第18話 穏やかな日常
※3月30日
無限光源から夢幻光源へと改正しました。
「……ふわぁ、もう朝か」
加賀美が起こした事件の翌日――。
小鳥の囀りにより起きるという穏やかな朝を迎えていた。
昨日、命の危険があったとは思えないほどだ。
「……おはようございます。御影様」
「…………」
ベッドから起きようとした瞬間だったのだが、とある声を聞いた途端、電池が切れてしまったロボットのように俺の動きは完全に止まった。
そして俺は、壊れたブリキ人形のようにじわじわと顔を動かしていく。
「今日もいい朝ですね」
「……あ、ああ。そうだな」
そこにいたのは、いい意味で明るくなった雪羅だった。
いい意味で明るくなった。と言われても意味がわからないと思う。言った俺ですらあまりわかっていない。だけど、今の雪羅の明るさが容姿と合って良いって感じかな。よくわからないけど。自分のことなのによくわかっていない。
「……朝食は作ってありますので」
えっと……、言いたいことは色々とあるんだけど、まずは……。
「なんで俺の部屋に勝手にあがってるんだーー!!」
朝っぱらから、学生寮全体に俺の大声が響き渡る。
「……ん? 風宮から許可を得たからですが」
「あいつ……。ぜってぇ、面白がって言ったんだろ」
顔を合わせた直後、速攻で殴ってやる。
あいつが泣いても殴るのはやめないけどな。絶対に!
「……まぁ、それはそうと。せっかく作ったのですから、いただいてくださいませんか?」
「あ、ああ。そうだな」
風宮への怒りのせいで、我を忘れるところだったよ。
まぁ、せっかく作ってくれたんだ、いただくとするか。
――雪羅も良いところの出なんだ。一般の人から言うのであれば、上流家系ってところかな。そんなお嬢様である雪羅が俺のために作ってくれたんだ。
こんな美味しい思いは、絶対に受けなければな。
(あれ……。そういえば雪羅の料理の腕って聞いたことないけど、上手いのかな?)
仮にもお嬢様学校に通っていたんだ。
学校だけじゃない家柄も良いみたいだから、もしかしたら料理なんてしたことがなかったり。
「どうぞ、御影様」
俺が食卓につくと同時に、寝てる間に作っていたらしき料理を持ってくる。
香ばしい香りを漂わせてる鮭の塩焼き、それに豆腐、ネギ、わかめなどの食材が入っている味噌汁。両方とも、俺も作ったことのある簡単な料理だけど、俺のときとは完全に違っていて、これは本当に同じものなのかと目を疑うほどだ。
「すげぇ、上手そう! これ、本当にお前が作ったのか?」
「……はい。腕によりをかけて作らせていただきました。お口に合うかどうかはわかりませんが」
いやいや、ここまで上手そうな見た目なんだから、絶対に美味しいだろ。と言おうとしたのだが、知り合いに見た目はいいのだが、味が極端にまずい料理を作り出す天才がいるので口を紡ぐ。
「そうだな。それじゃ、食べてみるか」
――いただきます。
そう言って、まず箸をつけたのは鮭の塩焼きだ。
「……っ」
「……どうでしょうか?」
口に入れた直後、まったく喋らなくなった俺が気がかりだったのか心配して聞いてくる。
「超、うめぇ!! 何これ、俺が作った鮭の塩焼きとまったく違うんだけど」
「ふふっ、お口に合ったみたいでよかったです」
この様子だと味噌汁も美味しいんだろうな。
口の中の物がなくなった直後、味噌汁を口の中に入れるが、やはりこれも同じでとても美味しかった。
自分の作った料理よりも美味しかったので、すぐに平らげてしまった。
「……ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
食べ終わった食器を洗いに行こうと席を立ち上がったのだが、食器を雪羅に持っていかれる。
「いや、食器ぐらい……」
「いけません。あなたは無茶をしようとするクセがあるのですから」
どうやら雪羅は、俺を間違って捉えてしまったらしい。
「その捉え方は間違ってるぞ。俺は――」
「……自分が力を出すに値するときだけ頑張るんですよね?」
「そうだ」
「つまり、自分が力を出すに値するときは無茶をするんですね? 昨日みたいに」
