第17話 最強対最凶
「マザー、迎えにきましたよ」
「……黒神朔夜」
完全にしてやったと思っていた俺達だったが、たった一人の少女の乱入によって状況が
極端に変わってしまった。
俺とは対の翼をたなびかせ、屋上の一端に降り立つ黒神朔夜。
たったそれだけの仕草なのだが、持ち主が恐怖の象徴みたいなモノなので怖い。
「やっと来たわね、だいぶ前に要請は出していたはずだけど」
「……すみません、マザー。ちょっと邪魔が入りまして」
(邪魔が入った……、それにマザーってどういうことだ)
自分よりも遥かに強い能力の持ち主がいるため無闇に構えを解くのは危険だが、思考回路まで止めるのは俺には出来ないことだった。
――戦闘中に無駄なことを考えているやつからやられていく。
ゲームや漫画でよくあるシーンの一つだけど、これほどまでに痛感したことはなかった。
目の前にいる少女から痛いぐらい強い気を感じる。こいつと戦っても確実に負ける。最初から希望のない戦いを挑むようなものだった。
「へぇ、朔夜でも苦戦するようなやつなんているのね」
「…………」
「まぁ、いいわ。私に近づけないように足止めお願いね」
「……わかりました。ですが、マザー」
黒神の絶対零度を言葉で表したかのような声。
どんな命令でも上からの命令なら絶対主義。無慈悲な少女の了承の声を聞いた途端、背筋に急激な寒気が走る。雪羅が魔法を使ったわけではない。むしろ使って欲しいぐらいだが、あいにくと魔力が足りないため不可能だ。
よくわからない寒気の意味を考える俺だが、その寒気は刻一刻と進んで行くごとに激しさを増していく。
「ん? 何かしら」
「……べつに倒してしまっても構いませんよね」
こいつは最初から足止めなんてするつもりじゃねぇ。俺達全員を皆殺しにするつもりだ。
俺達の中で最初に狙われるとしたら……。
「雪羅っ!!」
直後、ガキンッという鉄と鉄が接触した音が屋上に響く。
「御影様……!?」
「ふぅ、あっぶねぇ。間一髪ってとこか」
俺の予想通り、黒神は手始めに雪羅を殺そうとしていた。
普段は強力なやつだけど、今は魔力が切れて戦いに参加できない。
そんなやつが戦場にいれば最初に狙うのは常識だ。弱いやつだったとしても、魔力があれば重傷まではいかないけど、一矢報いることは可能。つまり魔力があれば強くなることもある。魔力が切れたやつは弱いということなのだろうな。
「倒すのはいいけども……。殺すのは無限光源以外の人にして頂戴ね。私まであの方にどやされるのは勘弁よ」
「……了解しました」
(――なるほど、俺は絶対に殺されないわけね)
そりゃあそっか……、こいつらの目的は俺自身の能力なのだから。
俺を殺しては意味がなくなるからな。俺が殺されないのは当然か。だけど、だからと言って、はいそうですか。と言って引き下がってるわけにはいかねぇんだ。
「風宮、焔姫。お前らは雪羅と同じ場所にいてくれ」
「……わかったわ」
焔姫は黒神が格の違う人種だということを重々承知しているのだろう。あるいはせっかく仲直りした雪羅のためかわからないが、すんなりと引いてくれた。
だが、家族の仇というのもあるのだろう。風宮は引いてくれなさそうだった。
「いや、俺にも――」
「ダメだ。……こいつは俺が倒す」
本当は風宮に任せて、家族の仇を取らせてやりたい。家族を殺された怨みは相手を殺すしか発散する手立てはない。相手を殺すと目的は達成されるが、後に待つのは虚しさだけ。
仇を取れなかった場合、残るのは怨み辛みのみ。どちらにせよ残るのは負の感情だ。
「……私に勝つつもりなのね」
絶対的自信――。
自分の力が名実共に最強であると自認しているだろう、万に一つも負けるかもしれないということは考えていなさそうだ。
それが出来るのは言動と一致するような力を持っている強者か、自己心頭している愚か者だけだ。彼女が当てはまるのは後者ではなく、前者。
俺らからすると限りなく勝ち目のない戦い。
(だけどな……)
「そんなこと、誰がやらせるかよ」
黒神の前に立ちふさがり、エクスカリバーを手に創り出す。
いくら強大な敵と立ち向かうことになろうと。
「自分の生き方は変えねぇって決めてんだ!!」
「……そんな重い生き方をしてると後悔しますよ」
俺の宣言を聞いた黒神は、誰かを思いやるような口調で言ってくる。
