ディトラ伯家の三女は女王になんてなりたくないのに、争っていた二人の王子が揃って私の夫になるそうです
私の名はレティウ・フォン・ディトラ。
ディトラ伯家の第三女だ。
家柄は超大貴族とまではいかないが、王都ではそれなりに顔が利く。父様は「忠誠は誓う、だが残業は御免」というタイプの廷臣で、母様は社交の場に立てば誰をも言葉で黙らせてしまう、圧巻のトーク力を持つ。
上には二人の兄がいる。
長男は家督を継ぎ、次男は神殿へ預けられた。彼らの未来は最初からきっちり定められていた。
そして私、三女としての役割は単純明快だった。
穏やかに成長し、身分の釣り合う相手に嫁ぎ、家のための政略結婚を務め上げる。
私はずっと、そう思っていた。
十五歳の新年、王宮の宴の夜。
私は第一王子アルフレッド殿下、第二王子レオナール殿下、二人から相次いで求愛された。
正確に言えば、同じバルコニーで、三分ほどの間隔を置いて、立て続けに告白を受けた。
その短い三分間で、私は生まれて初めて、断頭台の上に立たされたような息苦しさを味わった。
第一王子のアルフレッド殿下は沈着冷静、物事を筋道立てて進める方で、文官派から厚い信頼を寄せられている。
第二王子のレオナール殿下は豪快で細かい礼儀に拘らず、武官派から絶大な人気を誇っていた。
二人とも王族の血を引くだけあって、端麗な容姿だ。
だが問題は、この兄弟の政治方針が根本から真っ向に対立していることだ。
文官派は軍費を抑えるべきだと主張し、武官派は軍を増強して備えを固めよと訴える。
アルフレッド殿下は「財政の安定こそ国の土台」と語り、レオナール殿下は「強い拳こそすべてを守る」と言い張る。
御前会議の席ではいつも二人の言い争いが続き、議場はまるで雑踏の市場のように騒がしい。玉座に座る国王陛下は、早く隠居したいとでも言いたげな、疲れた表情を浮かべていた。
そんな相容れない二人が、唯一意見を一致させた。
――「ディトラ伯家の三女を娶りたい」
勘弁してほしい。
私はただの伯家の娘に過ぎない。一体私の何が気に入ったのだろう。
顔? 悪くない自覚はあるけれど、王都には私より美しい令嬢なら山ほどいる。
性格? 私はごく普通の、どこにでもいる少女だ。
後から聞いた話では、二人は五年前から何にでも張り合っていたらしい。
相手が手に入れたものは、自分も奪い返さないと気が済まない。
おもちゃ、馬、領地、称号――そして今、争奪の的が私になった。
私はただ、二人の勝負のトロフィーにされてしまったのだ。
これだけは納得できない。
レティウ・フォン・ディトラ、伯家の娘とはいえ、プライドくらいは持っている。
品物のように奪い合われるのは、心底嫌だった。
それに王都ではすでに「傾国の美女」なんて物騒な噂が広まり始めている。
何もしていない私が、男たちの争いの尻ぬぐいをさせられ、悪女のレッテルを貼られるなんて理不尽にも程がある。
絶対に嫌だ。
だから私は決断した。
その夜、侍女を介して二人の王子を王宮の奥、目立たない小さな応接室に呼び出した。
二人が次々と部屋に入り、互いの姿を確認した瞬間、空気は刃を向け合うように張り詰めた。
「アルフレッド殿下、レオナール殿下」
私は礼を整え、真っ直ぐに二人を見つめる。
「お二人をお呼びしたのは、一つの賭けを持ちかけるためです」
「……賭け?」
「はい。お二人は揃って私を娶りたいと仰いました。ですが、このまま争い続ければ国そのものが揺らぎます。そこで一案があります」
私は深呼吸し、前もって練っておいた言葉を口にする。
「お二人はそれぞれ、この国の半分の領土を治めてください。名目上は国王陛下の統治下とし、実際の政務はそれぞれが担う。
二年間の統治成果を競い、領内の富、治安、民の満足度、これらすべての結果で勝負を決める。勝った方だけが私を娶る資格を得、負けた方は今後、私に一切関わらない」
二人は黙り込んだ。
先に沈黙を破ったのはアルフレッド殿下だ。
「つまり、政绩で勝負しようということか」
「その通りです。期間は二年。結果がすべてです」
レオナール殿下が目を細め、唇を歪めて笑う。
「悪くない。だが父王の許可はどうする?」
「国王陛下には、私から直接願い出ます」
病床に臥す国王陛下のもとへ赴き、提案の全てを話し終えると、陛下は一分間ほどずっと大笑いした。
「ははははっ、良い、良い!