微笑を浮かべながら言ってくる雪羅に俺は何も返すことが出来なかった。
いや、反論を言うことが出来なかったのだ。
雪羅の言っている言葉が間違っていたりしたら、反論を言うことは出来る。
だけど、見事なまでに合ってしまっているため何ともいえない。
「あはははは……。それにしても、よくこんな美味しい料理を作れるな」
「……話を逸らしましたね」
的確なツッコミをいれてくる雪羅を無視し、聞きたかった質問をする。
「今度、作り方を教えてくれよ。これは絶対、俺と違う調味料を使ってるだろ?」
「……何故、違う調味料を使っていると?」
「材料はほとんど同じ。ちょっと違うのはネギを入れるか入れないかの小さな差だけ。なのに、こんなにも味が違う。なら、この味の秘密は調味料なのかなってさ」
鮭の塩焼きにいたっては、調味料なんて滅多に使わないはずだ。
なのに、あんなにも味が出ていた。それが意味するのは調味料に秘密があるっていう意味かなってな。
「なるほど……。まぁ、違うと思われる調味料は入れていますね」
「あ、サンキュー。……で、その調味料って」
食後のお茶を出してくれた雪羅にお礼を言い、温かいうちに飲み始める。
まだ季節は春だけど……、食後のお茶はやっぱり温かいお茶だよな。
「……愛情ですよ」
「ぶふっ!!」
雪羅の口から聞けると思わなかった意外な言葉が出てきたことにより、思わず吹き出してしまう。
「げほげほっ」
「……成功です」
咽る俺の近くで俺が吹き出してしまったお茶を布巾で拭く雪羅。
嫌々そうに拭いているのではなく、まるで最初から予想していましたよ。みたいな雰囲気を纏っていた。……というか、悪戯が成功したときのような笑顔が消えていない。
「お前なぁ……」
呆れるような俺の呟きを聞きつつも、雪羅は笑顔を絶やすことがなかった。
――でも、まぁ、こんな日常がいいのかもな。
◇
同時刻――。
紅帝学園会議室。
光輝こと【夢幻光源】のちからを我が物にしようとしていた紅帝学園理事長を長とし、次の作戦のための会議が決行されていた。
「……では、そういうことでよろしいでしょうか?」
会議をずっとやっていたためか、ずるっと落ちてきた眼鏡をあげていた一人の女性教師が言う。彼女がこの会議の取り決め役なのか、まとめに徹していた。
かなりの実力が伴っているからこそ、彼女の言葉に周りの人が反論する空気でもなかった。
「自分はそれでいいと思いますね」
「それで行きましょうか。今回の失敗のせいであちら側の人間に警戒されちゃいましたからね。ちょっと時間を空けるぐらいがちょうどいいでしょう」
会議に出席してる人の半数以上が賛成とし、会議を終えようとしたとき、とある声が聞こえた。
「……別に反論じゃないけど。敵側に力をつけられたらどうするんだ?」
男勝りな一人の女性の言葉によって終了間近となっていた会議だったが、再びスタート地点に戻った。
続々と賛成をしていた人達もそのことを頭に入れてなかったのか、頭を悩ましていた。
「仮にも敵は異常魔法使い者なんだろ? こっちにも朔夜ちゃんがいるけど、無限光源のほうが無限の可能性ってやつがあるんでしょ?」
無限の可能性を秘めている光の力。
今の彼の力は極一部で、鍛えればさらに力が増すと考えた。
故に無限の可能性という光を持つ源――【夢幻光源】。
「……その通りよ。加賀美曰く、彼女の力はもう進化されているから、これ以上進化することはない。だけども、今の状態でも彼女は無限光源を圧倒できるわ」
その間に新しい作戦を思いついてくれれば……。と、眼鏡をかけた女性は、出席している全員の顔を見ながら呟いた。
それはまるで仲間を頼っているような表情だった。
「はぁ……。そこまで期待されちゃあ仕方ない。あちらにバレない程度に罠を仕掛けておくぜ」
これ以上、話をしても意味がないと察知したのだろう。
男勝りな女性は、頭を掻きながら会議室から出て行く。
「ええ、お願いします」
「……まぁ、これで釣れるかどうかは夢幻光源次第なんだけどな」
会議室から出た女性は、自分の放った言葉に苦笑しつつ虚空へと話しかけていた。




