第10話 光の激怒 part 1
「……すべての原点は、異常魔法か」
異常事項がすべての原点、だなんて世も末だな。
「ん、どうしたんだ? 急に厨二病チックなことを呟いて」
誰にも聞かれないように呟いたのだが、席が一つ前なだけあって風宮には聞こえていたらしい。というか、厨二病って……。
「勝手に痛々しいキャラにするな」
「まぁまぁ……。そうとも取れる発言をしていたからさ。で、異常魔法がどうしたって」
俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、耳元で囁くような小さな声で話しかけてくる。
「とある学校の悪行について調べたんだが……。その結果、最悪な結論にたどり着いたってわけだ」
「最悪な結論……? それに異常魔法が関わるってのか」
「ああ、そうだ」
まさかその最悪な事件を起こすキッカケに選ばれているのが、俺の忌々しい力だなんてな。皮肉にもほどがある。
「……なんだかわかんねぇけど、すべての原点は異常魔法にあるんだな?」
「ザックリと話すとそういうこった」
まるで確認をするように同じ質問を繰り返してくる風宮。
その質問に対して簡単に答える俺。
最初から、何の関係もない生徒に話すつもりはない。
「……なら、異常魔法を持つ奴を殺せばいい」
「えっ」
すごく接しやすかった風宮の雰囲気が一気に変わった瞬間であった。
普通に聞いていた言葉ですら、今までの声より低い声で、声に殺気が篭っていた。
「すべて異常魔法を持つやつのせいでこうなってるんだろ? なら、殺せば解決する」
「……お前、本気で言ってるのか?」
「ああ、俺は本気で言ってるさ」
周りの人間は全員、俺ら二人が醸し出している嫌な雰囲気を感じているのかこちらを向いて動揺していた。
「…………」
無言で立ち上がり、風宮の顔を一発殴る。
「ちょっと、御影君っ!?」
「先生、危険です!!」
「無茶しようとしないでください」
先生は俺達を止めるために急いでこちらに向かって来ようとしているが、前の席のやつらが先生を止めていた。今の状況で来ると、やばいことになると察しているのだろう。
周囲のやつらは驚愕の表情を浮かべていた。
そんななか、風宮は立ち上がり俺の襟首を掴みかかってくる。
「いきなり何しやがる、いてぇじゃねぇかよ!!」
「……ふざけんじゃねぇよ」
「あぁ?」
「この世に死んでいい命なんて、一つもねぇんだよ」
掴みかかってきている風宮の腕を全力に握り締める。
俺は俺を貶されたと思って怒っているわけではない。他にもこんな境遇に立たされたかもしれない人達を思って怒っているのだ。ただの偽善者かもしれない。だけど、怒らずにはいられなかったのだ。
「……離せ!!」
俺の手を振り払い、逃げるように教室から出て行こうとする。
「俺は訂正するつもりはねぇぜ。……元はといえば、先にあいつらが仕掛けてきたんだ。怨むならあいつら“異常魔法使い”を怨め」
「風宮君っ!!」
授業中、勝手に出て行った風宮を追って先生も教室を出て行く。
先生もいなくて、話を察することも出来ない他の生徒達は驚くしかない。
――唯一、事情を知っている雪羅と焔姫だけは納得していたみたいだが。
「えぇー、先生が退出されたので、これからの時間は自習とします。各自、自分の勉強をしてください」
クラス代表がいつものようにクラスをまとめ上げる。
この険悪なムードの中、良く発言したな。と、初めてクラス代表を褒め称えた。
「……チッ」
何ともやりきれない気分だ。
あいつは改心することなく、ただ単に俺に殴られただけ。
何も変わっちゃあいない――ちょっとでも変わってほしいから、目を覚まして欲しいから殴ったのに、現状維持なまま。それが俺を苦しめた。
「……気分はどうですか?」
大人しく席についた瞬間を狙って、真後ろに座っている雪羅から声をかけられる。
「最悪……」
「……でしょうね。何も変わっていないのですから」
仲間から言われると更に自分の弱さがもどかしくなる。
