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断罪された悪役令嬢ですが、恋を病気として治療される世界が間違っていると思います 〜愛するほど壊されるなら、私は悪役のままでいい〜  作者: はねださら


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1/6

第1話 その断罪は、愛から始まった

この世界では、

恋は「美徳」ではありません。


誰かを強く想うこと。

失いたくないと願うこと。

それらはすべて――

社会を乱す“病”として、治療の対象になります。


これは、

断罪された悪役令嬢が

「正しく治されていく」物語です。


そして同時に、

その正しさが、

どれほど多くのものを壊してきたのかを

知ってしまう物語でもあります。


※シリアス寄り/恋愛重視

※ゆっくり真実が明らかになります

 大理石の床は、やけに冷たかった。

 素足に伝わる感覚が、まるで自分がもう「ここに属していない」ことを教えてくるみたいで、アリアはわずかに息を整えた。


 ――落ち着きなさい。


 何度も自分に言い聞かせた言葉だ。

 ここは王城の大法廷。幼い頃から何度も訪れ、式典や祝賀の席で拍手を送ってきた場所。その中央に、今日は「被告」として立っているだけ。


 視線が突き刺さる。


 貴族たちの好奇と安堵が混じった目。

 平民席からは、囁き声が波のように広がっている。


「――これより、アリア・エル=セリスに対する断罪治療裁判を執り行う」


 その声が響いた瞬間、法廷の空気が一段冷えた。


 声の主を、アリアは見上げる。

 壇上に立つ青年――レオンハルト・ヴァルツ第二王子。


 整った金髪に、曇りのない蒼い瞳。

 かつて、彼女が未来を共にするかもしれないと噂された人。


 その瞳が、一瞬だけ揺れた。


 けれどすぐに、王子としての仮面が戻る。


「被告アリアは、聖女候補エリナ・リュミエールに対し、継続的な精神的圧迫を与えた疑いがある」


 ざわめきが広がる。


 アリアは唇を噛んだ。

 反論の言葉は、喉の奥で絡まり、形にならない。


 圧迫?

 ――ただ、話しかけただけだ。

 作法を教え、迷っていた彼女に助言をした。それだけ。


「被告は自覚なく優位性を誇示し、結果として周囲に不安と歪みを生じさせた」


 それは罪なのだろうか。

 努力して身につけた知識も、立ち居振る舞いも。


 レオンハルトは続ける。


「よって、被告を《治療対象》と認定する」


 治療。

 その言葉が、胸に落ちる。


「これは罰ではない」


 彼の声が、少しだけ柔らかくなる。


「心の歪みを正し、被告を――本来あるべき姿に戻すための措置だ」


 アリアは思わず彼を見つめた。


 その目に宿っていたのは、確かな苦悩だった。

 冷酷な裁定者ではない。

 まるで、愛しい人を救おうとする人の顔。


 ――どうして、そんな目をするの?


 問いかけは、声にならなかった。


「被告、何か申し開きは?」


 形式的な問い。

 答えは、もう決まっている。


 それでもアリアは、一歩前に出た。


「……私は」


 声が震えた。

 それでも、背筋を伸ばす。


「誰かを傷つけるつもりは、ありませんでした」


 法廷は静まり返る。


「もし、それが罪だというのなら……私は」


 何を言えばいい?

 正しい言葉が、分からない。


 レオンハルトと目が合う。


 彼は、ほんのわずかに首を振った。


 ――言わなくていい。

 そう、言っているみたいだった。


「……以上です」


 アリアは口を閉ざした。


「判決を言い渡す」


 王子が告げる。


「被告アリア・エル=セリスは、即日身分を停止。治療院へ移送され、段階的な断罪治療を受けるものとする」


 木槌が鳴る。


 その音が、何かを完全に終わらせた。


 拘束の魔法陣が淡く光り、足元に広がる。

 警吏が近づき、アリアの腕に手を伸ばす。


 その瞬間だった。


「――アリア」


 小さく、しかし確かに、彼女の名を呼ぶ声。


 レオンハルトだった。


 公式記録には残らない、私的な呼び方。

 婚約の話が出た夜、彼がそう呼んだのを思い出す。


「大丈夫だ」


 彼は、誰にも聞こえない声で言った。


「必ず、元に戻る」


 ――何が?


 自分?

 それとも、この世界?


 問いを投げかける前に、アリアは連れ出される。


 法廷の扉が閉まる直前、振り返った彼女の視界に映ったのは。


 安堵の表情を浮かべる貴族たちと、

 そして――涙を浮かべながらも微笑む、レオンハルトの姿だった。


 その微笑みが、なぜか胸を締めつける。


 これは罰じゃない。

 治療なのだ。


 そう、彼は言った。


 ならどうして、

 こんなにも――


 胸が、痛むのだろう。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に2話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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