婚約者の好みと価値、私の好みではありませんが妥協します(番外編)
こちらの作品は『婚約者の好みと価値、私の好みではありませんが妥協します』の番外編になります。先にそちらから読んで頂く事を推奨します。一番下にリンクが貼ってあります。
※それとネタバレになりますが百合要素がありますので苦手だと思った方は読まないで下さい。苦手な人の事も考慮し、番外編を読まなくても本編と結末は変わらないようになっております。
それでもオッケーな方は是非どうぞ!
サリー・ルージュ伯爵令嬢は婚約者であるクラウド・ストン伯爵令息と自身の好みについて、そして今後の婚約者としての立ち振る舞いについての話をした日から数日後、とあるパーティーに参加していた。婚約者であるクラウドと共にパーティー会場に入場後、サリーとクラウドの知人達は令息同士、令嬢同士で集まって話をする流れとなったのでサリー達もそれぞれ分かれて話をしていた。
「本当に羨ましいですわ、ストン伯爵令息の婚約者になれるなんて…。」
「本当ですわね! ストン伯爵令息の婚約者になれただなんて!」
クラウドはサリーの好みではないが、中性的な美青年で女性にとても人気がある。令嬢達はただ要望を言っているだけなのか、サリーへの嫉妬を含ませているのかは分からない。サリーはただ愛想笑いを浮かべて否定だけはしないようにした。暫く令嬢達と会話していると、気分転換をしたくなったサリーはテラスに出て涼む事にした。。
「ふぅ…。」
会話の最中で嗜む程度に飲んでいたワインの効果か、サリー身体が少し火照っている。外の風はとても心地よいと感じていた。サリーは涼みながらクラウドとの事を考えた。クラウドとの話し合いの後、クラウドは気不味そうに、どこかぎこちなさそうな雰囲気でサリーと接するようになった。サリーはそんなクラウドに気を遣うつもりは全くなかった為、何も言わずに当たり障りなく接した。正直に言えばサリーはクラウドの事を嫌いになっていた。けれどその事を表には出さず、仕方がないと妥協して過ごしていた。
「…ルージュ伯爵令嬢。」
ぼっーとしていて背後に誰かが来ている事に気が付かなかったサリーは驚いて後ろを振り向くと、クラウドの好みの容姿を持つ、華奢で可憐な伯爵令嬢であるサファイア・アクアが居た。
「アクア子爵令嬢…。」
サリーとサファイアは今までお互いに会話をした事はなく接点なんてなかった筈だ。何も言わず、そして挨拶をする様子を見せないサファイアに、サリーは不信感を抱きながらサファイアが何を言うのかと待った。暫くするとサファイアは意を決した様子でサリーを見た。
「ルージュ伯爵令嬢っ! ストン伯爵令息と結婚しないで下さいっ!!」
サファイアの言葉に、サリーは何も言い返せずに呆然とした…。
◆◇◆
「ルージュ伯爵令嬢…この度は、ほ、本当にご迷惑をお掛けして、も、申し訳ありませんでしたぁ!」
パーティーがあった翌日、サファイアはルージュ伯爵家の応接室にて、向かい側に座るサリーに深く頭を下げて謝罪していた。サファイアは昨日ルージュに結婚しないで欲しいと言った後にふらついて倒れてしまったのだ。慌てたサリーがサファイアを抱き起こすと、酒に酔って眠ってしまっている事が分かった。事を公にして騒ぎ立てるのは良くないと判断したサリーは、パーティー会場にいる執事に事情を話し、サファイアをアクア子爵家の馬車に乗せたのだった。サリーがパーティーが終わって帰宅すると、アクア子爵家から迷惑をかけた事への謝罪とお礼の手紙が届いていた。手紙には後日、サファイア本人に謝罪させて欲しいと書いてあったので、サリーからもそれを了承する返事を書いた。そして本日、サファイアが謝罪の為に伯爵家を訪ねてきたのであった。
「いえ、身体は大丈夫なのですか?」
「は、はい! 私、お酒にとても弱くて普段から気をつけていたのですが、昨日は間違えて度数の高い物を飲んでしまったらしくて…。」
「そう。」
