第12話 光の輝き
「これより魔法戦闘訓練を始めます。……戦闘方式はお互い指名し合って戦うといういつも通りの方法でいいですね?」
午後の戦闘訓練の時間――訓練所に俺達は綺麗に揃って並び、先生の話を聞いていた。
さっさと終われねぇかな。こちとらすぐにでも戦いたいんだ。とか思いながら。
「……では、恒例通りに一番最初の戦いだけみんなで観戦しましょうか」
これが一番最初の戦うのが、いやな理由。
自分が戦っているところがクラスメイト全員に見られるのだ。
元から注目されることが嫌いなうえに、俺の本当の力が雷なんかではなくて、光だということがバレてしまう危険性があるからというのもある。
どちらも最初に戦いたくない理由で、クラスメイトとまともに関わりたくなかった理由。
――だったけど、そんなものはどうでもいい。
「最初に戦いたい人はいますか? 戦いたい人は前まで出てきてください」
今の俺は、あいつと戦うことしか考えていない。
先生の問いに応えるように、生徒の合間を通って前まで出て行く。
「……御影君ですか。珍しいですね、あなたはこの訓練に否定的だったのに」
「気まぐれですからね。こういう日だってありますよ」
それはそうと……。
「ほら、さっさと出て来いよ。風宮嵐!! それともなんだ、あんなことまでして俺を敵に回しておいたクセにびびってんのか?」
「……んなわけないだろ。魔法の確認をしてただけだっての」
「へぇ、あの殺人魔法の確認ねぇ。俺を殺すつもりなのか」
相変わらず殺気全開の風宮に対し、軽口を叩く俺。
だが、それは口だけで戦闘態勢はバッチリだ。……急に襲撃されても耐え切る自信はある。
「だから、あれは……」
ガキンッと、鉄と鉄がぶつかり合ったような音が訓練所に響く。
実際は武器なんかは使っておらず、俺の雷と風宮の風が触れ合っただけだ。
「言い訳はいい。お前は一人の少女を殺しかけた。……その事実だけで充分だ!!」
いきなりの攻撃に戸惑う風宮だが、遠慮することなく雷の出力を最大まであげる。
「なっ……!?」
「吹っ飛べ」
一気に跳ね上がった雷の威力を直に受け、風宮は反対側の壁まで吹き飛ぶ。
「ちょっと御影君!? まだ開始の合図は……」
「黙ってください。これは、俺と風宮の問題ですから」
俺の顔を見た音夢先生は、声を出すことすらままならなくなっていた。
そりゃあそうだろう……。
俺がキレたときの顔を見たやつなんて滅多にいないだろうからな。
そんなキャラではないはず。というのも理由の一つかも知れない。
「……さあ、お前の力はそんなものじゃねぇだろ?」
土煙舞う舞台に向かって俺は呟く。
風宮のやつには、こんなところでへばってもらうわけにはいかないからな。
「さっさと立たねぇと」
高く振り上げた右手に雷を纏わせる。
それと同時に俺の周囲にも電流が張り巡らされ、地面のなかに埋もれていた砂鉄が電流に即発されて舞い上がってくる。
「死ぬぜ」
手に纏っている雷をそのまま維持し、その場で飛び上がる。
「――舞い堕ちろ」
雷を風宮に向かって落とすと同時に電流を操作し、鋭く尖った砂鉄をも風宮のことろへ飛ばす。
ソレが地面に接触したと直後、爆発を引き起こし、砂鉄がターゲットに向かって深く突き刺さる。
あいつはまともに動けてなかったんだ。防御すらとれていないだろう。
……さっきの攻撃が直撃し、死んではいないだろが気絶してるだろ。と、決着がついたと思った俺がいた。
「……炎よ。敵を焼き払え!!」
だが、甘かったのは俺だったらしい。
土煙のなかから炎の塊が、こちらへと向かってきた。
「っ!?」
気絶したと思い込んでいただけに戦闘態勢を解いていた。
その結果、反応に遅れたが自身の右側へとステップを使い被弾することはなかった。
「へぇ、まだ戦えんのか」
「……当たり前だ。あんな攻撃で倒れてたまるかよ」
炎によって土煙が晴れ、風宮は姿を現した。
――が、完全に避けることは出来なかったのだろう。所心、服が破れていた。
「ま、あんな程度で気絶されても発散できねぇからいいけど……」
そんなことよりも今の魔法だ。
あいつは風が得意魔法だったはずだ。入学してから今まで、同じ属性の魔法を使っているところしか目撃したことがない。
一年生レベルなんだ、使用できる属性なんて自身に向いている一つしかない。
だが、目の前の男は別の魔法を使ってきた。
炎の球が着弾したところを見ると、壁が大きく凹んでいた。
――間違いない。
こいつは炎の魔法も使える。それも風とほぼ同等の力で。
「さて、反撃の開始だ」
(来るっ!!)
