第15話 本気の本気
「……あらら、バレちゃったのね」
何も知らない生徒達は何不自由なく満喫した放課後を送っていた。
部活に入っている人達は部活へ行き、帰宅部の人は家に帰ったり学生寮に帰っているころ。俺は屋上で加賀美音夢を問い詰めていた。
「答えろ。なんで紅帝学園に情報をリークしたんだ」
俺の力を紅帝学園にバラしたのは間違いなく、この人だ。そうとしか考えられない。
最初から気づくべきだったのだ……。
焔姫がこの学校に来た理由の段階でおかしなことにな。
――元から俺は、生徒の前では使っていなかった。だけど、一度だけ失敗してしまって力を使った覚えがある。
その事件が俺の力により解決した直後、あの人が現場にいて俺に話しかけてきたのだ。
『……異常魔法の存在って信じる?』と。
あの時の俺は、事件のことでイラついていたので気づけなかった。だけど、冷静に考えてみれば、事件で能力を使った直後、そんなことを聞いてくる時点でおかしかったのだ。
「……そんなの簡単な話よ。あなただって本当はわかってるんじゃないかしら」
「じゃあ、アンタは本心でこんなことをしてるってことだな?」
紅帝学園に脅迫されているから俺の情報を流したとかじゃなくて、本心から紅帝学園に仕えていて本当に俺達を裏切ったってことかよ。
「……そうか。なら、手加減はしない」
憎しみや悲しみや怒りといった感情をすべて雷に変える。
雷は俺の気持ちに応えるかのように、俺の体を纏っていく。
「へぇ、手加減しないねぇ。やれるもんならやってみなさいよ。もう、私の術中にはまってるあなたに出来るものならね」
加賀美が言い終えた直後、俺の体が急に崩れ始めた。
全身に力を入れることが出来なくなったのだ。
それにより纏っていた雷は拡散し、俺の体は地面に縫い付けられたようになった。
「えっ……」
予想していなかった事態に戸惑う。
「……こういうの形勢逆転って言うのかしらね。まぁ、元から私が勝つのは決定してたけど」
(こいつは、ただの炎能力者だったはずだ……。こんな変わった能力があるわけがない)
「残念だけど、私が炎能力者ってのは嘘だからね」
「……うそ?」
「ええ、私の本当の能力は【幻想浮遊】と言うのよ。体がまったく言うことを聞かなくなって夢現を彷徨っている気分になる。どう、いいネーミングセンスでしょ?」
幻想浮遊――夢現を彷徨っている気分か。
夢幻光源やら幻想浮遊やら、安直なネーミングセンスに飽き飽きする。
「……そんなカッコよく言ったところで、能力の種はわかってんだよ」
「へぇ」
「アンタの能力は筋肉や神経に直接、影響させることが出来るんだろ」
言うなれば基本魔法と異常魔法の中間のような存在。
「その通りよ。……よくわかったわね」
そういう内面に喰らわせられるような能力じゃないと、この現象は起こせないからな。
冷静に考えれば簡単に思いつく話なんだ。
「簡単な話だ。今日、戦った風宮は異様なまでに強かった。教室で喧嘩したときまでは弱かったのに、出て行ってから異様なまでに強くなった。こっそり隠れて修行していたのもわかる。だけど、こんなに早く効果が出るのはおかしい。するとアンタが風宮に接触し強くしたとしか考えられねぇんだよ」
「……なるほど。あの子を強くしたのが裏目に出たのね」
「残念だったな。そのせいで俺に気づかれてしまって」
してやったり顔でそういうと、俺の言葉がツボにはまったのか笑い出す。
完全に悪者の高笑いになっていた。
「あはははは、バカね。あなた、本当のバカだわ」
「……何がいいたい」
バカバカ言われると心底、ムカついてくる。
その苛立ちを隠すことなく全面に出していく。
「あなた、今の状況を理解してる? あなたに逃げ場はないのよ」
「だろうな……」
「今から私に徹底的に嬲られて、弱ったところを紅帝学園につれていく。ほら、完全なバットエンドでしょ?」
あー、そういうことか。
目の前にいる正真正銘、バカになれ果ててしまった加賀美にバカバカと連呼された理由がやっとわかった。
同時にやるせない気持ちが出てくる。
あの天才と思っていた先生が堕ちていく姿を目前で確認してしまったのだ。
(……紅帝学園なんかと関わらなかったら、こんなことにならなくて済んだだろうに)
「はぁ……。ホント、めんどくさい奴と関わってしまったもんだな」
「何だと――」
「バーニングストライク!!」
「なっ!?」
突如、響き渡る女の子の声と共に隕石のような炎の塊が降り注ぐ。……屋上全体に。
――これさ、俺も直撃のパターンだよな。
迫り来る隕石の一つを見ながら溜め息交じりに思う俺であった。
「……焔姫、あなたね。御影様のいるところぐらい範囲から外しなさいよ」
体の自由が利かない俺を守るように氷の壁を張り巡らす雪羅。
分厚い氷の壁を何枚も張り巡らせる。
焔姫の力の強さを理解している元ライバルだからこそ出来る防御だろう。
「ごめんごめん。そろそろ全力で暴れたかったのよね」
「……だったら、御影様のところは範囲に入れないで頂戴。あなたの攻撃は威力が高すぎるのだから。防御に力をごっそり持っていかれるわ」