恥ずかしそうに、心の底から申し訳無さそうに話すサファイアは、同性のサリーから見ても庇護欲を唆るような可愛らしい令嬢だと思わせた。パーティーでの出来事をサリーは焦りはしたが、迷惑だとは思っていない。だがしかし、聞いておかなければならない事があった。
「アクア令嬢。昨日の事を覚えているかは分かりませんが、質問しても宜しいですか?」
「…ストン伯爵令息と結婚しないで欲しい、と言った事…ですよね?」
サリーの聞きたい事を理解している様子のサファイアに、サリーは頷いた。
「アクア令嬢は、クラウドの事が好きなのですか?」
疑問系で質問しているが、サリーとしてはサファイアがクラウドを慕っているからサリーに嫉妬しているのだと思っている。サリーとクラウドの婚約は政略結婚を目的としている為、サファイアの要望には応えられない。けれどサファイアに好意を抱いているクラウドが知れば喜びそうだと、サリーは内心で皮肉げに笑った。
「違いますっ!!」
しかしサファイアは、はっきりとクラウドへの好意を否定した。サリーは驚き、目を丸くした。
「…では、なぜそんな事を言ったのですか?」
「それは……。」
サファイアは俯き黙り込んでしまう。サリーはやっぱり、サファイアはクラウドの事が好きなのではないかと思い始める。サファイアは俯いていた顔を上げた。
「…わ、私はすでにルージュ令嬢にご迷惑をお掛けして、結婚をするなと無礼な発言をした立場です。し、正直にお話します…。」
サファイアは手を震わせて、顔色を悪くしている。サファイアの様子にサリーは流石に心配になり、声をかけようとした。
「わ、私はっ、ルージュ伯爵令嬢の事をお慕いしておりますっ…!」
サファイアの告白に、全く予想していなかったサリーはポカンッ、と呆けてしまった。
「き、急にこんな事を言って、き、気味が悪いですよね…ご、ごめんなさい。」
悲しそうなサファイアの姿にはっ、としたサリーはサファイアの告白に戸惑いながらも何とか口を開いた。
「わ、私の何処に慕う要素があるのですか…?」
サリーは口に出した後に、自分は何を聞いているのかと後悔した。しかしサファイアはポカンッと呆けた後、心なしか瞳をキラキラとさせながら口を開いた。
「ルージュ令嬢はとてもお美しくて素敵です!! 私にはない妖艶な魅力、堂々とした佇まい…私が持ち得ない全てがもう、本当にたまりませんっ!!」
「なっ…。」
サファイアからの褒め言葉に、サリーは思わず頬を紅く染める。サファイアの様子から、お世辞ではなく本心で言ってくれているのだとサリーは感じた。何も言えずにいるサリーの様子に気がついたサファイアは、途端に勢いをなくし縮こまってしまった。
「す、すみませんっ! あ、あの…どのような罰も受けます。で、でも私の事が気味悪くても、その…直接言わないで貰えないでしょうか、その…立ち直れなくなりそうで…。」
「っ…。」
サファイアは再び顔色を悪くさせて俯いてしまった。サファイアは恐らくサリーを、そういう意味で慕っているのだろうとサリーは思った。正直、サファイアの想いはサリーにとても衝撃を与えている。気持ちの整理がつかないサリーは、サファイアとどう向き合えば良いのか分かった訳ではない。けれど、
「…顔を上げて下さい、アクア令嬢。正直とても驚きました。でも、褒めて頂けたことはとても嬉しいわ。有難う。」
サリーを慕っていると褒めてくれた言葉はとても嬉しかった。そして本心であれ何であれ、自分を批難する言葉を直接言われればどれだけ不快かをサリーは身を持って知っていた。なのでサファイアの要求に共感しながらサリーは微笑んだ。サファイアは顔を上げて、涙を流し始めた。
「うぅっ…ごめんなさい。わ、私、ルージュ令嬢がストン令息の婚約者になったと知って、ずっとショックで…っ、。昨日のパーティーで、お二人が一緒に居る所を見て、耐えられなくなってしまって、それで、思わずお酒飲んじゃって、それで…それでっ…うわぁぁんっ!!」
「そうだったのね…。」
