第14話 不信感
「……悪い」
溜め込んでいた分を発散出来た様子の風宮が謝ってきた。
「……気にするな。お前の気持ちは痛いほどわかるから」
「そうだよ。気にしなくていいよ」
美少女二人から気休めの台詞をもらった風宮は、話を戻そうとする。
「で、その闇の子はどれぐらい強いんだ?」
「軽く化け物ランクよ。アタシ達は勝てるランクじゃないわ」
「……ただ、一人だけ勝てる要素がある人はいる」
言い終えた雪羅がこちらをじっと見つめる。
完全に予想通りすぎて笑えてくるわ。化け物ランクに勝てる要素のあるのが俺ねぇ。
「風宮と戦ったときに使ったアレだな?」
俺の問いに雪羅は、こくりと頷く。
やっぱそうか……。
むしろアレでしか倒せないような気がしてきたぜ。
闇の使い手の話をしていると、不意にコンコンッという小さな音が響く。
保健室にいる全員が、音の発信源を見る。
するとそこには、真っ白い翼を羽ばたかせる小さな鳥がいた。
焔姫が慌てて窓を開けに行き、鳥をその手に乗せる。
「おいっ、何して……」
校内に動物を入れるなよと注意したかったのだが、さっと手を差し出してきた雪羅によって遮られる。
「……そ、ありがとう。引き続き報告をお願いって伝えて」
独り言を言い終えた焔姫は、窓の外へ鳥を飛び立たせる。
「……なんて?」
「んっ? ……ああ、悪い報告が一つね」
二人だけで会話するのはいいけど、俺達にも説明してくれよ。
「おいおい。二人だけで会話しないでくれよ。こっちにもわかるように話してくれ」
「そうね……。簡単に説明すると、さっきの鳥は現在も現役中の紅帝学園の友達からの報告書ってとこね」
さらに簡単に言うと、スパイってやつね。
何故か嬉しそうに語る焔姫。見ているこちらからすると、子供みたいで可愛いのだが、言ってることは怖い。
「……なるほど。大体はわかった」
「悪い報告って、なんだったんだ?」
回りくどいのが嫌いな俺は、普通に問いただす。
この質問に答えるのが心苦しいのか、焔姫は眉を八の字にする。
「……あの形態のことが、紅帝学園にバレている」
「なっ……!?」
焔姫の言葉に雪羅と風宮の両名が驚く。
鳥の言葉を聞いていたとき、焔姫も驚いていたからこの場にいる人で驚いていないのは俺だけだろう。
――というのも、俺はなんとなく予想していたからなのかも知れない。
「……情報の出所は?」
仮にも主である俺のことが心配なのだろう、焔姫に出所を問う雪羅。
「わからないわ。気づいたら、そんな話が浮き出ていたらしいわ」
一気に騒がしくなる保健室。
だが、俺は一人。まったく違うことを考えていた。
……いや、まったく違うこととは言い切れない。
別のやり方で情報の出所を特定するだけのことだから。
「……まず、あの戦闘を見ていたのは俺達のクラスメイトと担任である音無先生だけ」
メモ帳とシャープペンシルを雪羅から借りた俺は、メモ帳にポイントを書き出していく。
「他に見ようと思っても見れる場所がないからね。人数は限られてくるわね」
「いや、管理室のやつらなら見れるんじゃないか? 学校内の至るところに監視カメラはついているんだし」
そう、この学校内には無数の監視カメラが存在している。
着替えるための更衣室やトイレなどにはさすがにない。が、他の場所ならかなりある。
外部からの侵入者対策だそうだ。つまり訓練所にも監視カメラはあるということだ。
「……そうだな。一応、管理委員も書いておこう」
これだけで情報の出所を探すなら、多数の人が該当する。
「これをもっと絞らなければ……」
(あと、引っかかる点はなんだ? 何かないか?)
身の回りの教師や生徒で急に様子が変わったりしたやつは……。
「……ちょっと待てよ」
俺と風宮が戦うことになってしまったのは、俺の秘密がバレてしまったからだよな。
これは仮にだが、俺が本気を出すことを知っていて仕組んだとするとどうだ?
急に風宮が強くなったこともわかるし、俺と戦わせて力を出させるという観点もわかる。
「俺の本気を図るために風宮を俺と戦わせた……。そして自分はその本気を見届ける」
あくまで仮定の話だったのだが、そう考えると全ての事柄に納得がいく。
だが、そうなるとそれが出来る人が“一人”しかいなくなってしまう。
……それは俺自身が認めたくなかった。
「はぁ、やっぱりそうなってしまうのかよ」
犯人がわかってしまったことにより、必要なくなってしまったメモ帳のページを破り捨てる。
「……くそっ。だったらさっさと捕まえにいかねぇと」
かなり無理をして立ち上がる。
俺の中で決まっているあいつが犯人だとすると、次は何をしでかすかわからない。
「ちょっと、そんなに無理して。死ぬ気!?」
「……御影様っ!!」
「風宮、いつまでくたばってんだ。……全員で犯人のところまで行くぜ」
「犯人がわかったのか?」
「ああ、考えてみれば簡単なことだった」
そうだ、あの人しか出来ないことがあるじゃねぇか。
「……俺とお前が喧嘩をして、自習となったときからお前の様子がおかしくなった。それはつまり、その時点で俺の秘密を知ってしまったから」
そこで犯人は俺の正体の一部を証し、風宮を戦わせるように仕向けた。
自分は戦わずして俺の実力を見極めることが出来る。
「……お前と俺が戦っている間、自分は俺の本気を見極めることが出来る」
「じゃあ、もしかしてあの人が……」
俺の言っている人と風宮が言っている人は、同じ人だろう。
自分に嗾けた犯人ぐらいは覚えているだろうし……。
「行こう。これ以上、何もさせないために」
◇
「はい、送った情報で全てです」
『そうか……。よくやってくれた。これからも引き続き【夢幻光源】の情報、頼むぞ』
「ええ、任せてください」
ピッ
無機質な電子音が屋上に響き渡る。
女が無線機を切る音ではない。それとはまったく違った音だ。
慌てて女は無線機を切り、屋上へ来ることの出来るたった一つの扉を見る。
「……言質ゲット♪ これで言い逃れは出来なくなりましたよ」
そこにいたのはボイスレコーダーを持ち、相変わらず傷だらけの光輝だった。
「あなた、どうしてここに……」
「言い逃れは出来ないって俺、言いましたよね」
忌々しい犯人を睨みつける光輝。
その目には、輝きは一切なく。
ただ獲物をしとめようとする捕食者のような目だった。
「さぁ、どうしてこんなことをしたのか言ってもらいましょうか」
「……音夢先生。いや、加賀美 音夢っ!!」
一年間を通して信頼していた先生が、まさかの裏切り者だったことに対して苛立ちを覚える光輝は、その怒りをぶつけるかのように叫ぶ。




