第11話 光の激怒 part 2
午後の戦闘訓練が始まる前の昼休み――。
教室内の空気は再び、重々しいものと化していた。
いつもならグダグダとまったく関係のないくだらない話をしながら昼食を食べていたクラスメイト達であったが、今回に限っては一言も話すことはなかった。
そんな空気にしてしまっている発信源は、言葉にしなくてもわかるだろう。
「…………」
一言も話すことなく黙々と昼食を食べている風宮と、少し遠くで食べている俺だった。
クラスメイトの内の一人が気を使って席を譲ってくれたのだ。
――私、氷室ちゃんと話したかったのよね。というありがちな理由もつけて。
まぁ、あんなことがあった後だし、俺の席があいつの真後ろということもあってだろう。
またしても暴れられたら堪らないって感じだろうな。
「……あいつは一体、どうしたんだ?」
「俺が知るかよ……」
譲ってくれた席が、偶然だけど焔姫の隣だったため俺達は話していた。
勿論、話のテーマは風宮の様子のことだった。
……あれから、授業時間に帰ってくることはなく。昼休みに入る直前、帰って来たのだが。授業時間のときよりも纏っている空気が刺々しく、存在自体が刃物のように鋭く尖っていた。
「もう、俺には関係ねぇよ。ああなってしまったら、どうしようもねぇ」
「…………」
やりきれない気持ちを飯を食うことによって発散しようと考え、口内一杯まで頬張っていたときのことだ。
「……おい」
風宮が声を荒げながら席を立ったのだ。
それによってクラスメイト達は、驚き。クラス代表を頼るような目で見たり、話しかけている相手であろう俺を見たりしていた。
「午後の戦闘訓練、俺と勝負しろ」
「……へぇ、指名ねぇ」
別に戦ってやってもいいんだけど。
「めんどくさいから、パスするわ」
「……なんだと?」
「お前みたいに憎しみだけで、人を殺すようなやつと戦いたくない」
俺が異常能力者だと言う事がバレたら、殺されるような可能性もあるだろうしな。
……この能力を使えば、確実に勝てるだろうが。これは多様しないと決めているんだ。
つまりもう一つの能力だけで、こいつを凌ぐしかない。戦い方によって勝つことも出来るだろうが、めんどくさいというのがある。
「そうかよ……。だったら!!」
視線を俺からまったく関係のないクラスメイトの女の子に合わせる。
その少女は目が合ったことに震え、動くことすら出来なくなっていた。
それを知ってか知らずか、風宮は口角を上げると手に風を纏わせ始めた。
風宮の存在を知った風達は、主人に従うために窓ガラスを割り、外で吹いていた少量の風すらも入ってきた。
「すぐにでも戦わせてやるよっ!!」
あろうことかその大量の風を、その少女に向かわせた。
教室内での魔法の使用は原則として禁止されている。それを知りつつこいつは何の関係もない少女に向かわせた。鮮烈な刃と化した風を――。
「危ないっ!!」
理性があれは危険だ。と言っているのにも関らず、俺は動きを止めることなく風の刃と少女の間に入り込む。
「御影っ!?」
「御影様!!」
雪羅と焔姫は俺の咄嗟の行動に驚いたようだったが、これが俺の性分なので許して欲しい。
――俺のせいで周りの人が巻き込まれていくのはごめんだ。
「だから……、少しだけ痛いかも知れないけども我慢してくれ」
「えっ?」
少女の体を持ち上げ、焔姫のほうへ投げつける。
彼女が女の子を無事、受け止めることが出来たのかどうかは定かではない。
同時に防御を取ることも出来ずに、風宮の攻撃をもろに受け、教室についているドアを巻き込んで廊下まで吹き飛んだからだ。
「ぐはっ」
壁に背中を強打し、血反吐を吐く。
風宮の憎しみの一撃を喰らい、そのまま壁にもたれかかっていた俺は。
……憎しみはここまで力を増加させるのか。と、他人事のようなことを考えていた。
「だ、だいじょうぶですか!?」
血を吐いた俺が気になったのか、隣の教室で轟音が響いたからか真実はわからないが、所々のクラスから生徒達が出てきた。
「……大丈夫だ。ちょっと打ち所が悪かっただけ」
「すぐに先生を――」
先生を呼ぼうとする生徒達を尻目に、俺は教室へと向かうため立ち上がる。
「ダメです。今、無茶をすると……」
「悪い。だからと言って、ここで歩みを止めるわけにはいかないんだ」
気遣い屋さんな少女をの好意を振り払い、俺は再び教室へと戻る。
そこでは更に険悪なムードになっていた。
「……焔姫、離してください。私はこいつを殺さないと!!」
「だからそれがダメなんだって、ちょっとは落ち着きなさい」
怒り狂い風宮を殺そうと武器を取り出している雪羅を焔姫が引き止めるといった構図だった。教室内に入ると、凍えそうになるほどの寒気がした。
それを作り出しているのは怒り狂っている少女、雪羅だ。
「……ったくよ。お前はそろそろ感情をコントロールしやがれってんだ。いや、お前らって言ったほうがいいかな」
頭を掻きながら平気そうに入ってきた俺に、全員は驚きを隠せなかった。
風を放ってきた風宮ですら、驚愕の表情を浮かべていた。
「……なんで、生きているんだよ。全力で撃ったのに」
あれが全力か……。
痛かったけども、動けなくなるまでの痛手は負わないな。
「まっ、簡単に説明すっと、これのおかげだな」
見せびらかすようにした左手に電気を纏わせる。
「電気……?」
「そっ、攻撃を受ける直前、足元と攻撃範囲ではなかった柱に向けてモノを引き付ける電流を流した。そして背中にモノを引き離す電流を流した。ただそれだけのことだ」
そのおかげで魔法は直撃したが、威力は半減することに成功した。
ぶっつけ本番でやったから上手くいくか心配だったけど、これなら立派な技だな。
「……口では簡単に言ってっけど、バランス取るの難しいんだぜ?」
ちょっとでも、力加減を間違うとアウト。本人が多大なダメージを負うことになる。
「まぁ、それは置いておいて」
目を一瞬だけ閉じ、再び開く。
「よくも、まぁ、即死レベルな魔法を彼女に放てたな」
雪羅や焔姫がいつもと違う俺の声音に目を見開く。
……それもそうだ。
焔姫と戦ったときですら、本気でキレちゃあいなかったのだから。
だけど、今の俺は完全にキレている。
「……あの子が死ぬかも知れない。そんなことは微塵も考えなかったのか」
「はっ、考えてるわけないだろ。お前が助けに行くことは予想出来ていたからな」
ちょっとでも、面白いやつと思った俺がバカだった。
――こいつはただのクズだ。
「そうか……。彼女を護るために俺が身をはって助けに行くと、初めから予想していたんだな?」
「……何が言いたい?」
「入学してから一度として、接したことのないたかが一人の女の子のために俺が自身を犠牲にして護ると」
このクラスで話したことのあるやつなんて、片手で数えられる程度だ。
しかも話した内容は、事務的なことばかり。
趣味の話や、楽しかったことの話など個人的なことを話したのなんて一人もいない。
そんなクラスにいる女の子一人のために、自身を大切にしてくださいと雪羅から忠告されている俺が身を犠牲にすると。
「それは……」
「……言い訳はいい。午後の戦闘訓練、楽しみにしてろよ。今回の俺は、完全にキレてんだ。手加減なんてしないし、途中でやめろと言われてもやめねぇからな」
風宮のせいでグチャグチャに変わり果ててしまった教室を後にし、俺はとある場所へ向かう。
……あいつは、絶対にゆるさねぇ。