声を出して泣き出したサファイアに、サリーはハンカチを差し出した。酒に酔って婚約するなと宣言したり、サリーの事を熱く語ったり、小さな子供のように泣くサファイアは、外見の可憐さとは反対に豪快な印象をサリーに与えた。しかし、サリーはそんなサファイアがとても魅力的で可愛らしいと思い笑ってしまった。
「…うぅ、あ、ありがとうございます。」
サリーからのハンカチを大事そうに受け取ったサファイアは涙を拭く。そして少し落ち着いたのか、恐る恐るサリーを見た。
「あ、あのぉ、重ね重ねすみませんが、私がルージュ令嬢をお慕いしている事は、他の方には秘密にして頂けないでしょうか? わ、私の悪評は家にも影響を与えてしまいますので…ど、どうか!」
「勿論よ、誰にも言わないわ。その代わりに2つ、お願いがあるの。」
頼まれなくてもサリーは秘密にするつもりだった。貴族社会における影響もあるが、それとは関係なくサファイアが周りから悪く言われる事は、サリーも望まない。サファイアが安心したように頷くのを見て、サリーは笑う。
「まず、私の事はこれから名前で呼んで頂戴。私もサファイア嬢と呼ばせて欲しいわ。」
「っ〜〜、は、はいっ!! サ、サリー様!!」
お互いを名前で呼ぶ。それは友人になろうというサリーからの誘いだった。サファイアは目を丸くし頬を染め、とても嬉しそうに頷いた。
「それともう一つ、私の愚痴を聞いて欲しいの。勿論、誰にも言わないと約束してね?」
「っ! は、はいっ! 勿論ですっ!」
サリーの秘密を守るかわりにサファイアの秘密も守る。その意図を理解して益々サファイアは嬉しそうに頷いた。
「私ね…クラウドの事が好きじゃないの。」
サリーの言葉にサファイアは目を丸くした。サリーはクラウドの好みがサファイアである事は秘密にして、クラウドと話した全てをサファイアに話した。
「っ、な、何ですかそれ…。あり得ない、最低ですよっ!! サリー様に自分の好みに近づけだなんて…一体何様なんですかっ!! あのクソ…クラウド・ストン伯爵令息はっ!!」
「ふふっ、有難う。そう言ってくれて嬉しいわ。」
サリーの予想通り、サファイアはクラウドに対して激しい怒りを向けてくれた。自分の為に怒ってくれるのは素直に嬉しいとサリーは思い、とても気分が良くなった。
「ストン令息って、きっと自分の容姿がとても自慢で満足してますよね。確かに美しいとは思いますし、社交界でも人気はありますけれど…サリー様も、そして私にとっても好みではありませんので調子に乗らないで欲しいですっ!!」
「…っ! ふふっ、ええ、そうね。」
サファイアは気が付いていない。もし今の言葉をクラウドが聞けば相当のダメージを負うのだと言う事を。婚約者のサリーと、好みの女性であるサファイアの2人から好みではないと評されたクラウドに、サリーは愉快だと思う気持ちと哀れだと思う同情心が湧いた。この事をクラウドに言うつもりはないし、この婚約が変わる訳ではないけれど、サファイアとの会話でサリーの心は少し軽くなったのだった…。
番外編の需要がどこまであるのかは分かりませんが、楽しんで頂けたら光栄です。本編の感想で、サファイアがクラウドの容姿を好んでいなかったからどうなるか、というような意見を拝見しまして面白そうだと思い書いてみました。本編で出たクラウドの友人を好みのタイプにしようかと思ったのですが、友人のモテモテストーリーにするのはなんだかなぁ…と思いまして、百合方向にして主人公であるサリーが好みだという事にしてみました! 百合と言われる程の絡みはありませんでしたが、人によっては苦手だったり、イメージが壊れるのが嫌だという読者もいると思いまして本編に影響を与えない番外編として書きました。ざまぁが物足りないと感じる方もいたかもしれませんが、あくまでオマケ程度の話だったという事でご勘弁下さいm(_ _)m
ここまで読んで頂きありがとうございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