朕の愚かな息子たちが、一人の少女に手玉に取られるとは。
よし、認めよう。朕も長くはない。早く国を治める術を覚えさせるには、ちょうどいい機会だ」
こうして賭けは成立した。
二人の王子はそれぞれ自身の派閥を率い、国の東と西へ分かれ、統治を始めた。
東はアルフレッド殿下、西はレオナール殿下。
私は王都に残り、名目上は「賭けの立会人」。
実際のところは毎日国王陛下と雑談し、東西から届く報告書に目を通すだけで、なかなか暇な日々だった。
アルフレッド殿下の東部領では、初年度から税制改革が進められ、貴族による土地の濫獲を抑え、自由な商人たちを後押しした。
街は目に見えて活気づき、経済が急速に潤い始める。
レオナール殿下の西部領では、国境の守備隊を再建し、山賊を一掃して交易路を開通させた。
治安は飛躍的に改善され、行き交う商隊の数は倍に増えた。
二人は必死になって領を治めていた。
ただ、私を娶るためだけに。
……正直、プレッシャーが凄まじい。
報告を読むたびに思う。
この情熱を国のために注げば、とっくにこの国は繁栄していたはずなのに。
なぜわざわざ一人の女を争うのだろう。
私、そこまで魅力的なのだろうか?
時は流れ、二年が過ぎた。
二年目の年末、国王陛下は安らかに永遠の眠りについた。
息子たちがようやく国のことに向き合うようになったのを見て、安堵した笑顔のままだったと聞く。
葬儀は厳かに執り行われた。
霊前で泣き崩れる二人の王子の姿は、演技ではない。
政治の対立があっても、父を想う気持ちは本物だった。
喪が明けた翌日。
二人の王子は従者を引き連れ、王都の議事堂に集まった。
賭けの決着の日だ。
「俺の領の税収は四割増だ。アルフレッド、貴様に勝てるわけがない」
「ふん、税収だけで何が語れる。俺の領には無料の学堂を三つ建てた。教育こそ、長期的な国力の源だ」
「学堂? 俺の西領は二十年、国境で略奪が起きていない! 安全こそすべての基礎だ!」
「安全は基礎に過ぎない。経済こそ国を強くする」
「軍がなければ経済など守れるものか!」
「経済がなければ軍など養えない!」
睨み合う二人。
傍聴席の私は、静かに額を押さえた。
やがて誰かが机を叩き、二人は立ち上がり、従者同士も険しい眼差しで睨み合い、腰の剣に手をかける者まで現れた。
ちょっと待って。
私は立ち上がる。
「両殿下」
大きくはないその一声で、議事堂のざわめきが一瞬で消えた。
「まさか……ここで手を出すつもりですか?」
アルフレッド殿下は咳払いをし、ぎこちなく否定する。
「いや、ただ事実を述べているだけだ」
レオナール殿下も顔をそむける。
「俺も、声が大きくなっただけだ」
……自分でそれを信じられるのだろうか。
私は深く息を吸い、用意していた二つ目の提案を告げる。
「では、政绩で決着がつかないのなら、私から解決案を出します」
二人が一斉に私を見つめる。
「私を娶った方は、王位継承権を放棄してください」
空気が凍りついた。
「……どういうことだ?」
「字面の通りです。国王は一人しかいません。どちらかが私を娶れば、もう一方は納得できず、国は分裂します。
だから、私を娶る方は王位を諦め、残った方が国王となる。公平な案でしょう?」
内心ではほっとしていた。
完璧だ。
王位と、ただの伯家の娘。
どんな政治家でも王位を選ぶに決まっている。
この馬鹿げた争いも、これで終わる――
アルフレッド殿下とレオナール殿下は一瞬顔を見合わせ、
そして同時に私へ視線を戻す。
「では、君が国王になればいい」
「……え?」
「ディトラ家は百五十年前、王家と婚姻関係を結んでいる」レオナール殿下が淡々と話す。
「君の血の中には王家の血統が流れている。継承資格は十分にある。形式上の問題なら全て調整できる」
「待って、私は――」
「君が女王となり」アルフレッド殿下が続ける。
「我々二人が補佐する。東西の領を再び一つにまとめ、君がこの国を統治する。
どちらも『相手に負けた』という不満を抱かず、国は安定する」
「いや、だから私は――」
「それに」レオナール殿下が悪戯っぽく口角を上げる。
「俺とアルフレッド、二人共君を娶れば、東西は君を通して繋がる」
「ちょっと待って待って待って!」
「そうだ」アルフレッド殿下は真剣な面持ちで頷く。
「君が我々二人の妻となり、王位は君のもの。我々は輔政として君を支える」
「断る!」
「却下」
二人の声が綺麗に重なった。
「なぜですか! 私はただの伯家の三女です! 国民が納得するはずがない!」
「納得する」アルフレッド殿下は断言する。