鉄壁と呼ばれる素材を使った屋上の壁にひびが入っていた。
前に壁やらが破壊されていたのは、間違いなく彼女の仕業だろうな。そこで出来てしまったひびを追撃し、破壊したのは俺かも知れないが。
「りょーかい♪」
全力を出し切れるからだろうか、満面の笑みを浮かべながら焔姫は返事をする。
今はただ、その笑顔に恐怖するしかない。怒っているときに笑顔の人とか怖いんだよな。内心、怒り狂っているのを自分で押さえ込んで表面に出そうとしていないから、冷静に怒っているような気がして。
「……さ、御影様」
「ああ、悪い」
差し伸ばされた白く細いか弱い手を、拒否することは出来ず握る。
「……御影様、きちんとご飯を食べてますか?」
すんなりと立たせることができた俺を仰天の眼差しで凝視してくる。
一般の女子高校生に立ち上がらせれる俺。
そりゃあ、雪羅の言い分のほうが理解できる。男のほうが力もあり、身長や体重も大きいはずなのだ。それなのにすんなりと立ち上がらせることができた。
雪羅が力強いわけではない。ただ、俺の体重が軽すぎるだけ。
「俺なりには食べてるつもりだ」
「……まぁ、今はそれでいいでしょう。これからは私達がご用意しますから」
これから通うつもりかよ。
まぁ、俺の作った軽い飯よりかは女の子に作ってもらえる飯のほうが嬉しいけどな。
ただ俺にも、一人でいたいという時間が……。
「大丈夫です。そっちの処理もしますから」
「それもおかしいですから!! というか、あれ、俺、心の中で思っただけなんですけど」
「……なんとなく考えていることはわかります」
――ああ、さいですか。
平均的に男より女のほうが察知能力とか、そういうのが優れているんじゃないかな。こういう関係では女性には一生、男は勝てないのかもしれない。
「そして流されそうだったからもう一回言うけど、女の子がそういうことを言ってはいけません!!」
「別に相手が御影様だったら……」
「あれ、なんかホントに俺がすることになってるけども、しませんからね」
そこまで飢えてないし。
「……まぁ、今はそういうことにしておきましょう」
「これからもそういうつもりはありません」
「そんな元気があるなら、こっち手伝いなさいよ!! 仮にも先生なんだから強いのよ」
ずっとくだらない話をしていた俺達に戦いながらツッコム焔姫。
……お前こそ加賀美と戦いながらツッコンでるけど、そんな余裕があるのか?
「隙ありだ!!」
ツッコミを入れてる隙を狙い、加賀美は土の塊を焔姫に向かって飛ばす。
……ほれみろ、やっぱり隙だらけじゃねぇか。
某轟竜さんのような攻撃が焔姫に直撃する直前、俺はその攻撃に向かって微弱な電流を流しておく。
「……《風の刃》」
その攻撃が焔姫に直撃するかと思われた直前、厨二病を発症させたような技名が聞こえる。技名でわかるだろうが、その声の発生源は風宮だ。
何度も俺を苦しめた風よりも強化された風の刃が、加賀美が出現させた土の塊を一閃する。
「……ば、バカな」
「火野、大丈夫か」
「え、ええ。ありがとう」
すっかり油断していた焔姫は、すっかり油断してしまっていたことがよほど恥ずかしかったのだろう顔を赤くし俯いていた。
「……さぁ、主役の登場だぜ」
「おせぇよ。バカ野朗が」
風宮が来たと同時に俺も立ち上がる。
「こちとら、お前が来るまで術中とやらにはまってる役を作るので飽き飽きしてんだ」
硬くなってしまった骨をほどよく解すように肩や腕を動かす。
――そう、今までの俺はすべてまやかし。
こいつに頼んでいたあるものを届けてもらうまでの時間稼ぎ。でなきゃ、能力を知り尽くした俺がこんなやつの攻撃を喰らうなんてありえない。
「風宮、頼んだ物は持ってきたんだろうな」
「ああ、ここにあんぜ。受け取れ」
背中に背負っていた包みを解き、中の物を取り出し、こちらに向かって投げてくる。
風に乗せて投げてきたものは、一振りの剣。
「……剣?」
後ろに控えている雪羅ですら、わからないようなボロボロな剣。
今までまったく使っていなかったんだ。こんな姿になるわな。
「……こんな形をしてるけどな。剣だ」
「……あははは。そんなボロっちい剣で私と戦うつもりなのか」
心底、バカにしているような嘲笑。
それが今は、無償に腹立たしい。
「おい……。調子乗ってるんじゃねぇぞ。アンタの相手は一般の魔法使いじゃなくて、異常魔法使いなんだ。油断してる隙すらねぇんだよ」
雷ではなく、光の力を解放する。
今なら他学年や他クラスの生徒に見つかることもない。
本気でこいつを倒せるってわけだ。元から、こいつには本気で戦いたかったから、風宮にこいつを持ってきてもらうように頼んだのだ。
(……今までほったらかしてごめんな。辛かったよな。今からじゃ遅いかもしれないけど、これからは一緒に戦おう)
「聖剣!!」
俺の言葉に答えてくれたのだろう。
刀身が真っ白に輝き、その光は暖かかった。
「さぁ、覚悟しろよ。こいつを装備した俺は、本気だぜ」
いつでも戦えるようにエクスカリバーを構える。