「ですが、これではっきりとわかりました。私にとって風宮嵐は敵です」
おい、それはちょっとおかしくないか。
あいつはただ、異常魔法使い者が死ねばいいと、前までの俺ですら思っていたことを正直に言っただけなのだから。
「……まったく、本当にアンタは御影バカね。もうちょっと相手のことを考えたほうがいいんじゃないの?」
殺気を抑える努力をすることなく怒り心頭な様子で呟く雪羅に、冷静にツッコム焔姫。
喧嘩する前にもこんなことがあったのだろうか焔姫の反応は、手馴れているようなものだった。
「だって、風宮嵐は御影様を――っ!?」
「はいはい……、今はそこまで。――アンタはここで御影が異常魔法使いだってバラしたいわけ?」
大声で俺をバカにしたと言おうとしていたのだろう。
だが、それを言うと俺の真の力がバレてしまうため、焔姫が雪羅の口を閉ざし、耳元で忠告した。
「……そうでした。申し訳ありませんでした」
「うん、わかればいいのよ。だけど、所構わず御影のことをバカにされたりすると、感情を抑えられなくなるってのは改善したほうがいいわね。今後、その感情を逆手に取られるかも知れないし」
……確かにな。
今の雪羅なら俺を助けるためなら、敵の無慈悲な命令にも従いそうな勢いだ。
一人の人間としては嬉しいことだけど、俺としては複雑な気分。
「だ、大丈夫ですよ。私だって、やれば出来るんですから」
「「いや、無理だろう」」
今までに至る行いを見てきた結果、確実に無理だ。と結論を出した俺であったが。奇しくも焔姫が出した答えもまったく同じものだった。
「二人して同じことを言わないでくださいよ……」
肩をがっくりと落とし落ち込む雪羅。
俺達が言ってることは単なる冗談なのではない、目の前で落ち込んでいる少女ならやりかねない……もとい殺りかけないと思っているのだ。
異常なまでの愛が犯罪を呼び起こす。それと同じ原理だ。
(それにしても……、風宮の言っていた言葉が気になるな)
少女達の言い合いをBGMに、空を見上げながら風宮が言い残していた言葉について深く考える。
――先にしかけてきたのはあいつら異常魔法使いって、どういうことだ?
俺が先に手を出したわけではない。
つまり俺じゃない異常魔法使いがいて、そいつが風宮に何かしてきたってことだ。
情報が少なすぎるため、これ以上のことを考えるのは不可能極まりないことだった。
……あいつに話を聞けたら一番の近道なんだけど。
今日のことがあるから確実に話を聞くことは出来ないだろうな。
「はぁー、めんどくせぇな……」
溜まっていためんどくさいという気持ちを素直に吐き出す俺。
まだ半日しか経っていないのに心身共に疲れてしまった。
午後からは魔法を使った戦闘訓練があるのだが、参加出来るかどうかすら怪しい体調だ。
◇
光輝達が教室で自習をしていた同時刻。
とある室内の中で、無線機を使って通話している女性がいた。
「……ええ、計画は順調です」
『そうか。火野が抜けたことによって少々、計画に支障が出るかと思っていたが、どうにか対処出来そうか』
「あの娘は、捨て駒だったのでしょう? 夢幻光源の力を試すための」
『ああ、その通りだ。……だが、彼女は計画について知りすぎている』
「その点なら大丈夫です。彼女はすぐに夢幻光源や氷の女王と仲良くなるわけありませんから、そのために氷の女王と炎の舞姫の仲を複雑なものにしたのですから」
悪魔のような笑みを零す女。
『それにしても、残酷な計画を立てるものだね。キミは』
「まぁ、年頃の女の子の扱いなら得意ですよ」
彼女の手によって少女達の仲は切り裂かれていたのだ。
『……その本性をお前の教え子達が知ったら、どう反応するのだろうな』
「すいません。人が近付いてきたので報告を終えます」
足音が近付いてきているのを察知した女は、無線を切りその部屋から出る。
そこで彼女が会った人物は――。
「あれ、アンタは……」
先ほどまで光輝と喧嘩していた風宮嵐……その人だった。