攻撃のモーションに入った風宮をしっかりと視界の中心に捉える。
「……氷よ。我に仕え、目の前の敵を凍らせろ」
(この詠唱は確か……、中級魔法!?)
まっすぐ俺に向かって氷の棘が走ってくる。
敵が放ってきた魔法に、慌てることなく冷静に対応する。中級となっては普通に避けても追尾してくることがステータスだ。そのため少量の雷を当て、軌道を逸らす。
これは、間違いなく氷の中級魔法だ。でも、なんでこいつが三属性の魔法を使えるんだ。
俺みたいに実力を隠してるわけではない……。こいつが真剣に特訓しているのは知っている。だからと言って、こんなすぐに頭角を現すのもおかしな話だ。
特訓の成果を発揮出来るのは、少なくとも三ヶ月ぐらいの期間が必要なはず。
俺が前に特訓してるのを目撃したのは、二ヶ月前。ほんの少し時間が足りないような気がする。しかもたった二ヶ月でこんなにも実力がついているというのもおかしな話。
「何の魔法を使ってやがる……?」
レベルが急に上昇するなんて、人間としてはありえない話だ。
……何があった。こいつの身に何があったんだ。
喧嘩したときまでの雰囲気と、今の雰囲気が絶対的に違う。あのときはこんなにも濃い殺気はなかった。だが、自習になった時間以降、こいつの雰囲気が丸っきり変わっていた。
「ほらほら、どうした? 俺の考えを否定するんじゃなかったのか?」
平気で相手を苛立たせるような台詞を吐く風宮。
(違う……。前のこいつと今のこいつ、雰囲気が違いすぎる)
風宮が放ってくる炎と風の連激を避け続ける。
「……ちっ、なんで俺がこんなことを考えねぇといけねぇんだ」
(誰だ? あの自習の時間、こいつと接することが可能なやつは誰だ? こいつがこんなふうに変わり果てた理由はなんだ?)
「ほら、さっさと本気を出してみろよ。そんなちっぽけな力じゃなくて、本当の力を」
風宮のこの言葉ですべてを悟った。
――もし、こいつが俺の本当の力を知っていたら?