「民は王子同士の内輪の争いに飽き飽きしている。
二人の対立を収められる女王こそ、今の国が必要としている存在だ」
「それに」レオナール殿下が付け加える。
「この二年、俺たち二人を手玉に取った手腕。
君が女王になるには、十分すぎる器量だ」
「それは勝手に――」
「いずれにせよ」
二人はまた同時に言い放つ。
「決まった」
こうして、レティウ・フォン・ディトラ。
ただの伯家の三女だった私は、この国の女王になった。
戴冠式の日。
私は玉座の前に立ち、下にひしめく貴族たちを眺める。
左にアルフレッド殿下、右にレオナール殿下。
正装をまとい、忠実な輔政のような真剣な表情を浮かべている。
……だけど私は知っている。
この二人、裏ではすでに結婚式の日程を話し合い、
「月水金はアルフレッド、火木土はレオナール」
なんて輪番表まで作っていたのだ。
知らないふりをしていたけれど、しっかり見てしまった。
疲れ果てる日々だ。
昼は政務――大半は二人の輔政が処理し、私は捺印と報告の確認をするだけ。
夜は二人の夫の争いに巻き込まれる。
アルフレッド殿下は、緻密で優雅なタイプ。
夕食のメニューから寝室の温度まで細かく調整し、
「本日はお疲れでしょう」と柔らかく囁き、私の困りごとを先回りして片付けてくれる。
レオナール殿下は情熱的で、少し傍若無人なタイプ。
突然背後から抱きつき、「今日は俺と乗馬に行け」と告げ、返事を待たずに馬へ担ぎ上げる。
最後は楽しいのだけれど、毎回ハラハラさせられる。
そして夜になれば、二人の恒例の争いが始まる。
「今夜は俺の番だ、アルフレッド」
「記憶違いだ。昨日はお前、今夜は――」
「レティ、今日は誰の番だ?」
私は枕を抱えてベッドの隅に縮こまり、小声で訴える。
「……一人で寝てもいい?」
「「だめ」」
即答だ。
私の女王としての日々は、政務と夫たちの争いの間を行ったり来たり。
だが唯一の救いは、国が確実に豊かになっていることだ。
元王子の二人は、軍費や財政をめぐる政治の言い争いをやめ、
「女王陛下の相手番」を争うようになった。
政治的な対立が家庭内の競争に変わったことで、東西の領は互いの長所を活かして融合し、国力は日に日に高まっていく。
他国の使節が訪れるたび、
中央に女王、左右に輔政二人が口論する議事の光景を見て、微妙な表情を浮かべる。
「陛下、貴国の政治体制は……実に独特ですね」
「ありがとうございます」
私は完璧な女王の笑みを浮かべて答える。
「我が家のやり方ですから」
夜。
広大すぎるベッドの上。
左ではアルフレッド殿下が公文を読み、右ではレオナール殿下が剣を磨いている。
私はぽつりと問いかける。
「ねえ」
「ん?」
「最初、なぜ私を争ったの?
あの頃の私、何の取り柄もない普通の少女だったのに」
二人は手を止める。
アルフレッド殿下は少し考えてから答える。
「レオナールが欲しがったからだ」
レオナール殿下も即座に返す。
「アルフレッドが欲しがったからだ」
「……つまり、最初は自分たちでも理由が分からなかったの?」
「まあな」アルフレッド殿下は潔く認める。
「だが、君はとても面白い人間だと分かった」
「そうだ」レオナール殿下が笑う。
「俺たち二人を同時に手玉に取った人間なんて、君が初めてだ」
私はしばらく黙って、問いかける。
「……後悔してない?」
二人は一瞬視線を交わし、
そして同時に私を見つめる。
「後悔していない」
「全然、後悔などない」
「……それなら良かった」
私は枕に顔を埋め、くぐもった声を漏らす。
「私も後悔してない。死ぬほど疲れるけど、国が良くなったから」
「それに」レオナール殿下が優しく付け加える。
「俺たちは今、共通の目標を手に入れた」
「共通の目標?」
「君を幸せにすることだ」
アルフレッド殿下は、政務報告をする時と同じく、真剣な口調で言い切る。
「それが、今の俺たち唯一の共通認識だ」
私は顔を上げ、
真面目すぎる左の男と、豪快に笑う右の男を見比べる。
「……もう、二人とも」
「ん?」
「明日の朝会、遅刻しないで。
それと、輪番表は私が改訂した。
日曜は完全休暇にする」
「「え――?」」
「女王命令だ」
「「畏まりました」」
――ディトラ伯家第三女、レティウ。
現在はこの国の女王、兼、永久の仲介役。
統治理念:二人の男を忙しくさせれば、国は安泰である
恋愛事情:月水金・火木土は夫二人の番、日曜は完全休息
唯一の願い:もう一日、休みが欲しい。
要不要我再做一版更短、对话密度更高的压缩版?




