺を出していく。
こいつらに言っておきたい言葉が何個かあるんだ。それに聞いておきたい問題もな。
「……アンタの目的はなんなんだ?」
視線を校長から加賀美に変え、問いかける。
「私の目的ねぇ」
こいつの目的がわからない以上、本当に信用していいのか疑ってかかるべきなのかがわからない。
俺は疑ってかかるのがめんどくさいから、最初の段階から白黒つけておきたい。
怪しいと思って関わっていても裏切られたときのショックは計り知れないものだから……。
「強いていうのであれば、妹の暴走を止めることね」
「妹の暴走を止める?」
「ええ……。あの子は、いつからか曲がってしまったのよ」
加賀美音夢がかつては普通の人だったと。
とある事件がキッカケであんなにねじれ曲がった性格になってしまったんだな。
「それは信じてもいいのか……?」
「はい。私には妹を止めるという使命しかありませんから、冷たい話ですが、夢幻光源がどうなろうと知ったこっちゃありませんし」
そんなことを言われると、逆に信用出来るな。
雪羅達みたいなやつらが信用出来ないわけじゃないが、こんな風に容赦なく切り捨てるタイプの人間のほうが信用出来るってもんだ。
自分にはこんな目的があるので、その目的を達するためなら他の何を捨ててもいいってやつだ。そっちのが無条件で協力してくれる人より信用出来るって話もザラにあるだろう。
「……なら、信用しよう。これからよろしくな」
◇
「……ってな感じの話があったんだよ」
「へぇ、ってことは光輝はどんな人がオレらの担任になるか知ってるのか」
「ああ。そうだな」
「……どんな人が担任なんだ? 美人な人か」
なんで一番最初に美人って言葉が出てくるんだよ……。
単純すぎる男の脳内ってやつがわかってしまった気分になり、ちょっと凹む俺であった。
基本、男は単純かつ幼稚って言うけどさ。ここまで単細胞すぎるとね、俺もこんな感じなのかなって思ってしまいかなり凹む。
どっかで聞いたことがある話だが、男と女では精神的に5歳の差があるんだったかな。
俺も詳しくは聞いてなかったが、そんな感じの話をしていたのは知っている。
「あー、まぁ、美人な方に入るんじゃないか」
仮にも人気だった音夢先生の姉なんだからさ。
人気な担任が美人じゃないって言うのであれば、それは優しいか授業がわかりやすい先生ってことになるだろうが。
あの先生は対して授業が面白かったわけでも、優しかったわけでもないからな。
「なんだよ、その言い方……」
「べっつに」
あー、いや、優しかったに入るのかな……。
どうせ俺に取り入るために取り繕った優しい外面だろうな。
「おーい、そろそろ自分の席につけよ。新しい担当の先生を紹介すっぞ」
ちょうどいいタイミングで副担任でもあった特徴のない男性教師が入ってきた。
たしか名前が……、九條 欅だったかな。
得意な魔法属性が風と水で、不得意な魔法属性が雷だったかな。
ちなみにこれは俺の俺による個人的情報ツールを使ったわけでも、俺に協力してくれている特別な諜報員的存在から教えられたわけでもない。本人が勝手に言ってくれただけだ。
俺らは何も聞いていないし質問なんて一言もしていない。
「ほらほら、席につけーー! 美人な教師の登場なんだから、さっさと席につけ」
いつもより張り切った様子の欅先生。
普段はジャージ姿や軽装が多いってのに、今回にいたってはきちんと決めてきたようなスーツ姿だった。
それだけでいつも以上に気合を入れてきているのはわかる。
つーか、この人は今から来る担任の顔を知っているんだよな。その人の顔を見て何も思わなかったのか。いままで担当していた教師とまったく同じ顔なんだぞ、ちょっとぐらい異変を感じたりしないのか。
いや、異変は感じているが別に言っていないということなのかな。
「……アンタらは絶対に美人って言葉に釣られてるだけだぞ」
周囲の人に気づかれないように小さな声で呟く。
「では、新しくボク達の担当をしてくださる先生の紹介をさせていただきましょう。入ってきてください」
『失礼します』
九條先生の言葉を聞いてから、廊下のほうで綺麗かつ繊細な女性の声が聞こえた。
事前に呼び出しを受けている俺からすると、誰が入ってくるかわかっているため驚くことはなかったが……。
このことについてあまり知らない人達にとっては衝撃が走ったことだろう。
なにせ……。
「この声、音夢先生?」
「えっ、でも、音夢先生は家の事情で先生をやめたんじゃ……」
そう、加賀美音夢の姉ということもあってか。
彼女の声は加賀美音夢とまったく一緒の声域なのだ。そのせいで彼女と錯覚した人は何人いるのだろうか。
「光輝様っ!!」
クラスメイトのように加賀美音夢の声と思った雪羅達が、俺の名前を大声で言いながら警戒態勢をとろうとする。
このことについて知っている人は、ごく少ない限られた人物だけだ。
たぶん、俺と雪羅と焔姫。それに風宮……じゃなくて嵐ぐらいだろう。
雪羅に至っては俺の前まで来て、能力が半ば発動しているのか肌寒いような気がしてきた。
「……雪羅。大丈夫だ」
「し、しかし……」
「彼女は味方だよ」
最後まで渋った雪羅であったが、俺の言葉を信用して能力を解除してくれた。
雪羅の殺気の断片を受けたクラスメイト達は驚きに顔を顰める。急に雪羅の殺気がやばくなったのだ。最近、ずっと事件ばっかりの俺らだが、殺気なんて滅多に浴びるものではないだろう。
そんな雪羅の殺気やらを受けたはずの加賀美は、さっきまでと変わる様子なく普通に入ってのんびりとしていた。
「――初めまして。加賀美音夢の姉であります、加賀美 奏です」
「あの加賀美の姉だと……」
「――あの人に姉なんていたの」
まぁ、そんなことわからないな。
それに加賀美姉妹は完全に双子っていうほど似ているが、なんかちょっと違和感を感じ取ってしまうんだ。
光なんていう大層な能力を持ってるからかも知れないけど、な。
「水代、クラスのことはお前のほうがよく知ってるだろうから、あとで奏先生に教えてやってくれ」
「わかりました」
新任となった加賀美先生が困ったときの助っ人として、クラス委員長でもあり、俺らは何度もお世話になった水代 杏が指名されていた。
クラス代表だし、まとめ役としての能力も持っている。まさに完璧な人だ。
だからこそ、先生は彼女を指名したのだろう。
「……それじゃあ、新しく担任となった奏先生。一言お願いします」
「え、と。そうですね――」
九條先生による無茶振りのコーナー。最初はこんな予定はなかったのか、聞いていなかったのかわからないが、加賀美先生はテンパっていた。
行動が制限されているような予定されたメニューだと面白くないことが多くあるが、こういうときぐらいは予定通りの動きをしようよ。
まぁ、俺はこっちのほうが楽しいからあんまり言える立場じゃないけどな。
「とりあえずこの場にいる特定の人に宣言しておきますが……。私はあなた達の敵でも、味方でもありませんので。私には私の目的がありますから、共同戦線程度に思っていてください」
事前に聞かされている俺と違って、雪羅達はこれが始めてだ。
特定の人達に宣言という言葉に反応した雪羅・焔姫・嵐の三人だった。
――改めて言うが、上等だ。それぐらいじゃないと、やってらんないよ。