こいつの俺を怨み、殺気をばらまく理由もわかる。怨みの対象が近くにいたんだ、殺したくなる気持ちを抑えられなくなるというのもわかった。
あの少女が殺されかけたのも、結局は異常魔法のせいかよ。
「そういうことか……。お前は知ってしまったってわけか」
考え事をしていたせいで、ろくに逃げることも出来なかった俺は、風宮の魔法を喰らい地面に倒れてしまう。
「ぐはっ」
追撃するかのように風宮は、氷の牢獄を作り出し俺を閉じ込める。
「しまった!?」
逃げ場をふさがれた俺は、来るべき攻撃に備え防御をするのみ。
「……氷よ。粉砕せよ」
――直後、俺を中心に氷が破裂した。
◇
「……ははは。やったついに、倒したんだ」
光輝が倒れたと確信した風宮は、喜びのあまり笑いを止めることは出来なかった。
その様子を離れたところで見ていた雪羅や焔姫の顔からは笑みが消え、雪羅からはとてつもない冷気が発せられているような錯覚に陥る。
「あいつ、本気で御影を……」
「あれじゃあきっと御影君でも」
残酷な攻撃の一部始終を一緒に見てしまったクラスメイト達は、口々にそう言っていた。
焔姫はそれを聞いて反論したい気持ちになったが、本人ですらあれは避けれない直撃したと思っていたから出来なかった。
「……あの赤いのって、もしかして血!?」
そして何より、光輝がいた場所に少量の血がついていたことが彼女をさらに苦しめた。
「うそでしょ!? 先生、あれはペナルティじゃないんですか」
「…………」
(……あの攻撃は、明らかに殺人を狙った攻撃だった)
あんな攻撃、試験や訓練で出していい代物じゃない。
なのに注意することなく見守っているだけの教師に腹を立てると同時に、光輝が生きていることを心から願っていた。
(生きてなさいよ……。そうじゃないと、雪羅を止められなくなるんだから)
「……つーかよ。これは確実に殺人を狙ったと取っていいよな」
聞こえてきたのは、無事を願っていた人の声。
「……な、どうして生きているんだ」
「いくら俺が、異常魔法を使うやつだって言っても。これは酷すぎる扱いじゃねぇか? なぁ、風宮嵐っ!!」
名前を叫んだと直後に訓練所全体に強風が巻き起こり、土煙が一気に晴れる。
そこにいたのは、電気を纏った光輝でも……普通状態の光輝でもなく。
――真っ白な翼が生えた光輝の姿だった。
◇
「……な、なんなんだよ。その羽は」
「これは言うなれば俺の最終形態って感じだ」
本当は使いたくなかった――。
クラスメイト全員かつ異常魔法使い者に興味津々な音夢先生に見せることになってしまうから。だけど、そんなことを言ってられなくなった。
「俺の中に眠る光の力を、最大限に活かす姿ってことだ」
「光だと」
「ああ、他に属性があるかどうかわからないが、俺の持っている力は光だ」
「……そうか。なら、俺の勘違いだったのか」
さっきまでの殺気はなくなり、いつも通りの風宮に戻っていた。
おそらくこいつが忌み嫌っている異常は、光ではなく違う属性だったのだろう。
「悪いな……。俺の勘違いだったみたいだ」
「……俺はいいけど、あとで彼女に謝っとけよ。俺よりあの子のほうが辛い思いをしてんだから」
「ああ、わかってる」
光で出来た剣を下ろし、戦闘の構えを解く。
「なら、終わりにすっか? もうお互いに戦う理由はない」
「……いや、続けさせてくれ。やつと戦うためにどれだけ力をつけないといけないのか知りたい」
そんな理由のために俺を使うのはやめてほしいんだけど。
――まあ、この形態になってしまったことだしな。今更どう取り繕っても意味はない。
「いいぜ。完膚なきまでに打ちのめされても泣くんじゃねぇぞ」
「今の俺が戦っても負けることはわかってんだ。相手の実力を知りたいだけだ」
そういうことなら本気で行かせてもらわないと失礼だな。
「……全力で行かせてもらう」
光輝く剣を持ち、風宮までの距離を一気に詰め寄る。
「早いっ!?」
「はあぁ――!!」
一閃。
だが、剣を振り下ろした場所には誰もおらず真横から風を放ってきた。
「……甘い」
片翼を動かし、無数の風を振り払う。
「なっ、そんなのありかよ」
「まだまだ、こんなので驚いてちゃ異常魔法使い者の相手はやってられねぇぜ」
翼から何枚かの羽が分離し、逃げ惑う敵に向かって追跡する。
防御からここまでの流れは、オートでやってくれるため俺が指示できることはない。
なので、俺は俺の攻撃に集中出来るというわけだ。
「ちょ、そんなのもありかよ……」
「悪いな、お前の意思に習って俺も本気になってるからな」
手加減することなく俺は、猛攻撃を仕掛ける。
――もう、どう言われようが知ったこっちゃない。
化け物と言われようが、異能者と言われようが関係ない。
「俺は、俺のしたいようにやるだけだ!!」
俺の意思に応えるかのように、剣は白く煌めく。
剣を強く握り締め、風宮に向かって刃を振り下ろす。