昔、そんなやつと会ったことがあるのだろう。と俺の中で勝手に決めつけ、話を進める。
「知ってるさ。だけど――」
持ち前の翼を使った高速移動を使い、黒神の直前まで向かい一閃。
さすがに自分と同じ移動方法を取るので、剣筋は見切られ避けられる。
「……やらずに後悔より、やって後悔のほうがましだ」
「そうですか……。では、私もやって後悔しましょうか」
苦々しく紡ぎだす言葉。
――やっぱり、こいつは。
「お前は今でも、やって後悔してることがあるだろ……」
「…………」
「……黒神、お前は今でも風宮の家族を殺したことを後悔してる。違うか!?」
これは俺の勝手な解釈だが、こいつはどうしても風宮の家族を殺さなくてはいけない状況に陥った。だから仕方なく殺していった。そこでついたあだ名が紅帝学園の命令通りに動く人形。
――だから、風宮が俺が戦うと言い出したとき、なんとも表現し難い表情になっていたんだ。
「……何、言ってんだ?」
勝手な妄想話を聞いた風宮は、ふらふらとおぼつかない足取りで俺の元まで歩いてくる。
「風宮……」
「こいつは俺の両親を……妹を皆殺しにしたんだぞ!! そんな非道なやつに、そんな心あるわけねぇだろ!!」
「違う!! お前は人の内面を見ようとしてないからだ」
「人の内面なんて見てどうするよ。人なんてみんなそんなもんだろうが……命令通りに動く人形ならなおさら」
「テメェ……」
風宮をつれてきたのは俺の間違いだったか。
家族を皆殺しにしたやつが目の前にいるんだ、そりゃあ感情がコントロールできなくなるよな。けど、だからと言って、人を人形呼ばわりするのはいただけない。
「……あー、そういうことか。結局、アンタも異常者ってわけか。自分と同等の力を持つ化け物同士、仲良くしたいのか」
「…………」
化け物……か。
普段から自覚はしていたけども、言われるとかなりショックは受けるものだな。
「風宮……!! アンタ」
「――焔姫、やめておけ。今のこいつに何を言っても無駄だ」
いかにも怒り心頭中の焔姫に俺は注意する。この状況がずっと続けば、こいつは間違いなく力を発揮するだろう。
そんなことされたら、俺が困る。
「……ははは。やっぱりこんなもんなのさ」
俺達の言動の一部始終を聞いていたのだろう加賀美は、呆れ半分の口調で呟く。
「力があれば化け物呼ばわり、力がなければ弱者呼ばわり。この世界は、理不尽でしょ? だからこそ、私達はこの世界を作り変えるわ。皆が均等に生きれる世界に……」
確かに……、この世界は理不尽だ。
悪行をしていないにも関わらず、悲惨な目に遭うことなんて日常茶飯事だ。
「さぁ、無限光源。私の手をとりなさい。……そうすれば、いやな思い一つしないわ」
「…………」
一歩一歩と加賀美に向かって歩き出していく俺。
「だ、だめです。御影様!!」
「そいつらはアンタの力を狙って嘘をついてるだけだ」
歩き出していた俺に向かって雪羅と焔姫の二人は必死で止めようと声をかける。
(……そんなことは知っているさ)
「どいつもこいつもうるせぇんだよ」
心からの叫び。
「……やれ、黒神に勝てる可能性のあるやつは俺だ。家族の仇をとらねぇとやってられねぇだ? ふざけんじゃねぇよ、強者と戦いたくないだけじゃねぇかよ。家族の仇……? んなもん知るか」
ずっと心に残っていた黒い感情。
「お前らの言う通り――世界は理不尽だ。何でもかんでも力の強いやつに任せてくる」
「……だったら」
「だけどな、それはアンタらにも言えることだよな。黒神朔夜をこき使って、挙句の果てには俺にいやな思いはさせないだ? ふざけんじゃねぇよ。黒神を使いまくってるお前らに言われても、いい思い一つしねぇよ。それに……」
平和の使者は槍を持たないもんだ。
そういった瞬間、心当たりがあるのだろう加賀美は顔を歪ませる。
「……俺を平和的に連れて行こうとするなら、武器一つ持たずに俺と会うこったな」
エクスカリバーを高く振り上げ、大気中に無数に存在している魔力を集める。
「じゃ、交渉決裂ってことで」
「……朔夜!!」
「まとめて消えろーーっ!!」
目の前にいる黒神に加賀美や、俺の中に存在する仲間への暗い感情。
それら全てをこの世から消し去りたくて、全力で破壊し続ける。それら全ての理を。




